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第一章 第二話土井竹郎の二回目のチャレンジ

 土井は気が付くとお花畑に戻って来ていた。土井が周りを見てみると、土井がゲームを始めたのとあまり変わらない様子だった。実際、土井がゲームをプレイしていた時間に比べて、お花畑の経過した時間は少ないからである。

「お早いお帰りで」

 天野は土井が帰って来たのを見て言った。

 帰ってきた土井は、やっぱり地面から生えてきた手に下半身を掴まれる。つまり、穢れ塗れになった。

「嫌味か!」

 土井は不愉快であることを隠さずに言った。

「ゲームの世界はどんなだった。楽しかった? 市街地ステージだった? ダンジョンステージだった?」

 天野は興味津々で聞いた。

 土井は答えず、憮然としている。

「多くのプレイヤーが開始してすぐに戻って来たから、土井さんもすぐに戻って来ると思ったんだよね」

 そう言うと天野は、ケラケラ笑う。

「本当に嫌な奴だなお前」

 膨れっ面で土井は言った。

「人が親切にアドバイスしたのに、無視するからだよ。ゲームを開始してすぐに戻ってきた人、数人、正確には三人だけどね。ヒヤリングしてきた。そしたら皆、市街地スタートで、キャラクターは人間、クラスは戦士を選んでいたみたいだよ。土井さんみたいな人は少なくないみたいだね」


 天野がそう言うと、土井に絡みついていた穢れがブチブチ音を発てて消滅する。天野のアドバイスに反応して穢れが消滅していた。


 天野は土井が一回目のチャレンジをしている間に、土井同様、一回目のチャレンジを終えて、戻ってきた霊たちに質問して、戻ってきていた。土井が戻ったタイミングに遭遇したのは偶然であったが。

「人間以外を選べと言いたいのか?」


 土井が聞くと、地面から再び穢れが現れて土井の下半身に絡みつく。


「僕ならそうするね。だけど、人間のままで他のクラスを選ぶとか、試すことはいっぱいある。それは、プレイヤーの好みだからね。僕は自分のプレイを他人に押し付けたりしない主義だから。ただ、意味もなく同じことを繰り返すのは止めた方良いよ」


 天野がそう言うと、再び土井に絡みついていた穢れがブチブチ音を発てて消滅する。


「人間の戦士はやめろと言いたいのか?」

 土井はムキになって聞いた。


 すると土井の足元の地面から再び穢れが現れて土井の下半身に絡みつく。天野はその様子を気付かない振りして観察している。


「2回目も同じ種族、同じクラスを選ぶときっと同じ結果になると思うよ」


 天野がそう言うと、土井に絡みついていた穢れがブチブチ音を発てて消滅する。


「そうなるとは限らないだろ」


 土井が反論すると土井の足元の地面から再び穢れが現れて土井の下半身に絡みつく。


「一回目の失敗の理由が分かっていて、それに対策打てるのなら変わるね」


 天野がそう言うと、再び土井に絡みついていた穢れがブチブチ音を発てて消滅する。しかし、しばらくすると、土井の足元の地面から再び穢れが現れて土井の下半身に絡みつく。


「土井さん。今のままじゃ、地獄に落ちちゃうから、頑張ってね~」

 天野は茶化すように言うと立ち去る。

「大きなお世話だ」



 土井は二回目のチャレンジをする。

 種族はヒューマンを選んで、クラスはを選んだ。ほんの少しだけ、天野の意見を聞いたのだ。

 土井は、地面と天井だけが延々と広がっている、例の亜空間に居た。前回と同じである。

 ”ゲーム内では、ゲーム内だけの名前を使っても良いですし、本名をそのまま使っても良いですがどうしますか?”

 ゲームシステムから問いかけられる。

「同じ質問だよ……今回もタケオで頼む」

 しばらく沈黙が漂う。

 ”ゲーム名、『タケオ』で登録いたしました”

 ”二回目のチャレンジも市街地ステージからスタートします”

 ”市街地にて、ピンチの人を十回助けると市街地ステージはクリアとなります”

 ”ちなみに、人間とはヒューマンだけでなく、エルフ、ドワーフ、ノーム、フェアリーも含まれるのでご注意ください”

 一回目にはなかった説明が追加されていた。多くのプレイヤーが疑問に思った事だったため、運営側が急遽説明を追加したのだ。

 土井は「そんな事聞いていないよ」と、独り言をこぼす。

 ”ピンチの人を助けること以外にもクリア条件がありますので、探してみてください”

 ”次に注意事項を説明します”

 ”モンスターは何体殺しても問題ありませんが、人間は殺してはいけません”

 ”人間を一人殺すごとに、市街地ステージのクリア条件である、ピンチの人を助ける回数が増えて行きます”

「前回、人間なんて遇わなかったぞ」

 土井は愚痴る。

 ”ちなみに前回と同じ種族を選んだので、前回とは違うフィールドでのスタートとなります”

「違うフィールドってどういう事だ?」

 ゲームシステムは答えない。

 ”ゲームをスタートしてもよろしいですか?”

