今日も一日全ての授業が終わり、帰宅した俺はPCの電源を入れる。
藍沢さんは今日もずっとテンションが高く、一緒に授業を受けることにも抵抗がなくなってきている自分にビックリする。
まぁこれも、俺も成長してるってことなのかなぁとか思いながらチャットツールを開くと、まるで俺がログインするのを待っていたかのごとくすぐにチャットが届くのであった。
『アーサー、今日はよろしくな!』
それは、今日の十九時からコラボ配信を予定している、同じFIVE ELEMENTSのメンバー鬼龍院ハヤトからのチャットだった。
『こちらこそよろしく! 今日はレースゲームだっけ?』
『そのとおり! よろしくな!』
『あいよ』
こうして、何でコラボするかだけ確認し合うと、カノンの時と同じく配信が始まるまでチャットは終了──したりはしない。
『それで、アーサーは今日何してたんだ?』
『何って、大学へ通ってただけだよ』
『そうか、アーサーはまだ大学生だからな! どうだ? 大学は楽しいか?』
『いや、まぁそこそこ』
『そうか、そこそこか! だったら、もっとアーサーが楽しくなるように、今度僕もアーサーの大学へ遊びに行ってやろう!』
『いや、来なくていいです。本当に止めてください』
『なんだアーサー? 照れてるのか? 可愛い奴め!』
とまぁ、ハヤトとのチャットは大体いつもこんな感じなのである。
よくアニメなどで、空気の読めない王子様キャラっていると思うけど、ハヤトは地でそれをやっちゃってるタイプなのだ。
とにかく空気が読めず、いつでもポジティブシンキング。
そのクセの強い性格は、日常生活を送るうえでは色々ありそうな気がするが、この配信業においては強烈な個性として、プラス要素として人気を獲得しているのであった。
そんなハヤトはというと、とにかくトークが上手く、ピアノもやっているとかで音楽センスがずば抜けて高い。
聞くところによると、ピアニストとしての顔も持っているとか何とか……。
そのため自分で作曲なんかもしており、FIVE ELEMENTSの中でも一番音楽の才能に溢れている人物と言えるだろう。
そんなハヤトとのコラボ、今日はレースゲームで対決するだけと言えばそれだけの配信。
しかし、今回のコラボ相手はクセしかないハヤト。
ただゲームをして楽しかったねで終わるはずもなく、今からどうなることかと少し不安になってくるのであった……。
◇
「ようこそ、子猫ちゃん達! 今日も楽しんでいってくれたまえ! ――ということで、みんな喜んでくれ! 今日は男組でのコラボレーションだ!」
配信開始早々、クセの強すぎる挨拶をかますハヤト。
そのテンションにさっそくゲンナリしながらも、俺もリスナーのみんなへ挨拶をする。
「どーも、FIVE ELEMENTS所属の
「おいおいアーサー、それだけか? せっかくの男組のコラボなんだぞ? もっと子猫ちゃん達にサービスしないといけないよ?」
「サービスって、俺はそんなキャラじゃないから」
「はっはっは! 恥ずかしがって可愛い奴め!」
何が可笑しいのか、愉快そうに笑い出すハヤト。
するとコメント欄の速度は一気に加速しだし、『高まる』というコメントで一気に埋め尽くされていく。
そう、ハヤトがこんな感じで何か言ってくる度に、コメント欄は『高まる』や『心の養分』というコメントで埋め尽くされるのである。
それを狙ってかどうかは分からないが、ハヤトはこういう発言をちょいちょい挟んでくるのであった。
というわけで、俺とハヤトのコラボ配信がスタートする。
通常Vtuberというのは、女性配信者の方がリスナーの数は多くなりがちで、実際にFIVE ELEMENTSのメンバーがソロ配信をしてもその傾向は見られる。
しかし、俺とハヤトがコラボした時だけは異様に注目度が高く、見れば既に四万人ものリスナーが俺達の配信を見ているのであった。
――ただレースゲームするだけだぞ?
そんなリスナー達の、謎の熱狂っぷりに呆気に取られながらも、いつも通り
「おい! どうしたアーサー? 僕のスピードについてこれないのか!?」
「……今抜く」
「はっはっは! どうした? 早く追い付いてこいよ!」
「……うるさい」
「いじけるなって! でも待ってはやらないぞ? これは僕とアーサー二人きりの真剣勝負だからな!」
そう言って、一位を独走するハヤト。
そう、ハヤトは何故かこのレースゲームだけは異常に上手いのだ。
俺は普通に悔しくなりつつも、ゲームに集中して虎視眈々と抜かす隙を窺う。
だが、そんな真剣勝負なはずのコラボ配信も、何故かまた『高まる』『心の養分』というコメントが止まらないのであった。
こうして、結局今回もハヤトに振り回される形でコラボ配信は終了となった。
リスナーも満足してくれたのか、今回は特に高評価数が多かった。
「おつかれアーサー! 今回も面白かったね!」
「ああ、そうだな」
「で? 次はいつする?」
「さぁ、いつだろうな」
「おいおい、つれないじゃないかアーサー。俺は明日でも可能だぞ?」
「はいはい。またスケジュール確認しとくよ」
「ああ、よろしく頼むよ! 今日は楽しかったよ! それじゃ!」
こうして配信後の通話も終了して、ようやく俺はハヤトから解放されたのであった。
「……何故だろう。ハヤトとのコラボは毎回一気に魂を持っていかれるんだよな」
重たいため息とともに、どっとつかれた俺は一回ベッドに横になる。
すると、スマホにメッセージの通知が届いていることに気付いて確認してみると――。
『今バイトの休憩中だけど、やばい高まる』
それは藍沢さんからの、先程のコラボ配信に対するメッセージだった。
――そうか、藍沢さんも高まったのか。そりゃよかった……。
はははと乾いた笑いを浮かべながら、俺は藍沢さんにハヤトがグーポーズをしたスタンプで返事を返しておくのであった。