月の神様はルキルくんと名乗った。
土地の神様から畏敬の念を抱かれていて、滅多に姿を現さない神様だ。
ごく稀に会ったことのある土地の神様に聞くと、口を揃えてかわいかったと顔を緩めた後、そして寂しそうだったと付け足した。
僕はナイトと再会した日から、毎日数時間をルキルくんと過ごした。使いのファミドは精一杯手当をしたが、やっぱり傷が残ってしまい僕は心が痛かった。
ファミド自身は気にする様子もなく僕に懐いてくれる。この子もカドに似ている。あの時、ナイトの申し出を受けていたらファミドはどうなっただろう。いや、それはできないよな、そう考え直す。
ルキルくんは無条件に僕を信じて色んな事を打ち明けてくれた。
「太陽の神様と比べてしまうんです」
ある日の夕方、ルキルくんは俯いて言った。
「僕は太陽の神様みたく人間が毎日その機嫌に一喜一憂する大切な存在ではないから、たまに見つめられると緊張してしまうんです。シロキさんは見つめられてばかりなのに、いつも自然でいられて凄いな」
太陽の神様、一度だけ会ったことがある。その目は寂しそうで、ルキルくんに良く似ていた。僕には太陽の神様も同じくらい孤独に見えたがルキルくんには伝えなかった。
「僕はぼんやりしてるって、良く自分の使いにも言われるからね。鈍感だから見つめられても気にならないだけだよ。それにルキルくんはたくさんの悲しみに寄りそってる。僕は悲しい時、月を見て休息するんだ。太陽は一緒に悲しんでくれそうにないからね。あ、太陽の神様に会っても今のは言わないで」
「僕を見てたんですか……そうだったら夢みたいだ。シロキさんの使いも僕のファミドみたくしっかりものなんですか? 僕、シロキさんの使いに会いたいな」
「カドには……僕の使いだけど、今は『役割』の準備をさせてあげたいから、『役割』が終わってからね。『役割』の時は僕なんかよりカドの方が大変だと思うよ。門の大きさや形をかなり変えなきゃならない。そんな時でもカドは僕に『シロキさんは疲れただろ、休んで』何て言うから愛おしくて仕方ないよ」
「シロキさんの使いは……門と融合しているんですよね。カドさん自身、長い間そうしているから普通になっているかも知れませんが、神様といつも一緒にいられない使いは寂しいでしょうね……。あ、僕、出過ぎたことを言いました。ごんめなさい。なんとなくカドさんに共鳴してしまって」
ルキルくんとカドは気が合うと思った。いつでも待っていてくれる、寂しくて優しい存在同士。
「いいんだ、僕のわがままのせいでカドには辛い事ばかり押し付けてる。ルキルくんには特別に話すけど、カドにはもともと身体があったんだ」