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第一章 第三話 土井竹郎の市街地ステージの安全地帯

 土井は、ドワーフたちに促されて、安全地帯と呼ばれる平屋のボロい家に入る。

 中には、五人居た。人間が二人、エルフが一人、ノームが二人で計五人である。


「新たなメンバーが加わったぞ」

 土井の後にすぐに入ったドワーフが言った。

 中に居たメンバーは、嬉しそうな声をあげる。

「俺は、クリス。ヒューマンの盗賊だ。歓迎するよ」

 人間の一人が言った。

「俺はタケオ。ヒューマンの剣士だ」

 このあと、全員と自己紹介をする。



「タケオ。お前の分の食料だぞ」

 ドワーフの一人が、台に置かれたパンと牛乳を指差す。

「どうして俺の分の食料があるの?」

「それが安全地帯のメリットだよ。この安全地帯に所属するメンバーの食料を毎日三食提供されるんだ。無料でね」

 ドワーフの一人が言った。

「それはありがたいね」

 土井が言った。

「とにかく、ここが安全地帯である期限が、三十日間延長された」

 クリスがそう言うと、他のメンバーもホッとした雰囲気を醸し出す。

「期間が延長されたって、どういうこと?」

 土井は思わず聞く。

「話をする時間はいくらでもある。まずはテーブルで食事をしなよ」

 パンと牛乳のある場所まで行くとプレートに乗せられており、プレートには『タケオ用』と書かれていた。

「ちなみに他人の食料を奪わない方が良いぞ。奪うと人助けをしなければならない数が増える」

 クリスが言うと、土井は苦笑する。

「そんなことしないよ」

「念のために言っておくと、だまし取るのもダメだ」

「誰か試したのか?」

 そう言うと、土井は笑う。

「豪華な食事をしたければレベルを上げることだ」

 ドワーフが言った。

 ドワーフたちの食料は、お総菜パン二つにサラダ、牛乳だった。

「どのぐらいレベルをあげると、そのぐらいのグレードになるんだい」

 土井は聞いた。

「俺たちは全員、七レベルだ」

 ちなみに土井の食料はアンパン一つと牛乳だった。

「タケオの食料は俺のより豪華だけど、レベルいくつなの?」

 クリスが聞いた。

「豪華? これで」

 土井はさすがに苦笑する。

「でもパンはアンパンだし、牛乳も俺のより、量が多いように見えるんだけど」

「そんなこと言っても、俺、ゴブリン一匹しか倒してないよ」

「ゲーム端末で確認してみてよ」

 クリスに頼まれて確認すると、三レベルになっていた。

「ゴブリン一匹だけで三レベルまで上がるの?」

「そんな事ないだろ。俺たちが助けに入ったとき、三匹のゴブリンと戦っていただろ」

 ドワーフは口を挟む。

「そりゃ、自分の身を守るためにね。でも倒したのは君たちだろ」

「倒したのは確かに俺達だが、戦っていたから、その分の経験値が加算されたはずだ」

「なるほど」

「あと、戦闘とかで負ったダメージは、安全地帯で安静にしているだけでも少し回復するが、食事をすると多めに回復できる。ダメージを負っていたら安全地帯で休養して、食事をすることが大事だ」


 土井は食事を終えると、まだ傷口が痛んだが、食事前より大分痛みが和らいだ。

「俺たちは、もう出発するぞ」

 ドワーフが言った。

「どこへ?」

 土井が聞く。

「新たな安全地帯を探しにだ」

「ずっと、ここに居れば良いじゃないか。どうして探す必要があるんだ?」

 土井が聞いた。

「理由はクリスにでも聞いてくれ」

 そう言うと、ドワーフの三人組は出て行ってしまう。

「どうして、安全地帯を探しに行くんだ?」

 土井はクリスに聞いた。

「安全地帯には時間制限があるんだよ」

「時間制限?」

「最後にメンバーになった者が入場した日から三十日間、安全地帯は有効なんだ。君が新たなメンバーになったから、今日から三十日間、ここの有効期限が延長された」

「期限が過ぎたらどうしたら良いんだ?」

「新たな安全地帯を探すしかないな。そうでなければ食料もほとんど入手できないからな」

「そもそも、期限が過ぎたらここはどうなるんだ?」

「安全地帯には、食料を配給システムとか、アイテムの配給システムとかいろいろな機能があるが、それらが機能しなくなる。モンスターたちが入って来れないようにする機能があるが、モンスターたちが入って来れるようになる。つまり、ただのボロい建物になる」

 土井は唖然とする。

「本当に安全地帯じゃなくなるんだ」

 土井は、ボソリと言った。

「再延長されるには、新しいメンバーが追加されると延長される。だが、ここの安全地帯の定員も十名まで。タケオで九名だから、次の追加メンバーで打ち止めだ」

「どっちにしろ、先がないわけだ」 

 場が暗くなる。

「まあ、そんなに悲観しなさんな。裏を返せば、あと三十日あるんだ。その三十日間で出来ることがある。タケオなら、おそらく武器の強化と防具や移動に役に立つリュック等の入手ができる」

