他の神様なら一時的に門を失っても再成は急がない。物質である門の再成には数時間もかからないから。 だが僕の門の場合、複雑さのせいで通常の何十倍も時間がかかる。
門の再成より僕が地獄に呑まれる方が早いだろう。いっそこの門を捨てて、もう一度作成し直すべきなのか。忙しく思考を巡らしていると、ガジエアを握ったままの、蜘蛛を助けた男が口を開いた。
「俺は消えてもいいんだ。鏡の神様、あんたの門、壊してすまないな。声はかけたんだぜ、留守だとは思ったけど。でもこれ、直せるんだろ? とにかく俺の身体が消えたら、この刀と水を頼む。せっかく奪ってきたんだ」
神様を解体する刀を極楽から持ち出しただけでも驚いているというのに、他に何を、と思ったが、男がもう片方の腕に隠していた物を見て眩暈がした。
そこには『トリプガイド』が――培養水が、丸いガラス玉の状態で青く輝いていた。あれは源水だ。黙っていろ、と言われたが思わず声が出る。
「そんなものを盗んでどうする気なんだ」
「これさえ奪えば、極楽は用無しだろ」
男はにやりと笑った。一体何を……。
「駄目だ、返そう。お前はその中途半端な身体を捨てて、魂だけになって地獄から人間の世界に堕ちろ。また人間の姿でやり直せる。どうせ極楽には戻れない……」
ナイトが諭す。そうだよ、それが一番だ。何を血迷ってこんなことをしたのか知らないが、早くそうしてくれ。それで、僕は門を修復して、この変な話は終わりにする。
「なあ、お前、鏡の悪魔だよな。お前だって本当はこれで良いなんて思ってないだろ? だってお前は――」
「わかってる、それは俺がどうにかするから。それ以上言うな」
「待って、ナイト、何の話をしているの?」
初めて会った悪魔になりかけの男とナイトが、僕の知らない話をしている。
どういうこと?
「あれ? 神様は知らないのか。そうか、悪かったな。こいつは――」
ナイトが男に走り寄った。こんなに焦っているのを初めて見た。
「いいから、もう言うなって」
「何でだよ、事情を知ったらきっとこの神様だってお前のこと――」
「こいつは知らなくていいんだ。お前、さっさとガジエアとトリプガイドを置いて、地獄に行ってやり直すと言ってくれ。そうだ、炎の地獄から堕ちろ。俺たちが炎の悪魔に頼んでやるから任せろ。全部忘れて、人間に戻れ」
僕に何を隠しているの。カド、何か知ってる? カドを見ると辛そうな顔で二人のやり取りを見つめている。また、僕だけが知らないんだ。ナイトに詰め寄られていた男が僕の方を見た。
「俺はやり直したくないんだよ。なあ神様、せめてこの人間の世界につながる扉を開けてくれ」