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第8話 次のコラボ

 次の日。

 昨日はコラボ配信後すぐに眠ったことと、今日の授業は二限からのためたっぷりと睡眠できた俺は、割と冴えた頭で大学へとやってきた。


 次の授業がある教室へ向かって歩いていると、そんな俺の背中を後ろからポンと叩かれる。


「おっす! 桐生くん!!」


 この大学で、こんなにフランクに俺に接してくれる人物はただ一人――。

 振り返るとそこには、満面の笑みを浮かべる藍沢さんの姿があった。


 今日は藍沢さんも寝不足ではないようで、しゃっきりと美少女オーラを振り撒きながら輝いていた。

 それは何の比喩でもなく、その綺麗な金髪が陽の光に照らされて、本当に輝いて見えたのである。


「おはよう、藍沢さん」

「ねぇ桐生くん! 昨日のアーサー様とカノンちゃん配信見たよね!? わたしのお便り拾われちゃったよどーしよー!」


 しかし、そんな輝きを放つ美少女は、今日もVtuberの限界オタクとして、朝からお便りを読まれたことにテンションMAXなのであった。

 まさか誰も、彼女がこんなにも嬉しそうに微笑んでいる理由が、そんなことだとは思いもしないだろう……。


「……あー、あの、お悩みじゃないお悩み相談ね」

「あはは、ちょっと違っちゃったみたい。とにかく何か送らなきゃーって思って!」


 どうやら藍沢さんは、狙ったわけではなく素であれをカノンへ送り付けていたようだ。

 そんな、思い立ったらまず行動に移すところは、何だか藍沢さんらしいなと思えた。


「まぁ、結果みんな笑ってたし良かったんじゃない?」

「だよねだよね! わたし、笑い生んじゃったよね!?」


 そう言って、嬉しそうにガッツポーズをする藍沢さん。

 そんな朝からテンションの高い藍沢さんに、俺も自然と笑みが零れる。


 ――この感じを配信に乗せたら、たしかにバズりそうかもな。


 そんな考えが頭を過りつつ、それから教室まで藍沢さんと会話をしながら歩いているだけで、正直すごく楽しかった。



 ◇



「……やっば、教科書忘れた」


 教室へ入ると、もはや当然のごとく俺の隣に座る藍沢さん。

 こうなってくると、もう同じ学科の人達も俺達に興味を持つ人は少なくなっていた。


 一部では、俺達が付き合ってるんじゃないかという噂まで立っているようだが、残念ながらそんなことはないし、そんなわけないだろとあまり相手にしていないのが大多数なことがちょっとだけ悔しかったりもする。


 でもまぁ、それだけ藍沢さんという存在は特別なのである。

 誰が見ても可愛いと評するであろう、この大学でも一番可愛いと名高い美少女。

 そんな彼女と俺とでは、まさに月とスッポンなのである。


 しかし、そんなお月様のような美少女はというと、何やら物欲しげにこちらをじっと見てくるのであった。


「……いいよ、一緒に教科書見よっか」

「わーい! ありがとぉー!」


 もはやVtuberを始める云々は関係なくなってきている気がするが、こうして俺は藍沢さんと教科書をシェアしながら授業に臨むのであった。


 隣を向けば、何が楽しいのかルンルンとした様子の藍沢さん。

 そんな様子に癒されつつも、俺は今晩予定しているコラボのことを考えていた。


 何故こんな午前中からそんなことを考えているのかと言えば、それは今日のコラボ相手のクセが強いからに他ならない。


 鬼龍院ハヤト――。

 名門貴族のお坊ちゃまで、金髪美男子だ。

 お金持ちならではの暇を持て余したハヤトは、異世界転移してこの世界へやってきて、今ではこの国でアイドルとして活動しているという、ちょっとキザなイケメンキャラだ。


 そんなハヤトは、同じFIVE ELEMENTSに所属するメンバーで、男性メンバーは俺とハヤト二人だけのため、言わば運命共同体のような存在だ。

 しかしハヤトは、こう何て言うか……とにかくクセが強いのだ……。


「あ、今日はアーサー様とハヤトくんのコラボがあるね! 桐生くんも見るでしょ?」

「え? あー、うん。じゃあ見ようかな」

「あの二人のやり取りって面白いし、わたし的にはすっごく養分なんだよね!」

「よ、養分?」


 養分ってなんだ……?


「え? あははー、ひ、秘密ー!」


 誤魔化すように笑う藍沢さん。

 結局意味が分からなかったが、藍沢さんに限らず、俺とハヤトのコラボには何故か一定の需要があるのであった。

 アナリティクスを見ると、このコラボだけ女性リスナーの割合も高いことから、どうやら女性人気が高いようだ。


 まぁ、FIVE ELEMENTSの男性メンバー同士のコラボなのだ。

 当然と言えば当然だろう。


 そんなわけで、ある意味カノンとのコラボより気が重くなりながらも、俺はまだ午前中だというのに夜のコラボに向けて気持ちを整えているのであった。



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