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第一章 第四話 土井竹郎の市街地ステージでの経験値稼ぎ

 土井は、『賢者のアドバイス』のノートの言う通り、ヨロイ、盾、新しい武器を入手するまで安全地帯から外に出ずに過ごした。

 そして、四日目、ヨロイ、盾、新しい武器を入手した。ちなみに新しい武器は、元の武器を強化したのではなく、新品をもらった。

「装備もそろったし、ちょっと外出してみるか」

 土井がそう言うと、安全地帯の他のメンバーが土井を見る。

「無理して外出する必要はないぜ」

 クリスが言った。

「安全地帯の中だと、武器の素振りもできないじゃない。ちょっと武器の素振りをしてくるだけだよ」

「新しい武器を手に入れたら、使ってみたい気持ちはわかるけどな。一歩でも外にでると、モンスターに襲われる可能性があることを忘れるなよ」

「ありがとう。気を付けるよ」

 土井は安全地帯を出ると、誰も見ていないことを確認すると、リュックから『賢者のアドバイス』を取出し、ページを開く。新しい記事は表示されない。とりあえず、危険は近づいていないと分かる。

 土井は、剣を抜くと、素振りをする。

 『賢者のアドバイス』によって、実際の戦闘程ではないが、安全に経験値を稼ぐ方法を教えられていた。

 その一つの方法が、剣の素振りである。他にも市街地の探索なども経験値が入る。実際の戦闘程危険ではないにも関わらず、確実に経験値が入るとのことだった。


 十分ほど、素振りをしたところで止める。

 次は、安全地帯の周りを探索することにした。素振りにしても、安全地帯の周りの探索にしても、ただの経験値稼ぎの為だけではなかった。

 素振りは、戦闘時におけるプレイヤースキルのアップに繋がるし、安全地帯の周りの探索は、戦闘時に地の利を生かした戦いにつながり、キャラクターの経験値以外にもプラスになる。

 『賢者のアドバイス』と言うタイトルなだけあって、侮れなかった。



 土井は、安全地帯を含む一区画を一回りすることにした。

 周りにモンスターがいないか、キョロキョロしながらゆっくり進む。さっき『賢者のアドバイス』を確認してみたが、何も表示されなかったので、少なくとも大きな脅威はないはずである。だからと言ってもモンスターが出てこないと決めつけることは、土井にはできなかった。

 一つ目の曲がり角までくると、ゆっくりと近づき、モンスターがいないか警戒しながら進む。

 モンスターがいないことを確認すると角を曲がって行く。



 気を張り詰めたまま、なんとか一区画を一回りした。

 たった五分の大冒険であった。しかし土井は、大変な気苦労で疲れ果てた。

 クタクタになりながらも、安全地帯の扉を開ける。

「ただいま」

 土井の様子を見て、クリスが驚く。

「何かあったのか?」

 クリスは心配して聞いた。

「ちょっとその辺を歩き回ったら、気疲れしてしまってね」

 土井は苦笑いを浮かべながら言った。

「ビビるぐらいなら、外出しなきゃいいのに」

 シンが言った。

「まず、この辺の土地勘を身に付けたいと思って」

 土井は言った。

「でも二十六日後には別の場所に移動になっているかもしれないよ」

 シンがからかう様に言った。

「その時は、移動先の土地勘を身に付け直すだけだよ。今回の練習が無駄にはならないだろう」

 土井はそう答えた。

 さすがに経験値稼ぎのために安全地帯の外を歩いているとは言えない。

「なんで土地勘なんて身に付けたいんだい?」

 クリスが聞いた。

「それは当然、戦闘になったとき、逃げたり、隠れたり、いざって言う時は戦うためだよ」

 聞かれたときの為に、そう答えようと予め考えておいた答えを言った。

「良い心がけだけど、戦うのは本当に最後の手段だよ。基本逃げられる時は逃げるんだよ」

 クリスは真面目な顔で言った。

「それで身を隠せそうな場所とか見つかったの?」

 シンが聞いた。

「それが、モンスターが出てこないか、心配になってそれどころじゃなかったよ」




 安全地帯に来てから五日目、朝食よりちょっと前に広間に行き、アイテムがもらえる台へ行き『冒険者グッズ』をくれと言うと、台の扉が開き、ロープや火起こしツール、ナイフ、懐中電灯の入った袋が台の中にあった。


