新しい光が俺に反射し、鳥たちが騒ぎ出す頃、やっとシロキさんが休息を終えた。
白い着物も髪も乱れ散らかしながらシロキさんが伸びをして、俺から出ようとした。
「シロキさん、少し整えてよ。月の神様に幻滅されるよ」
シロキさんが乱れた姿のまま笑う。
「そうだね、お兄さんらしくしていないと」
どんなに乱れている時も汚れている時も、シロキさんはいつも清らかな空気を纏っているから全然嫌な感じはしない。いや、むしろずっと映していたいくらい素敵だ。
そんな事を言ったなら、ずぼらなシロキさんは喜んで汚いままでいるに決まっているから、絶対伝えないけど。万が一にでも人間に見られたら神様の威厳がない。
俺の身体、鏡の立方体の一部が溶けてシロキさんが外に出る。
ちゃんとしていれば誰が見てもすごく綺麗な神様だ。身体が白銀に発光しているようなシロキさんを映しながら思う。
それからしばらく、シロキさんは地面に落ちた深い赤や黄色の葉を拾ってパタパタ顔の前で動かしてみたり、リスを追ってみたりしていた。
あまりのわざとらしさに俺の方が先に痺れを切らした。
「シロキさん、月の神様の所に行きたいんでしょ。行ってきなよ」
シロキさんはびくっとして俺を見上げた。
「そうだけど、いいの?」
神様本体が使いの顔色を窺い過ぎじゃないだろうか。
「いや、むしろ俺の方が気になって仕方ないから、行ってよ」
シロキさんは俺を独りにすることを酷く嫌がる。俺は独りでも平気なのにシロキさんが怯えると共鳴してしまって俺も怖くなる。
俺にはシロキさんの感情がわかる。昨日の夜だってシロキさんがいくら平静を装っても、帰ってくる前から衝撃を感じていた。
シロキさんが俺に両掌を当てて言った。
「うん、実は月の神様に遊びに行くって約束しちゃって。いつ言いだそうかと思ってたんだ。お前に隠し事はできないね。でも『役割』の時間までには戻ってくる。昨日みたく遅くならない。明るいうちに戻るよ」
「月の神様と約束したのか。神様なんだから約束は守ってよ」