目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第一章 第五話 土井竹郎の市街地ステージの受難

 土井は、ダメージを負って、安全地帯へ駈け込んだ。

 土井は、ゴブリン五体に追われていたのだが、ギリギリ安全地帯へ逃げ込む。

 ゴブリン達は土井を見失い安全地帯の近くをウロウロする。しかしながら、運が良いのか安全地帯に近づく気配はなかった。

 安全地帯のメンバーが土井に注目する。

 珍しくドワーフ三人組もいた。この三人組は、飯の時間と寝る時間だけ、戻って来るだけで、それ以外はほとんど安全地帯に居なかった。その為、土井がこの安全地帯に来てから七日目になるが、こんな時間に安全地帯で会うのは初めてだった。

「よう。元気にしていたか?」

 ドワーフ三人組の一人、ションが聞いた。

「一応」

「ちゃんと安全地帯の外を探索しているのは新人だけかよ」

 ドワーフ三人組の一人、チェンが悪態を吐く。

「少しはレベル上がったか? レベルはまめにチェックした方が良いぞ」

 シュンが言った。

 土井は、素直にレベルをチェックする。

「あ!」

 土井は思わず感嘆の声を上げる。

「どうかしたか?」

 シュンが聞いた。

「四レベルにアップした」

「安全地帯に来て何日目だっけ?」

「七日目かな」

「それは大したもんだ。安全地帯にずっと籠って一レベルのままの奴よりましってもんだ。なあ、クリス」

 シュンは嫌味で言った。

「俺も二レベルに上がったばかりだ」

 クリスがそう言うとシュンは驚く。

「なんだと。お前いつの間にレベル上がったんだよ」


 先日、土井とシンとクリスの三人で、安全地帯の近くの家で玄関の鍵開けをして、家の中を探索したときにレベルアップしていた。


「俺だってやるときはやるの」

 クリスは得意げに言った。

「タケオに頼まれて、鍵開けしただけじゃん。俺も一緒に行ってレベル上がったけどね」

 シンが口を挟む。

「タケオって誰?」

 シュンが聞いた。

「俺のことだよ」

 土井が苦笑いしながら言った。

「お前は見所あるな」

 シュンはそう言うと大声で笑う。

「ところで、タケオを追ってきたゴブリンはまだいるか?」

 シュンが聞いた。

 土井は扉を開けると、外にまだウロウロしていた。

 土井は事実を教える。

「だったら、リベンジしないか? 俺達三人と一緒に」

 土井は苦笑いをする。ちょっと断れない状況だ。

「やるよ」

「なら、俺が弓でアシストするよ」

 シンが言った。



 土井達は圧勝した。

「こんなあっさり勝てると思わなかったよ」

 シンが言った。

「なんで楽に勝てたかわかるか?」

 ションが聞いた。

「シンの弓のアシストのお陰で戦いやすかった」

 土井が答えた。

「その通りだな。シンはどう思う?」

「俺は、モンスターが近寄って来なかったから矢を撃つのに集中できたからかな」

「それが連携って奴だ」

「単独では勝てない敵が、チームになると倒せるようになるわけだ」

 シュンが言った。

「お前たちも精進するんだな。俺たちはこのまま出かける」

 チェンがそう言うと、ドワーフ三人組は安全地帯から出かけて行った。




 土井が安全地帯に来てから十日目。

 先日負ったダメージも全回復し、四レベルにレベルアップしたための装備強化も終わっていた。ダメージを負ってから三日間安全地帯で休んでおり、その間、近くの交番へ行くように誘っていた。しかし、応じるメンバーはいなかった。

「タケオは、交番まで行く気なのか?」

 安全地帯を出かけようとしている土井にクリスが聞いた。

「そのつもりだ。モンスターと遭遇しなければ到達できるはずだ」

 『賢者のアドバイス』のノートに『交番は、地域の地図が必ず手に入るので入るべし』と書かれたので、ずっと探していて、やっと見つけた。

 前回は五体のゴブリンに見つかってしまいあえなく失敗した。今度こそ、地図を必ず入手するつもりである。




 土井が発見した交番は、大通りに面していた。

 大通りを突っ切る必要はないが、二十メートルぐらい大通りに沿って歩道を歩く必要がある。見通しが良いから、当然モンスターに発見されやすい。

 土井はドキドキしながら、交番までを足早に歩く。無事交番の前まで到着した。


 交番の入口は、上半分がガラスで中が丸見えである。扉は引き戸になっており、カギはかかっていなかった。土井は、あっさり中に入れた。すると、目の前の空中にウィンドウが現れる。


『交番には、警察官はいません。また、警察官へ助力を求めることもできません。

 重要なことですが、交番の中には、モンスターは入れません。しかしながら、入口は外から良く見えます。その為、交番全体をモンスターに取り囲まれる可能性もありますので、ご注意ください』



