「痛い、痛いよ」
僕はその場に膝をついた。
「おい、やめろ」
ナイトが男を羽交い絞めしたが、その時、床は既に腕一振り分切り裂かれていた。
「シロキ、大丈夫か。頑張れよ」
天井からも床からも鏡が舞い上がる。涙が溢れる。僕が呻き声を上げるたび、ナイトが男を押さえながらも振り向き、声をかけてくれる。
「もうやめて!」
カドの声がして僕は目を開く。カドがナイトの抑えている男の手からガジエアを奪おうとしていた。
「カド、止めろ、離れてろ!」
そうだ、駄目だ。ナイトはガジエアで怪我をしても修復できるけど、カドは僕で出来ているんだから、壊れてしまう。止めようと思うけれど、門に共鳴した身体が他人のもののように動かない。
「だって、早くしないと門が崩れるよ。シロキさんが地獄に呑まれちゃう!」
「カド、いいから離れて!」
どの瞬間そうなったのかわからない。
気がついたらカドの首をガジエアの刃がえぐっていた。印象で言うならかすっただけに見えた。いや、うっかり触れただけと言った方が正確だ。だが実際は首の横の筋肉がそぎ落とされて、床に落ちている。解体の時と同じ切れ方だ。僕は肉片を拾い上げながらカドに駆け寄った。
「やだやだ、駄目だよ、どうしよう」
カドの首からじゃばじゃばと血があふれ出している。
「お願い止まって」
僕は自分の力を全部カドに注ぐけれど、僕自身、門とカド、二つ分の破壊の衝撃を受けて力が思うように出せない。もどかしい。
「……シロキさん」
カドが透き通ったきれいな声で僕を呼ぶ。首が切れているのに、どうしてそんな声がでるんだろう。
「カド、消えないで。僕、助けるから。僕のこと置いてかないで。ねえ、大好きなんだ。お願いだから」
首に手を当て、拾った肉片をこすりつけ、何とか出血を止めようとする僕の顔にカドの指が触れた。
口元が弱々しい笑みを作っている。唇が雪で凍えた景色の中で見たのと同じ、薄い赤で、きれいだ。
「シロキさん、ごめんね。門の後で……俺の代わりの新しい使いを作って」
「僕はそんなことしない、そんなのいらない」
わかっている癖に言わせないで。僕の着物にカドの血がどんどん吸い込まれていく。こんなきれいな赤で僕を染めないで。
この子は使いより門の方が、神様の存在に重要なことも良く知っていて懇願してるんだ。僕はいったいどうしたら……