おまえが先に降りろ
いや、おまえの方が先だろ
いやいや、おれはまだまだ必要とされている
おれなんかここにいてもいなくてもなんにも変わらないくらいこの場にとけ込んでるぞ
そのまま消えてしまえば、あとかたもない、きっと片付けもいらんのだろうしな
手間いらずか、笑える
厄介払いになるその手間もいらんくらい面倒がかからないとなると、次はおまえの番だろ
リスクもコストも最小限になってるしな
そんな面倒なことは考えたこともないぞ、おれは
なら、おまえが先だろう、そんなもんだ、世の中
おれは次にする、おれはどうしてもそうしたいんだ
順番なんかにこだわらんと、お先にどうぞ
その順番待ちが嫌なんだよ、おれは
せめて、おまえよりは先に降りたくない
最後の最期くらい、おまえに負けたくない
もっと素直になったらどうなんだ、どうせ、勝てはしないんだから、あいつには
確かにあいつには勝てないみたいだな、負けを認めることしかできんのかい
勝ち負けの問題じゃないんだが、おまえにだけは……
ばかばかしい
ばかばかしいが、そう思うと思うだけでもばかばかしい
腹立たしいような、情けないような
なんだか侘しいな
あっけなくて、無性にさみしい
ところで、あいつ、どこに行った
どっかに隠れて、じっとこっちを見ているような気がせんでも……
終電車に終点はなかった。
乗客が何人降りようと、そこは、終点にはならなかった。
「次に降りられる方は、忘れ物のないよう準備してください」
もごもごとしながら、一人の老人が降りていった。
相席の老人は、居眠りでもしていたのか、降りそびれた。