 地図を取りに来ただけなのに。一応、交番も一通り見て回った方が良いかもしれないな。



 土井は、探索を始めるとすぐに地図は見つかった。入ってすぐの机の上にあったからだ。地図を手に取ってみると、目の前の空中にウィンドウが現れる。


『地図は一人一枚までしか入手できません。

 共有したい場合は、安全地帯までお持ちください。共有方法は安全地帯で確認してください』


「なるほど。とりあえず、地図を手に入れると良いことがあるっていうのと関係あるかもしれないな」

 独り言を言った。


 土井は引き続き、交番内を探索すると、さすまたが出てきた。さらに調べると、枕と毛布が出て来た。

「地図以外はいらないな」



 土井は、途中、オークと遭遇したが、ゴツイヨロイを身に付けていたので危険と判断し、民家の玄関の影に隠れてやり過ごした。

 それ以外は、特に危険な目に遭うことなく、安全地帯まで帰れた。

「ただいま。疲れた~」

 土井が、安全地帯に戻った一声がこれだった。

「交番には行けたのか?」

 広間で待っていたクリスが言った。

「もちろん。収穫は大きいぞ」

 そう言うと、アイテム等が手に入る台のところまで行く。

「地図を共有したいんだけど。どうしたら良い?」

 土井がシステムに聞く。

「地図を出してください」

 システムの合成の声が言った。

 土井が地図を台の上に置く。すると、安全地帯の広間の壁に大きな地図が表示された。

「地図が共有されました。

 安全地帯の所属者九名、うち、地図を保有していないのは八名。

 よって、人助けカウントを八回増加します」

 土井は急いでゲーム端末を出すと、人助けカウントが八回になっていた。


 これって、とてもチャンスじゃないのか?


 土井は思いがけず、人助けカウントが八回になっていた。つまりあと二回人助けをすれば、市街地ステージクリアになる。

「タケオが言っていた収穫って、この地図の事か?」

 クリスが聞いた。

「その通りだよ」

 土井は、地図が表示された壁の方へ行くと、安全地帯を含むその周辺の地図が表示されていた。しかし、地図を表示するエリアの四分の一しか表示されていなかった。

「これって、俺が入手した地図は全体の四分の一に過ぎなかったのか……」

「ところで、この星マークはなんだ?」

 クリスが言った。

「この星マークが丁度ここだ……」

 そして、他にも星マークが三ヶ所あった。

「この星マークは、安全地帯がある場所なんじゃないか? 一番近い星マークへ行って確かめてみようよ」

 土井が提案したが、皆顔を背ける。

「俺達なら付き合っても良いぜ」

 ドワーフ三人組のチェン、シュン、ションの内のチェンが言った。

「ありがとう。頼む」



 土井とドワーフ三人組は早速出かけた。

 土井のナビゲーションで市街地を進んでいく。五分ほど歩くとゴブリン五体と遭遇する。

「いくぞ!」

 チェンの号令でいきなり、戦闘モードになる。土井はほんの少し遅れて戦闘モードになる。

 ドワーフの三人は、ゴブリンより先に攻撃を命中させる。攻撃を受けたゴブリンは怯む。そこに畳み掛けるように攻撃を命中させる。土井もゴブリン一体に攻撃を命中した。反撃したゴブリンの攻撃を盾で受ける。

 残ったゴブリンも、ドワーフたちが一斉に攻撃し、土井と戦っていたゴブリンもドワーフの三人が片付ける。


「皆さん。すごいですね」

「このぐらいできないと、なかなかレベルがあがらないからな」

 ションが言った。

「これでも歯が立たないモンスターがいるんだ。この程度で満足していられないぜ」

 シュンが言った。

「大体、ゴブリンとコボルト、オークは装備で強さが大体わかる。大したことない装備で個体数が多くなかったら倒す。見かけで判断できないのが、ミノタウロスとオーガーだな」

 チェンが言った。

「ミノタウロスとオーガーと遭遇したら、どうするんですか?」

「少し戦ってみて、ダメなら逃げる」

「えー。その少しの戦いで大ダメージ受けたらどうするんだい?」

「その時は、運が悪かったと諦めるんだな」

 チェンが言った。

「そんな~」

 ドワーフ三人は笑う。



 土井のナビゲーションで地図に星マークのある場所まであと五十メートルのところまで到着した。

「あと、この道を五十メートルぐらい真っ直ぐです」

「新しい安全地帯なら良いな」

 ションが言った。

 四人が足早に歩いていると、横道からミノタウロスが一体やって来た。

「チャレンジだ。行くぞ」

 チェンが言うと、ドワーフ三人はミノタウロスの方へ走る。ワンテンポ遅れて土井も追いかける。

 チェンとシュンとションが一斉に攻撃を仕掛ける。

 しかし、ミノタウロスの反撃の方が速かった。チェンの頭がミノタウロスのバトルアックスの一撃で吹き飛ぶ。土井はそれを見て動きが止まる。シュンとションの攻撃はミノタウロスに命中した。

 さらにミノタウロスの反撃でシュンの首が飛ぶ。ションは攻撃を命中させたが、ミノタウロスはダメージが通っているはずなのに平気にしていた。

 土井は、これはヤバイと思い逃げ出す。逃げるとそちらにもミノタウロスがいた。挟み撃ちだったが、横道に逃げられそうだったので、横道に逃げる。

 背後からはミノタウロスで目の前にはゴブリンである。ゴブリンを倒して活路を見出そうと、攻撃を仕掛ける。

 しかし、土井はゴブリンの袈裟懸けに斬られ、あっさり倒れる。

「襲われたから、俺は反撃しただけ、正当防衛だ」

 ゴブリンは言った。

 土井は、魂が肉体から離れたような感じになり、自分の死体を眺める格好になる。

 土井を倒したゴブリンとミノタウロスは鉢合わせになる。

 ゴブリンは、ミノタウロスを見ながら、後退りして、距離を取り、逃げる。

 土井の死体は、ミノタウロスが食べ始める。

「俺の肉体を喰うなー!」

 土井の声はミノタウロスには届いていない。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?