目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第一章 第七話 土井竹郎の市街地ステージのミノタウロスでの戦い

 土井は、朝起きると空腹の為、巣の外へ出た。昨日の内に三回目の模擬戦をして、ヨロイも手に入れていて、その後の戦闘訓練も受けていた。しかしながら、三レベルにはアップしなかった。

 それだけでない。折角もらったヨロイも大した防御力もなく、かっこよくもなく、残念なヨロイであった。

 レベルアップしなかったことや、ヨロイがショボい事も物知りミノタウロスに愚痴った。すると、ミノタウロスはレベルが上がり辛いから無理せずに行こうと言われる。しかし、レベルが上がるまで用心しろと言ったのは、その物知りミノタウロスである。とにかく用心するしかないようだ。

 ミノタウロスの巣の外の近くは、民家が立ち並ぶ区域なので、道はあまり入り組んでいない。

 市街地を歩いていると、人間がいたが向こうが勝手に逃げていく。人間を殺したらカルマが悪化するので自衛以外では戦わないつもりではあった。だから、人間の方が勝手に逃げていくのは、別に良いのだが、複雑な気持ちだった。

 しばらく進むとオークの死体が転がっていた。

 大量の矢で射殺されており、手付かずなので人間に殺されたのだろう。そのままオークを食べ始める。

 オークはゴブリンと違い、食べ出があった。食べ終わると巣に帰ることにした。


 巣に帰ると、物知りミノタウロスに模擬戦でもらえるアイテムがないか聞いてみた。答えは、「レベルを上げないとない」だった。安全にレベルを上げたいから、模擬戦がしたかったと言うと、戦闘訓練を受けると良いと言われた。


 戦闘訓練を終えたあと、もう一度市街地へ出た。

 人間のキャラクターだった前回の時、安全地帯の外へ出て探索するだけで安全に経験値が入ると『賢者のアドバイス』から教わった。ミノタウロスでも同じなのだろうか? とにかく分からないことだらけである。

 そこで、土井は民家に入れないか、試してみることにした。

 庭とかある家の門は、普通に開き、敷地に入れたが、建物の玄関はカギがかかっており、開かなかった。

 大分開かないことを確認したあと、玄関を無理やりこじ開けられないか試したくなる。


 ドアノブが付いている家の玄関を見つけると、カギか掛かっていることを確認する。その後、ドアノブをバトルアックスで殴るとあっさり壊れる。そのあたりをニ、三回叩くとドアはあっさり空いた。

 人間だった前回、すべての建物が空き家であることは確認済みであったので、気にせず中へ入る。

 すると目の前の空中にウィンドウが現れる。


『この世界の建物には基本住人はいませんので、ご自由にお使いください。

 ただし、建物の構造によってはモンスターであるあなたには入れないこともあります。

 その場合、備品や壁を破壊したりして、お入りください。ただし、壊し過ぎにはご注意ください。

 建物自体が崩壊することもあります。

 また、あなたがこの建物に入れたという事は、別の個体も入れるということです。

 建物のなかで眠ったりしたら寝首を掻かれることもありますのでご注意ください。

 なお、建物の中にモンスターにとって役に立つアイテムが保管されている場合があります。気兼ねなくお使いください』


 このように書かれていた。

 人間だったころに見たモノと若干違うような気がしたが、同じようなメッセージがあったのを思い出す。


 モンスターに役に立つアイテムってどんなアイテムなんだ?


 土井は、モンスターの役に立つアイテムが何なのか知りたくなり、ランダムにあちこちの建物の玄関をこじ開け中へ入って探索した。しかし、役に立つアイテムは全然見つからなかったが、諦めずに続ける。

 探索する建物を物色していると、矢が飛んできた。

 矢自体はハズレたが、危なく当たるところだった。

 すると矢が飛んできた方を見ると、エルフが五人いた。

 ”反撃可能。反撃可能。反撃の場合、カルマは悪化しません!”

 のメッセージが土井に聞えた。

 土井は臨戦態勢を取り、盾を構える。

 さらに矢が三本飛んできたが、二本は盾ではたき落とした。しかし、一本は肩に命中してしまう。そこに、もう一本矢が飛んできたが、ハズレた。

 ミノタウロスであっても矢が当たると痛いが、何とか我慢できた。

 次の矢の準備をしているところに土井は間に合い、バトルアックスでエルフの頭を殴るとあっさり倒れた。

 また、一本矢が飛んできたので、盾で防ごうとした。しかし、盾で防げず土井に当たる。

 土井は手近にいたエルフの頭にバトルアックスで殴る。あっさり命中し二人目を倒した。

 二本の矢が飛んできたが、一本はハズレ、一本は盾で弾いた。

 そして、また一本矢が飛んできたが、盾で弾いた。その後、もう一人のエルフの頭を打ち砕いた。

「ダメだ逃げるぞ」

 エルフの一人が叫んだ。

 ”反撃不可能。反撃不可能。相手は戦意を喪失しております!”

