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第一章 第六話 土井竹郎の三回目のチャレンジ

 土井は再びお花畑に戻ってきた。

 天野が鬼の警備員にゲーム端末がもらえないか、聞いていた。警備員は「もうしばらくお待ちください」と言っているのを見て、複雑な気持ちになった。

 せっかく人助けカウントが八回になり、もう少しで市街地ステージがクリアだったのに、悔しさでいっぱいだ。

 市街地ステージをクリアできていれば自慢できたのに。

「あ、土井さん。お帰りなさい。土井さんは、市街地ステージとダンジョンステージのどっちのステージだった?」

 土井は、能天気な天野が憎らしく感じられた。

「うるさい」

 そう言うと、土井は三回目のチャレンジをする。

 早速キャラクターメイキングをしようとし、種族を選ぶ画面になったところで、フッと思った。

 先ほど土井を殺したゴブリンが「襲われたから、俺は反撃しただけ、正当防衛だ」と言っていたことを。



 一度モンスターを経験しておいた方が、モンスターの対処法が学べるんじゃないか?



 そう思った時、種族メニューで『モンスター』を選んだ。すると、モンスターメニューになっていた。

『オーク』

『ミノタウロス』

『オーガー』

『ゴブリン』

『コボルト』

 の項目があった。


 これって、市街地に現れるモンスターと同じじゃないか。それじゃあ、市街地に現れるモンスターもゲームプレイヤーだったのか!


 土井は驚愕な事実に気付いた。


 今までの経験で一番怖かったのはミノタウロスだ。ミノタウロスにしよう。


 次はクラスメニューが表示された。

『戦士』

『闘士』

 の項目しかなかった。

「戦士と闘士って何が違うんだ?」

 想定外のメニューに土井は戸惑う。

「戦士は武器を使うクラスで、闘士は肉体が武器のクラスだね」

 天野が説明した。

「どっちが良いんだよ?」

「僕はプレイしていないからね。人から聞いた話だけど、戦士の方が生存確率が良いらしい。本当かどうかはわからないけどね」

 天野は知っていることを言った。

「当てにならないな」

「ゲームは、情報集めが重要だけど、情報が正しいかどうかは自分で確かめないとダメなんだよ」

 土井は、戦士を選ぶ。すると土井はお花畑からいなくなる。

「やっぱり、クラスを選ぶと消えるのか」

 天野は残念そうに言った。



 土井は、地面と天井だけが延々と広がっている、亜空間に居た。前回と同じである。

 ”ゲーム内では、ゲーム内だけの名前を使っても良いですし、本名をそのまま使っても良いですがどうしますか?”

 ゲームシステムから問いかけられる。

「モンスターでも同じなんだ。今回もタケオで頼む」

 しばらく沈黙が漂う。

 ”ゲーム名、『タケオ』で登録いたしました”

 ”三回目のチャレンジも市街地ステージからスタートします”

 ”善行を行うとカルマが良くなり、カルマゲージは青が広がります” 

 ”悪行を行うとカルマが悪くなり、カルマゲージは赤が広がります” 

 ”ステータス画面のカルマゲージの全体が青くなると市街地ステージクリア、真っ赤になるとゲームオーバーとなります”

 ”次に注意事項を説明します”

 ”人間を攻撃するとカルマが悪化します。ただし、自衛のための攻撃つまり反撃はセーフです”

 ”ちなみに、人間とはヒューマンだけでなく、エルフ、ドワーフ、ノーム、フェアリーも含まれるのでご注意ください”

 ”モンスターを攻撃するとカルマが改善します”

 ”攻撃を受けダメージを受けるとカルマが改善します”

 ”他の生き物を殺さないと食料が得られません。また、他人が生き物を殺した場合でも食料にできます”

 ”カルマゲージは毎日リセットされますが、前日の結果で青くなりやすくなったり、赤くなりやすくなったりします。つまり前日の結果は無駄になりません”

 ”ちなみに前回と異なる種族を選んだので、前回とは同じフィールドでのスタートとなります”

「同じフィールドって同じマップと言うことだろうか?」

 ゲームシステムは答えない。

 ”ゲームをスタートしてもよろしいですか?”

 土井は溜息を吐く。

「ああ、スタートしてくれ」

 土井がそう言うと、視界が真っ白になり、何も見えなくなる。


 土井はゆっくり目を開くと、洞窟のような場所に出た。

 建物の部屋の中でないので、土井は拍子抜けする。


 これで市街地ステージなのか?


 土井の疑問ももっともである。土井が今いる場所は洞窟の中だ。市街地にあるようなモノではない。

 そして、周りを見ると自分以外にもミノタウロスが大勢いて驚く。

 土井は、ダンジョン内を見回したあと、探索をすることにした。

 歩いていると突然近くのミノタウロスが殴り合いを始めた。気が付くと戦闘に巻き込まれていた。


 しばらく逃げ回っていたが、ケンカが治まったときには、土井は大ケガをしていた。そして近くに数体のミノタウロスが死んでいた。

 他のミノタウロスが死体を食べ始めていた。

 モンスターの食料は戦闘に敗れて死んだ者の肉体が食料なのだ。

 前回のゴブリンに殺された後、自分の死体をミノタウロスが食べていたのを思いだす。そして、ミノタウロスの死体を見て、お腹が減って来るのを感じる。そして、美味しそうに見えた。

