鏡の悪魔はどれくらい人間の世界にいるのだろう。俺が作成された時、鏡の地獄はまだ存在していたのだろうか。
悪魔は作成が終わっても成熟するまではそれぞれの地獄で保管される。その時の記憶は殆んどない。
今まで聞いたことがないのは、話題にすることも避けられていたということだろか。
鏡の悪魔に思いをはせる。孤独だったろうな。あの人間の兄弟に会うまで何をして、どんなことを思って過ごしていたのだろう。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。ここから中央穴はそう遠くありません。地獄に来て最初に、鏡の門がそこにあることは確認しました。まず、中にシロキさんがいないかと話しかけてみたのですが、扉は閉ざされたままでした。それで、それぞれの地獄を訪ねて歩くことにしたんです。まずは石の地獄、それから水の地獄って。その間も何度も鏡の門の前に行ってはシロキさんを感じて泣きました。カドさん、門の中にシロキさんが居ようが居まいが、僕のために扉を開けてくれますか」
カドが強く頷く。
「もちろんだよ。ルキルくんとエンドを俺の空間に呼べるなんて嬉しいよ」
カドの嬉しさが伝染して俺まで待ちきれなくなる。
♢♢♢
月が美しい円を作る空の下、鏡の門の前に立った。
「すごいな……」
言葉を失った。
「エンドさんは初めて見るんでしたね」
ルキルくんが愛おしそうに顔を寄せる、その鏡面の大きさに圧倒された。
左右を見るとその壁は水の地獄の端から端まで続いているようで先が見えない。上を見ると空まで届いてるかのようでこっちも先が見えない。
「中央穴にいる時は正十二面体を保っているんだ。十の地獄、全てに接するように。それで、上の面が極楽で、下が人間の世界に向いてる。ああ、なんだか感覚で覚えている。この形が正方形とか球体になるより難しくて、昔は良く失敗した。シロキさんは笑って許してくれたけど。出入りする度に地獄に激しくぶつかった。丈夫に出来ていて良かったよ」
「そういえば昔は地獄でも良く地震があったなそうだな。それ、お前のせいか」
カドが気まずそうに下を向く。
「今は上手になったから失敗しないよ。それよりエンドも触ってみろよ」
促され、静かに鏡の壁に近づき、手をかざす。指が触れそうで触れない所で止まってしまう。
「おい、割れたりしないから。普通に触っていいんだぞ」
「ああ、何だか尊いものな気がしてな」
「俺のことはべたべた触るのに、門には触れられないってどういうことだよ」
恐る恐る触れたその鏡は初めて知る不思議な冷たさだった。
そしてそれは、触れた相手の体温を確かめるように指にまとわりついてくる。
「この門、生きているのか?」