 土井は溜息を吐く。

「ああ、スタートしてくれ」

 土井がそう言うと、視界が真っ白になり、何も見えなくなる。


 土井はゆっくり目を開くと、狭い部屋の中に居た。

 テーブルやロッカーなど、その他いろんなものが置かれているが、ほとんどがガラクタである。

 土井がテーブルを見ると『この部屋にある物は自由に使ってもらって構いません』と書かれていた。

 一回目といろいろ共通点はあるが、まったく別の部屋である。

 ロッカーを覗くと予想通り、剣を含む武器がいくつかあった。棚を探すと、前回ミノタウロスから逃げるのに役に立った派手なジャケットは無かった。しかし、土井が予想した通り表紙に『賢者のアドバイス』と書かれたノートはあった。

 土井はノートの一ページ目を開くと、文字が書かれていく。

『この建物の中には長居をしない方が良い。長居をすると出口にモンスターが集まって来るぞ。剣と剣の鞘を入手したらこの建物からすぐに出た方がいい』

 と書かれていた。

 土井は、一回目と書かれている内容が異なることに気付いた。それで、このノートに書かれていることが重要であることに気付いた。

 とりあえず、棚を探すと、剣の鞘が見つかる。そして、先ほど剣を見つけたロッカーを開け、剣を手に取ると鞘に納める。そして、腰に差す。そして、『賢者のアドバイス』と書かれたノートを腹側のウエストに挟む。そして唯一の出入口から外へ出る。

 するとゴブリン一体と遭遇する。

 前回は、そのゴブリン一体に敗れたのだ。土井は迷わず剣を抜き、一気に斬り掛る。攻撃は命中し、ゴブリンは怯む。土井は狂ったように剣でゴブリンを斬りつける。すると、ゴブリンは倒れた。

 戦士より、剣士の方が剣を使ったと時のダメージや命中に補正が掛かるので、前回選んだ戦士より若干有利だったのも影響しているのだが、当人はそんなことに当然気付いていない。

 無我夢中だったため気付いていなかったが、ゴブリンの攻撃を受け、左腕に軽い傷を受けていた。


 ゴブリンを倒して、やっと我に返ると、自分がシャッター通りにいることに気付く。そして、やっと、左腕の傷が痛み出す。

 ここは、折角の商店街なのに、すべて閉店していた。

「これからどうしたら良いんだ。安全地帯はどこにあるんだよ」

 土井は、『賢者のアドバイス』のノートを思い出す。

 ウエストに挟んだノートを出して開くと、新たなアドバイスが書かれていた。

『元いた建物から見て右手に向かって真っすぐ進め。そこにゴブリン三体現れて、戦いになる。しかし、絶望してはいけない。諦めなければ、展望は開ける』

「おい。これって死刑宣告と同じじゃないか。諦めるなってどういうことだ」

 ゴブリン一体と戦うだけでも苦戦するのに、三体と戦えるはずはなかった。

 わからない事だらけだが、今のところ、二回だけだが、一応正しいアドバイスであった。いまやるべきことも分からない。信じてみることにした。



 市街地を言われた通りの方へ土井は歩き続けた。

 すると、ゴブリン三体を発見する。ゴブリンの方も、土井に気付く。

 土井は、迷うことなく逃げ出す。ゴブリン達は土井を追いかける。

 土井は狭い横道に入ると、ゴブリンは二手に分かれ、二体は後を、一体は横道にはいる。

 土井は、狭い道を抜け右手に曲がると、二手に分かれてゴブリン一体と鉢合わせになり、後ろから追ってきたゴブリンと挟み撃ちにされる。


『諦めなければ、展望は開ける』を信じることにする。


 土井は剣を抜き、諦めずに前にいるゴブリンに斬り掛る。そのあと、剣を大振りをして牽制する。しかし、多勢に無勢、土井は少しずつゴブリンの攻撃で少しずつ傷を負っていく。

 するとドワーフ三人が突然現れて、ゴブリンを攻撃する。

 奇襲された形の為、大して抵抗もできずゴブリン達はあっという間に倒される。

「た、助かったのか?」

 土井は、突然のことに状況を飲み込めないでいた。

 ドワーフ三人はガッツポーズを取る。そして、ドワーフたちは「ゲーム端末オープン」と言ってゲーム端末を出すと、画面を見る。

「よっしゃー。人助けカウントがアップしたぞ」

 ドワーフたちは喜ぶ。

「どうやるとゲーム端末を出せるんだ?」

「ゲーム端末オープンと言うと出せるぞ」とドワーフの一人が教える。

 土井もやってみると出せる。

 人助け回数がスクリーンの右上に表示されていて、見てみるとゼロ回のままだった。

「俺は増えていないぞ」

「お前は俺たちに助けられただけだろ。だから増えない」

「と言うことは、あんたたちがやったように、モンスターに襲われている人を助けないとカウントは増えないのか?」

「そう言う事だ」




 土井は最寄りの安全地帯の場所をドワーフたちに聞くと、ドワーフたちも行く途中だということで安全地帯まで一緒に行くことになった。

 ドワーフたちは、モンスターを上手くやり過ごし、市街地を進む。シャッター通りを抜けると、住宅街になる。住宅街も上手く、モンスターたちと戦わず平屋のボロい建物の前までやって来る。

「安全地帯に到着したぞ」

 ドワーフの一人が言った。

 安全地帯まで土井を連れて到着した。

「え。どこが?」

 土井が戸惑っている。

「このボロい建物が安全地帯だ」

 ドワーフが言った。

「これが安全地帯!」

 土井は驚きの声を上げると、ドワーフたちは苦笑する。

「安全地帯って言うから、てっきりモンスターが入れない、広い地域かと思っていたんだけど……」

 土井は、ガッカリする。

「これでも、俺達人間サイドの施設としては非常に頼りになるんだぜ」

 ドワーフが言った。

「本当かよ」

 土井はまだ疑っている。

「百聞は一見に如かず。中に入ればわかるよ」

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