カドは僕が羽織を手に入れて安心してくれた。でもこれはここを離れる時に返さなくちゃ。マツリくんのお兄さんのものだし。
カドにはいつナイトのことを話そうかと躊躇っていて、結局言い出せないまま、お祭りの日になってしまった。
でも敢えて言わないのも良いかも知れない。今夜、突然連れてきて驚かせるんだ。カドはどうやって彼を迎えるだろう。どうやって喜ぶだろう。ナイトは昔みたくカドを冷たく澄んだ目で覗き込んで優しく撫でるんだろうな。僕はそれを近くで座って見ている。そんな夢想をしながらカドの外に出た。
「シロキさん、お祭りに行くの?」
「うん……」
僕はカドの透明な外壁に、前のめりに額を付けて寄りかかった。
「シロキさん、大丈夫?」
「うん。さっきまでナイトの夢を見てたんだ」
カドが息を呑むのを感じた。今日は「寝ないくせに夢は見るんだ」と茶化さない。
「カドはナイトと会いたい?」
「会いたいよ、すごく」
カドが切ない声で言った。
「そうだよね」
僕はカドに頬を寄せる。
「どうしてそんなこと聞くの? 関係ないけど、今日のシロキさんは特にきれいだね」
「ナイトと僕どっちがきれい?」
僕は本当に神様らしくないな。いったい何を聞いてるんだろう。
きっとカドも呆れてる。
「映してみたら」
「え?」
「知りたいなら、俺の心の中を映してみればいいよ」
「いいの?」
「好きに覗いていいよ。シロキさんの一部だろ」
カドはさっきまでの切ない響きを残したまま言った。
なんだろう、カドを信じてないような罪悪感と、それでも見てみたいという高揚感で、気持ちが抑えられない。僕は頬を離して正面から顔をカドにぴったりとつけ、静かに心の中を映した。
「……お前には見えているんだね」
僕は満足して冷たく透き通るカドから顔を離した。
「じゃあ、行ってくるね。遅くならないようにする」
僕は満たされた気持ちのままカドに言う。
「せっかくシロキさんをお祝いしてくれているんだから、ゆっくりしてきなよ」
明るく言うカドに微笑みかけて、僕は町へ降りた。