 二人のエルフは逃げていく。


 なんだったんだ。あいつら。


 ミノタウロスになって初めて倒したのはエルフであった。今までずっと誰かが倒したモンスターを食べただけだった。

 土井は、エルフを食べると、負ったダメージも回復し、さらに腹いっぱいになった。

 念のため、ゲーム端末を出し、画面を見る。

 カルマゲージは、もちろん良くはなっていないが、特に悪くなっていなかった。

 反撃可能のメッセージが出て、反撃不可能のメッセージを聞くまでの間なら、人間でも倒して大丈夫と言う事だと、土井は理解した。

 ついでにレベルをチェックすると三レベルにアップしていた。


 土井は、ミノタウロスの巣に戻ると、早速、物知りミノタウロスに新しい武器が手に入らないか聞く。新しい武器と盾が手に入るが、ヨロイはないと言われた。

 ミノタウロスは防具をあまり強化できないのだ。


 土井は、武器をもらう模擬戦と盾をもらう模擬戦をしたあと、戦闘訓練を受ける。

「レベルアップしたばかりで、武器も新調すると強くなったと錯覚しがちだ。レベルアップと武器の強化で強くなっているのは事実だ。だが、自分で思っているほど強くなっていないからな」

 物知りミノタウロスは、アドバイスする。

「身も蓋もないアドバイスだな」

「今まで通り、慎重に行動していれば大丈夫のはずだ」

 物知りミノタウロスは励ます。

「建物の中に、モンスターの役に立つアイテムがあると情報を入手したんだけど、詳しい事知っているかい?」

「詳細はまだ明かされていない。ただ、特定の建物に保管されているわけではなく、建物に入ったタイミングでランダムで置かれるらしい」

 土井は、あっけにとられる。明らかにゲーム的なルールである。

「それじゃあ、片っ端から中に入ってみるよ」


 土井は、市街地に出かけ、中に入っていない建物の玄関を破壊しては、中に入っていた。

 すると、ゴブリン五体と遭遇する。

 ゴブリンは大して良い装備をしていなかった。土井は迎え撃つことにした。

 バトルアックスでゴブリンの頭を狙うと、あっさり命中し倒す。何レベルのゴブリンなんだろうと、思いながらも二体目のゴブリンへ攻撃する。残りのゴブリン三体が一斉に反撃してきた。二撃は盾で弾いたが、一撃は脇腹に受けてしまう。

 反撃でまた一体のゴブリンの頭に攻撃を命中させる。

 残り二体のゴブリンは逃げ出した。

「どうせ五匹も喰えないから良いか」

 土井は逃げたゴブリンを見逃す。


 倒したゴブリン三体を食べると、ダメージを完全に回復するだけでなく、腹いっぱいになる。

 物知りミノタウロスから聞いた「腹いっぱいの時は、無理しないのも大事だぞ」と言う言葉を思い出し、一旦巣に帰ることにする。

 すると、進行方向からオーガー一体がやって来た。

 土井は先制攻撃をすると、あっさり命中しダメージを与えられたので、倒せそうだと感じた。その時である。背後から突然殴られる。

 オーガーは一体ではなく、もう一体おり、背後から襲い掛かってきたのだ。

 土井は、オーガーの攻撃を盾で受け、バトルアックスの攻撃を当てる。

 しかし、オーガーは二体であり、土井が一回攻撃するところ、向こうは一体で一回ずつ、二回攻撃してくる。オーガー二体の攻撃に、徐々に体力が削らていく。

 土井は善戦したが、二対一で不意打ちも食らったため、あえなく倒れた。

 土井は、魂が肉体から離れたような感じになり、自分の死体を眺める格好になる。

 二体のオーガーは、土井の体を仲良く分けて食べ始める。

「チクショウ。卑怯者め!」

 土井の声は二体のオーガーには届かない。


 卑怯はこのゲームで生き残るために必要なことだ。



 土井は再びお花畑に戻ってきた。

 どことなく違和感を覚えた土井は、天野がいないことに気付く。

「なんで、あんな奴がいなくて違和感を覚えるんだ」

 土井は独り言で愚痴を言う。

 とは言え、一度気になり始めるとずっと気になるモノである。顔見知りの警備員を見つけると話しかける。

 ちなみに土井は、警備員が鬼であることを知らない。土井だけに限らず、お花畑中に居る霊たちのほとんどが知らない。

「俺にいろいろ話しかけてきてた奴を覚えているか?」

 土井が話しかけると、警備員姿の鬼は、少し戸惑う。

「ああ、思い出した。あなたと一緒にいたゲーム端末をとても欲しがっていた人の事でしょ」

 鬼はさすがに、『穢れが見れる人』とは言えないので、少し言葉を選んで言った。

「覚えていますよ」

 鬼はニコリとして答えたので、土井はちょっとホッとする。

「どこ行ったか知らないか?」

 警備員姿の鬼は少し考え込む。

「ゲーム端末を非常に欲しがっていたので、どこかで入手できないかと探しに行ったのだと思います」

 そう言うと、警備員姿の鬼は、溜息を吐く。

「警備員に迷惑をかけるなんて悪い奴だね」

 土井は冗談交じりに言う。

「迷惑だなんて……ただ、あの方は、自分が後回しにされる理由が分かっているはずなのに」と、思わず愚痴が出る。

 鬼の愚痴を聞き、どういうことかと思った。

 ゲーム機が配られる順番に何らかの理由があるのかもと、思い至る。実際、天野は、ケンカしていた人を優先して配っていると言っていた。

「それはどういうことだ?」

 土井は思わず問いただすと、鬼は苦笑いを浮かべる。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?