 これはなかなかお得なグッズじゃないか。


「おはよう。早いな」

 クリスが起きてきた。

「今日も、朝ご飯食べたら剣の素振りをしようと思ってな」

「そんなことやって意味あるのか?」

 クリスが怪訝な顔をして聞いた。

「生前は剣なんて振回したことなんてなかったからね。それにほらみてよ」

 土井は、二本剣をクリスに見せる。

「こっちが昨日もらった剣なんだけど、最初にもらった剣より重いんだよ。剣の威力も強くなるけど、重くなる。重くなった分、体力もつけないと使いこなせないって訳だ」

「俺は盗賊でレベルも上がったことないから知らなかったよ。一回目の時は、スタート地点の部屋から出たとたんにオーガーに襲われて速攻で死んだし、今回はショートソードを取ってすぐ部屋を出たら、ゴブリンがいたよ。戦わずに逃げたけどね。でも、そのおかげで今こうして生きている」

 クリスは嬉しそうに言った。

「戦わずに逃げた場合の経験値はどうなるんだろう? それに本当にこのゲームクリアできるのかな」

 土井は思わず、質問を繰り返す。

 そこへ、シンがやって来る。

「おはようございます。朝からどうしたの? 何かあったのかい?」

 シンが聞いた。

「タケオが今日も、剣の素振りをするからなぜなのかなと、理由を聞いていたんだよ」

「それで理由はなんだったんです」

「知りたいか? 当ててごらん。タケオ教えるなよ」

「なんだよそれ」

「スゲーまともな理由だったよ。聞いたら普通に納得する」


 クリスとシンが談笑し始めた為、土井の質問の答えは聞けなかった。しかし、クリスに聞くより、『賢者のアドバイス』に聞いた方が確実だと思い、あえて聞き直さなかった。




 食事を終えた土井は、安全地帯を出て、素振りを始める。

 三十分ほど素振りした後、『賢者のアドバイス』を取出し、戦わずに逃げた場合の経験値はどうなるのか聞いた。

『戦闘に関する行動および逃走に関する行動分の経験値が入る』

 と、書かれた。


 なるほど。それじゃあ、このゲームのクリアについて聞いてみるか。


『ゲームのクリアにはダンジョンステージクリアをする必要がある。ダンジョンステージを攻略するには、まず、市街地ステージをクリアする必要がある。まず、市街地ステージクリアを目指せ』


 そう言えば、このゲームは市街地ステージとダンジョンステージがあるんだったな。ちょっと待て。人助けを十回するとクリアなんじゃないのか?


『人助け十回は、市街地ステージを最短でクリアする方法。市街地ステージをクリアする方法は複数準備されている』


 勘違いしていた。市街地ステージをクリアしたら、ゲームクリアだと思っていたよ。ゲームクリアが余計遠くなったような気がするな。

 市街地ステージをクリアする簡単な方法はなに?


『もっとも簡単な方法は、人によって違う。『簡単な』をもっと丁寧に定義せよ。

 以下に、市街地ステージクリアに繋がる行為を示す。

 ・モンスターと戦う、ダメージを与える、倒す。

 ・人間の為になる行動、親切にする、正しい情報を共有する、アイテムなどを与える。

 以上を繰り返し行い続けることにより、市街地ステージクリアに繋がるが、膨大な回数を行う必要あり。これらの行動だけでステージクリアは難しい』


 マジか~。地道に人助けするしかないのかよ。俺にとってのリスクの少ない方法で、ステージクリアする方法はなに?


『地道にレベルアップをし、モンスター退治しながら、人助けする機会を得よ』 


 結局、簡単な方法はないんじゃないか。

 今度は市街地を探索する上で気を付けた方が良い事はない?