 クリスが大きめの声で言った。

「武器の強化なんてできるんだ。どうするとできるんだ?」

「アイテムの入手や武器の入手は同じ方法でできる」

 土井は相槌を打つ。

「そこの台の前に立って、欲しいモノを言うと一日一回アイテムや武器がもらえる。武器の強化の場合は元から持っている武器を渡すとそれを強化して返してもらえる」

 クリスは、淡々と説明した。

「まず、やってみるか」

 土井は、クリスから教わった台の前に立つ。

「武器を強化して欲しい」

「あなたはリュックをまだ保有していません。リュックを入手してください」

 合成した女性の声のようなシステム音声が言った。

「それじゃあ、リュックをくれ」

 ガチャッと音がしたあと、台の下側が開く。そして中にはリュックが入っていた。

 土井は、台の中からリュックを取り出す。

「なるほど。巨大な自動販売機のようだな」

 そう言うと、リュックを品定めする。

「ま、いいや。武器の強化をしてくれ」

「タケオに対する本日のサービスは終了しております」

「え! なんだよそれ」

 クリスがクスクス笑っている。

「ま、そんな感じだから、本日はゆっくりしようよ。モンスターと戦ったんなら、ケガとかしているだろ」

 土井は、三体のゴブリンに付けられた傷が痛む。

「それはそうだが、こんな傷なかなか治らないだろ」

「生きていた頃と同じ風に考えてはいけないよ。この世界はあくまでもゲーム世界だ。食事をする前のヒットポイントと食後の後のヒットポイントを調べて、一食当たりどのぐらい回復するか分かれば、大体何日ぐらいで回復するか分かるはずだ」

 土井は感心する。

「お昼ご飯で試すと良いよ」

「ああ、そうするよ」


 会話も途切れ、やることもないので、入手したばかりのリュックを、土井は調べる。

 ポケットとか、仕切りとかが付いていてかなり使いやすそうな構造に感心する。

「ところで、タケオはお腹にノートのようなモノを持っているけど、それは一体何なんだい?」

 安全地帯の同居人のエルフのシンが聞いた。

「これは、この世界へ来て初めての部屋で入手したノートだよ。便利なんだぜ」

 土井は、そう言うと開く。

 新しい記事が追加される。

『本書、『賢者のアドバイス』を他人に自慢してはいけない。ケンカの元になる。特にドワーフの三人組、チェン、シュン、ションには知られてはいけない』

 と、書かれていた。

 土井は慌てて、『賢者のアドバイス』のノートをリュックの中にしまう。

「どんなふうに便利なんだい?」

 シンが聞く。

「あ、あ~ノートだからね。いろいろメモが取れるんだよ」

「なんだよ。そんなの普通じゃないか」

「ところで『チェン』、『シュン』、『ション』て誰?」

 土井が聞くと全員が笑う。

「タケオをここに連れて来た、あのドワーフ三人組だよ」


 あの三人組か。そんな名前だったんだ。そう言えば、あいつ等と自己紹介していなかったな。


「自己紹介しなかったからね」

「でも、どうして名前を知っていたんだ?」

 土井は、笑ってごまかす。


「ところで、どうしてあのドワーフ三人組は、皆さんと一緒に安全地帯を探さないんですか?」

 土井はごまかしついでに聞いた。

「あいつらはレベルを上げたいらしい。だから、ここから出て、モンスターと戦いながら、他の安全地帯を探す。つまり、安全地帯を探すのはついでなんだよ。俺たちはなるべくリスクを下げたい。だから、この安全地帯の期限ぎりぎりまでここから出ないようにしているんだ」

 土井は納得しつつも、疑問が残った。

「ギリギリまで居座るのは良いとして、新しい安全地帯が見つからなかったらどうするんだ?」

 土井の疑問ももっともである。 

「実はもう、ある程度、目星は付いているんだよ。だから、期限切れまであと三日ぐらいになってから探すつもりだ。そして、正確な位置を確認できたら、最終日にみんなで一斉に移動するんだよ」

 土井は、その説明にも疑問に思った。

「そのある程度の目星ってどうやってつけたんです? 仮に目星をつけた場所に安全地帯があったとして、すでに定員に達している可能性もありますよね。その場合はどうするんです」

 クリスが吹き出す。

「タケオは賢いな。でも、心配はいらない。ドワーフの三人組が他の安全地帯の人間とすでに接触していて、お互いの位置情報を交換しているから。そして向こうの安全地帯の定員がいっぱいなら、こちらにも一名の定員が余っているから、向こうから一名こちらに来てもらうことで、こちらの期限が延長できる」

 土井は、少し腑に落ちなかったが、何故かは気付かなかった。



 土井は昼食になると、クリスに教わった通り、どのぐらいでケガが完全に回復するのか調べてみた。そしたら、大体明後日には全回復しそうだと分かる。

「少なくともそれまでは、ここで安静にしているんだぞ」

 クリスが言った。

 すると土井は欠伸がでる。

「食事をしたせいか眠たくなったよ」

「なら、個室で寝ると良い」

「個室? この小さい建物の中にそんなものがあるのか!」

 皆が苦笑する。

「すまん。期待させてしまって。その期待はすぐに捨ててくれ」



 クリスの案内で個室がある場所に来た。カプセルホテルの部屋が並んでいるような感じの場所で、安全地帯に居るメンバーの名前が入った扉が付いている。

「君の名前が書かれている部屋、これだね」

 人一人が寝そべるスペースしかないカプセルホテルの部屋そのものだった。

 土井は思わず苦笑いする。

「一眠りさせてもらうよ」

 土井は自分の部屋に滑り込むように入ると、内側から扉を閉める。

 リュックから賢者のアドバイスのノートを取出し開く。すると新しい記事が書き込まれる。

『防具、盾、新しい武器が手に入るまで、この建物から出てはいけない』


 なるほど。それはそうだな。では。


「クリスが言った方法で、安全地帯の確保は問題ないだろうか?」

 土井はノートに問い掛ける。

『穴はあるが、当面は問題ない。しかし、人助けができないので、市街地ステージのクリアにはつながらない』


 それじゃあ、意味ないじゃないか。本当にこの世界で人助けができるのかー!

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