「そうなんですか」
「僕らは外の世界でも門の中の空間でもずっと一緒で、双子みたいだとからかわれてた。あの頃はカドも僕と同じくらい幸せだったと信じたいよ。ある時、カドが……酷い怪我をしてね。使いの身体と僕の力でも修復ができないほどで、躊躇していたら身体も魂も破壊されてしまう状態だった。僕はあの子の魂を失いたくなくて、壊れかけの身体ごと、門に閉じ込めて融合したんだ。カドは誰にも破壊されない鏡の門になった。今のカドは、ガジエアで一瞬は切り裂けたとしても、直ぐに自力で元に戻れるくらい強い。でもそれはカドの望みだったのかな。怖くていまだに聞けないんだ。僕のわがままで自由を奪ってしまった」
「シロキさん、ファミドが怪我をした時、傷を完全に治せなかったって、すごく悲しそうでした。カドさんのこと思い出していたんですか」
「ごめんね、ファミドを治してあげられなくて。僕は本当にいつも中途半端だな。ナイトがついていてくれたらって、いつも思う」
「それって、この間の夜の悪魔のことですか。本当は誰がファミドにあんなことをしたんです? あの悪魔でないことはわかっています。だって、冷静過ぎてちょっと怖かったけど、すごく綺麗な目をしていたから。悪魔が神様の使いを破壊しようとする道理なんかないですし。何より……あんな近くにいてファミドが落ち着いていました。危険な悪魔なら僕を守ろうとするはずです。例え自分が破壊されたとしても」
ルキルくんは僕と違って聡明だから、とっくにわかっているよな。
「何故あんなことになったのか、あの時の悪魔にまた会う機会があるから確かめるよ。もう少しだけ僕に時間をくれるかな。悪魔の彼――ナイトは鏡の悪魔。僕が唯一憧れている存在だよ。神様が悪魔に憧れてるなんておかしいよね」
「いいえ、おかしくないです。だってあの悪魔、シロキさんに良く似ているのに動じないっていうかすごく落ち着いていて、頼りがいが……」
「ごめん、それ以上言わないで。彼が完璧なのは良く知ってる。憧れと劣等感が同時に来ちゃうからやめて」
ルキルくんが出会ってから初めて声を出して笑った。
「シロキさん、僕のことかわいい、かわいいって言いますけど、シロキさんだってかわいいじゃないですか」
「僕は全然かわいくなんかないよ」
そんなこと、初めて言われて驚いたが、ルキルくんは変わった神様だからそう感じるのかもな、と勝手に納得した。
「でも神様と全く同じ名前の悪魔がいるなんて珍しいですね。僕、ほとんどの時間を人間の世界で過ごしているから、地獄には疎いんです」
ルキルくんの言う通りだ。神様の種類は地獄の数より圧倒的に多い。だから多くの神様は自分と相対する地獄を持たない。水や炎といった大まかな属性の地獄を自身の地獄としていることはあるが、鏡合わせではない。
「そうだね、僕たちは珍しいのかも。でも鏡の地獄はもうない。カドを融合した少し後に消えたんだ」
「じゃあ、あの悪魔は……」
「鏡の地獄が壊れた時、僕が人間の世界に降ろしたんだ。この話は今度にしよう。思い出すと結構消耗しちゃうんだ。ルキルくんは不思議だな。こんなこと話すつもりじゃなかったのに、どんな僕でも寄り添ってくれそうな気がして。ルキルくんが月の神様だからかな」
ルキルくんが僕の腕にしがみついて言った。
「シロキさん、僕が最低なシロキさんを知っても、夢に見ていて良いですか。許してくれますか」
こんな事を言われたら普通は嬉しいんだろうか。僕は悲しくなる。カドにもナイトにも最低な僕を責めて欲しかった。優しい二つの存在はこれからもずっと僕を苦しめる。
「僕は許すけど、ルキルくんはこれ以上僕を許さないで」