『中に入れる建物あり。中に入って調べて見よ。たまにレアアイテムを入手できることあり。特に交番は、地域の地図が必ず手に入るので入るべし』




 土井は、昨日回った安全地帯を含む一区画を一回りすることにした。今度は建物に注意しながら。

 建物の玄関を調べたり、一軒家の場合、庭に入ってみたりした。アパートの外階段を上ってみたり、建物の裏手に回ると抜け道になっていたりと色んな発見があった。



 前回は五分で通り抜けたルートを寄り道も多く、一時間かけて通った。

 土井は、安全地帯に若干興奮気味で入った。

「ただいま」

「タケオ。なかなか戻ってこないから心配したじゃないか」

 クリスが怒り気味に言った。

「心配かけてすまん。だが、いろいろ探索したせいで時間が掛かった。その甲斐あっていろいろ収穫もあったぞ」

「あまり無理するんじゃないぞ。あと、収穫って?」

「主には、モンスターと遭遇したら、モンスターに見つかる前なら隠れるのにちょうどいい場所とか見つけたよ」

 クリスは顔を顰める。

「モンスターに見つかったらどうするんだよ」

 クリスは聞いた。

「ミノタウロスのような大きなモンスターにみつかったら、ミノタウロスのような大型のモンスターが通れない道に逃げ込むとかね。そう言う道と言うか、戸建ての家の庭だけど、そう言うルートも見つけたよ」

 クリスは「うーん」と唸る。

「なんか泥棒みたいで、他人の敷地の中に入るのは嫌なんだけど」

 クリスの言い分も土井にはわかる。

「でも、この世界の家に人がいるのは安全地帯だけじゃないか。そもそもこの世界はゲーム世界だ。人が住んでいない家は他人の家とか遠慮する必要はないんじゃないか?」

 土井は冷静に言った。

「たしかに、子供の頃プレイしたゲームは、お城の中の宝箱とか勝手に開けて持って行ったりしたよね」

 そう言うと、シンはケラケラ笑う。

「このゲーム、何気にリアルなんで、そう言うところ気になるんだよね。だけど、ここが本当の市街地なら、俺達ゲームプレイヤーのキャラしかいないのは不自然だよな」

 この安全地帯のメンバー、ノームのカルカンが言った。

「そもそも戸締りしている建物の中って見たことある人いる?」

 土井が聞いた。

 場が、シーンと静まり返る。

「誰も建物の中へ入ったことないわけだ。だったら、その辺の家の中へ入ってみないか?」

 土井が提案する。

「おもしろそうだな。クリスは盗賊だったよな。ドアの鍵開けしてみたらどうだ?」

 シンが言った。



 結局、土井と、クリス、シンの三人で近所の家に入ることにした。

 クリスが鍵開けを成功させるまでの十分土井とシンの二人で見張っていたが、モンスターは来なかった。

「それにしても、普通の家の鍵を開けるのは十分もかかるのは時間掛け過ぎじゃないの?」

 シンが言った。

「うるさいな。初めてやったんだからしょうがないだろ」

 クリスがドアを開ける。

 すると三人の目の前の空中にウィンドウが現れる。


『この世界の建物には基本住人はいませんので、ご自由にお使いください。

 ただし、建物の構造によってはモンスターが中に入って来ることもあり、安全ではありません。

 また、必要なアイテム等の配給もありません。

 速やかに、お近くの安全地帯を見つけてください。

 そして、安全地帯を拠点として活動することをお勧めします。

 なお、建物の中に人間にとって役に立つアイテムが保管されている場合があります。気兼ねなくお使いください』


 このように書かれていた。

 三人ともしばらく呆然とする。

 土井はウィンドウを触ると、消滅した。

「この建物のなか調べようぜ」

 シンが言った。

「それに中に入って内側からカギを掛ければ、モンスターに突然襲われることもないだろう」

 土井は同意して言った。

 土井とシンが中に入るとクリスも慌てて中に入る。

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