 土井は誘惑に勝てず、ミノタウロスの死体を食べる。すると、戦闘に巻き込まれて負った大ケガ治って行く。

 空腹を満たし、傷が治ることから、死体を食べることに罪悪感などが薄れる。


 このゲームはこういうゲームなのだ。


 土井は引き続き、洞窟内を探索することにした。

 しばらく、見て回っていると、一体のミノタウロスに話しかけられる。そのミノタウロスは物知りミノタウロスと呼ばれるいろいろ教えてくれるミノタウロスだった。

「どうしたんだい。しけた面して」

 物知りミノタウロスが言った。

「武器はどこでもらえるんだい?」

 土井は、戸惑いながら聞いた。

「ここで模擬戦をやるともらえる。模擬戦は体力が続く限り、一日に何回もチャレンジできる」

「それじゃ。武器と盾とヨロイが一日で揃えられるのか?」

「模擬戦を一日で三回できれば揃えられるな。だが、一日に一回以上は食事する必要がある。ヘトヘトだったり、空腹過ぎでも狩りは上手くいかない。そういうのも注意しないといけない」

「なるほど」

「あと、腹いっぱいの時は、無理しないのも大事だぞ。模擬戦は実戦ほど効率的に経験値は入らないが、安全に経験値が入る。模擬戦の活用もレベルアップで必須だ」


 早速、模擬戦をやることにする。

 モンスターなら簡単にレベルが上がると思っていたが、想像していたより楽ではないと分かる。


 まず、武器から手に入れた方が良いとのアドバイスを受け、武器をもらうための模擬戦をする。

 両手用のバトルアックスと片手用のバトルアックスのどちらが欲しいか聞かれたので、盾も欲しいと答えると必然的に片手用になる。すると片手用のバトルアックスを渡される。

 いかにもCGと言う感じの青いミノタウロスが現れ、戦闘が始まる。

 土井の攻撃がCGの青ミノタウロスに当たると当たった個所が赤くなる。青ミノタウロスの攻撃が土井に当たると、当たった個所が赤くなる。色が付くだけで痛みはなかった。

 五分ほど戦うと、五分間の休憩になる。その休憩中に、「敵の動きをちゃんと見ろ」などの戦闘のアドバイスをされる。

 五分間の休憩が終ると、再び青ミノタウロスが現れて、再び戦闘が始まる。


 モンスターのキャラクターになるとこんなに丁寧に戦闘訓練をしてもらえるのだ。強くなって当たり前だよ。それに引き換え、人間キャラクターのプレイヤーは、安全地帯でじっとしているだけだ。強くなれるわけがない。


 土井は、バトルアックスがもらえる戦闘訓練が終ると、物知りミノタウロスにレベルの確認を毎回するようにアドバイスされる。

 土井は、素直にレベルを確認すると、二レベルだった。

「レベルが上がった。武器もらったばかりなのに、新しい武器をもらわないとダメか?」

「いやいや。模擬戦する前から二レベルだったぞ」

 物知りミノタウロスは呆れ顔で言った。

「でも、模擬戦以外に経験値が入るようなことやっていないぞ」

「お前、ケンカに巻き込まれて逃げ回って居ただろ。そのケンカで死者も出ている。その経験値も、で頭割りされている。それに加えて逃げ回った経験値がプラスされてレベルアップしていたんだ」

 物知りミノタウロスは丁寧に教える。

「なるほど」

「今回はたまたまうまく行っただけ、自分から巣の中でケンカをしようなんて考えるなよな」

 土井は苦笑いする。

 とてもそんな発想はできない。


 土井は引き続き、模擬戦をすることを選ぶ。今度は盾かヨロイが欲しいと言うと、盾を先に手に入れた方が良いとアドバイスされたので、盾をもらうための模擬戦をすることにした。

 模擬戦のやり方はバトルアックスをもらった時と同じだった。


 無事模擬戦が終り、盾をもらったあと、土井は戦闘訓練を受けた方が良いと、物知りミノタウロスにアドバイスを受けたので、アドバイス通りすると、腹が減ってきた。

「戦闘訓練を受けた後は、戦闘をしたくなるものだが、レベルが低い間は、無理をしない方がいい。すでに戦闘が終わって負けた方の死体が転がっていることもある。自分で倒す必要はない。転がっていない場合は仕方ないがな」

 洞窟内を一通りみてまわったあと、出口を見つけ外へ出てみる。

 すると、そこは民家が建ち並ぶ市街地だった。


 やっぱり、ここは市街地ステージだったんだ。ミノタウロスの巣がたまたま洞窟みたいなところなわけだ。


 土井は、ミノタウロスの巣から近い場所を一通り探索することにした。

 ミノタウロスの巣から近いだけあって、人間やゴブリンなどもいなかった。レベルが低いとはいえ、ミノタウロスである。あまり慎重になり過ぎずに、それでいて、徒党を組んている一団がいないか注意しながら進んだ。



 しばらく進むと、二車線に歩道が通りの両側に付いている道の真ん中にゴブリンの死体が五体あった。

 見通しの良い場所にこれ見よがしにあるのは気になったが近づいてみた。

 近づいてみたが特に何も起きなかったので、ゴブリンの死体を一体食べる。

 十分、空腹は紛れたが、腹いっぱいではなかったので、もう一体食べ始める。食べている途中で矢が飛んできた。周辺を見回すが、どこから飛んできたのかわからなかったが、二射目三射目が飛んできた。


 これでは、罠だったのか、偶然かわからないじゃないか。


 土井は、喰いかけの死体ともう一体の死体を担いで逃げ出す。

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