山から下りて最初に目についたのは白い外壁の、僕たちとは別の種類の神様が祭られている建物だった。
この季節のこの庭は、金や銀の玉の飾りや、他にも赤や緑の装飾品で溢れ、とても賑やかだ。僕のお気に入りで、殆んど毎年訪れている。
綺麗な飾りをいくつかカドに持って帰って見せてやりたいが、さすがに他の神様を祝うものなのでそれは出来ない。
ここの神様に直接お願いしたいけれど、一度も姿を見たことがない。避けられているのだろうか。
「あれ?」僕は思わず声を出してしゃがみこんだ。小さなかわいらしい動物や人間の形の置物が細長い木の台にいくつも並べられていた。去年はなかった。何かの物語を現しているのかな、と眺めていると背後で声がした。
「それは僕の手作りなんですよ」
振り返ると十代半ばくらいの少年が、少し恥ずかしそうな表情で立っていた。実態を出したつもりはないのに、この子には僕が見えるの? 完全に視線が合っているから僕に話かけてるのは間違えない。
「君、何?」
その少年は僕の顔を見て一瞬息を呑み、そして言った。
「あ、僕、冬休みだけここで働かせもらっている高校生で、マツリって言います」
「マツリくん……君には僕がどう見えるの?」
「どうって、人間じゃないみたいに綺麗でびっくりしました。あと寒くないのかなって思います」
「君は……変わってるんだね」
「いいえ、あなたの方が変わってます。どう見ても寒いでしょう」
僕が見えることの方を言ったのだけど、やっぱりこの子にも寒そうに見えるのなら本当にどうにかしたい。
「僕は『シロキさん』って呼ばれてる。ねえ君、僕は何を着ると寒そうに見えないと思う」
「寒そうに見えない、ですか? 寒くはないんだ……そうだ、僕の兄が着ていた羽織をあげましょうか。あなたが嫌でなければ。ちょっと待っていて下さい。僕の家、直ぐ近くなんで、数分だけここにいて、消えないでくださいね」
僕の返事も待たずに、マツリくんという子は雪の中を走り去る。
固まった雪道が滑りやすいだろうに、転ぶことなく、器用に路地に入って行った。
あの子は僕がなんなのか気がついている。知っていて演じている。不思議な子だ。
マツリくんを待っている間、白い外壁の建物からオルガンの音と歌が聞こえてきた。ここに来る度に同じ歌を聞くものだから覚えてしまった。その歌を口ずさみながらくるくると白い建物の庭を周る。
今度マツリくんが来たら実態を出そう。他の人間に見られたら、あの子が独りで話をしているおかしな子だと思われかねない。