「気を付けて下さい」
僕らから手を離したマツリくんが、立ったまま両膝に手をついて肩で息をしている。
「うん……なんか、ごめん」
「俺は見られていないと思うけど……」
僕と違って、実態を隠していたナイトは少し心外そうな顔をしている。
「冗談じゃなく、シロキさんに見惚れてぼんやりしてしまって、魂が抜かれそうでした」
「そうなるかもな」
ナイトが淡々と言う。
「何てことを言うんだよ」
ナイトは何か言いたげな視線を僕に送ると、直ぐにマツリくんに向き直った。
「少し前から見てたが、お前、シロキとはよく話すな。俺とは目も合わせないのに。まだ俺のことを疑ってるのか?」
「そんなんじゃありません。あなた、シロキさんと似ているのに、何か緊張しちゃうんですよ」
マツリくんが困った顔で言うので僕はかわいそうになる。
「おい、人間をいじめるなよ」
「いじめてないよ」
マツリくんが恐る恐る言った。
「神様と悪魔って本当に仲が良いんですね。ナイトさんは鏡の悪魔ですよね。神様と悪魔は対になっているものなんですか?」
「そうではないよ」
僕は答える。
「悪魔はそれぞれの地獄に属してるんだ。炎の地獄とか水の地獄とか石の地獄とかね。神様の数は地獄の数よりずっと多いから、全ての神様に対になる地獄がある訳じゃない。でも同じ属性の悪魔とは親和性が高いね。例えば、水の悪魔は海の神様や川の神様と雰囲気まで良く似ているよ」
「鏡は同じ名前の神様も悪魔も持っていて贅沢ですね」
贅沢か、そうかも知れないな。
「ところでナイト、マツリくんをカドに入れろってどういうことだ」
真顔でナイトを問い詰める。
「俺だって出来ればそんなことしたくない。でも、魂だけでも助けたいんだ」
「何からだよ」
「俺の地獄を奪ったやつらから」
ああ、やっぱり。どうしよう、不穏な音が僕の中で鳴り響いて、鼓動が早くなる。
「何の話ですか……」
マツリくんが怯えた様子で尋ねる。
あまり感情を顔に出さないナイトが、微かに悲しそうな表情を浮かべて答えた。
「早い話、お前、死ぬんだよ」