僕たちが朱の門をくぐると、薄っすら雪の積もった参道の両端にたくさんの氷の彫刻が等間隔に並んでいた。鳥や竜や馬の形をした僕の背丈ほどもある氷像たち。
僕は苦笑いする。
「僕じゃなく氷の神様のお祭りみたいだね。でも綺麗だ」
「地元の人が作った氷像です。今年から始まったんですよ」
僕はひとつの抽象的な像の前で立ち止まった。大きな氷の分厚い板。ただの四角い氷の壁の裏に小さな炎が灯ったランタンが置かれている。
「シロキさん、それが気になりますか?」
透明になったカドの中に、魂が揺らいでいるのを連想させる。
「僕の使いに似ているんだ……」
「シロキさんの使いですか……美しいんですね」
僕は少し驚いた。マツリくんは使いを人間や動物の姿で想像していると思っていた。実際にカド以外はそうだ。僕の使いが氷の板に似ているなんて、おかしいとは思わないの?
「僕の使いは鏡にも透明にも平面にも立方体にもなれる。魂を持った門なんだ。あの子がこの姿でいるのは、やっぱりかわいそうなんだろうか」
氷越しに揺れる灯を瞳に映しながらマツリくんが言う。
「こんなに美しくて、どんな時もシロキさんの特別なら幸せだと思います。悲しいことがあるとすれば、あなたの方から来てくれない限り、あなたに触れられないことかな。僕が彼だったら、の話ですけど。彼はきっと僕なんかよりずっと強いだろうから……」
出かける前に見たカドの心の中を思い出し、僕はまたぼんやりとする。横に立っていたマツリくんが僕の顔を眺めて言った。
「神様も悩むんですね。憂いのあるシロキさんをもっと見ていたいけど、薄暗くなって、人が多くなってきました。みんなシロキさんのことじっと見てますよ。ほとんど毎年来ているんですよね? いつもこうなんですか」
「いや、いつもは人前で姿を見せることはないから。今年はマツリくんと話しながら歩くのに身体が見えないと都合が悪いと思って。僕は何か変かな?」
「いいえ、全然。みんな神々しいくらいきれいな人だな、と思って見てるだけだと思います」
「君の会った悪魔の方がきれいだよ」
カドに似た氷から離れるのは名残惜しいが、あまり人間に印象を残したくもないので僕はマツリくんとまたゆっくり歩き始めた。