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第34話 祭りの日

 カドにはルキルくんと出会った最初の夜から、僕が体験したこと全部を話して聞かせてきた。


 ナイトと会ったこと以外は。ナイトが直ぐ近くにいてカドに会いたがっている、なんて知ったらどんなに喜ぶだろう。


 勘の良いカドだから僕の様子がおかしいことには気がついているはずだ。


 ――僕は、門と融合した日以前の記憶を、カドから意図的に奪っている。


 きっとナイトと会ったら思い出してしまう。自分に自由な身体があったこと。それを僕が奪ったこと。


 怖い、僕は臆病だ。


 その年も、僕とカドは人間の世界と地獄を往復し『役割』を果たした。


 正直こんな役割を与えられたくなかった。僕らはこのために作られたようなものだ。僕らが出来た時、極楽は『奇跡の神様』だと歓喜したらしい。正直、最初の頃の記憶は曖昧だ。その後まもなく、鏡の悪魔が造られた。


 でも……あんな残酷な経験を強いられるなら最初から造られたくなかった。役割のためだけなら何で感情がいるのか。


 それでも魂を地獄に送る様子が綺麗だとカドが喜ぶから、僕は頑張れる。


♢♢♢


 僕らは冬の始めに海を渡り、北の港町に門を移した。雪が僕たちの降りた岬のほとんどを白く覆っている。ルキルくんも次の月食にはここに来る。カド以外の誰かと冬をともに過ごすなんて本当に久ぶりだ。


 それから、僕はこの町でナイトとカドを会わせようと決めていた。ひょっとしたら、また僕らはずっと一緒にいられるかも知れない。


 移動して最初の朝、僕は静かにカドの外に出ると、岬の岩に横たわり、新雪に顔を付けた。僕は凍えそうに見えるのかな。


 僕の全身は体表面の温度も一定に保てるから、どこにいても不便はないけれど、カドに触れる時は、その鏡の冷たさを感じたくて、いつも力を解く。 


 今は地面に耳をつけ、降る雪の音を感じている。僕は雨の音より雪の音の方が好きだ。耳を澄まさなければ聞こえない静かな暖かい音で、それは落ちる。雨がピアノならば雪はこの町で良く聞くオルガンの音だ。僕は雨や太陽のような、気をつけていなくても気になってしまうものより、見つけてもらいたがっているものが好きだ。


「安心して、僕は君を聴いてる」雪にそう伝える。


 しばらくそうした後、岬に立って、冬の灰色と白に乱れる海を眺めていると、後ろからカドに声をかけられた。


「シロキさん、せめて何か羽織いなよ」


 カドは僕以上に僕の見た目を気にするから、心配させないように何か羽織りものを探さなきゃな。


 僕が着る物を具現化しても良いのだけど、明日、お祭りで人間に見られても自然な恰好でいたい。少しみんなの身なりを参考にするために町に降りてみようと思った。

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