「え?」
今度は俺が声を出した。鏡の神様、奇跡の神様と呼ばれている、 あの神様か?
隣でカドが胸を掴み苦しそうな顔のまま言う。
「……鏡の神様、シロキさんは地獄にいるの? ルキルくんはなんでシロキさんを探しているの?」
「地獄にいる可能性が高いですが、もしかしたら極楽にいるかも知れません。シロキさんと僕は人間の世界で神様同士の約束をしたんです。でもシロキさんは約束を守らないまま、ある日、急にいなくなってしまった。だから地獄にまで探しにきました。カドさん……苦しそうですよ。座って下さい。ほら、ファミドに寄りかかって」
カドの顔色を心配したルキルくんが、ファミドの一番柔らかそうな腹の部分に促した。
ルキルくんに聞きたいことがたくさんあるが、まずこいつを休ませてやらないと。
「俺も隣に座っていいかな」
「もちろん」
礼を言ってカドの隣に腰を下ろす。尻尾側に座った俺に、ファミドがわざとらしくばふばふと長い銀色の尾をぶつけてじゃれてきた。本当に懐っこい狐だ。
「今言うのも何ですが、カドさんがうらやましいな。いつも守られていて」
ルキルくんは寂しそうに笑いながら、ファミドの頭側に、俺たちから少し離れて一人そっと座った。顔色の悪いカドを真ん中に、三人で横並びにファミドに背を預ける。
急にルキルくんが孤独に見えて、耐えきれず、カドの背中越しにその肩を掴んでこちらに引き寄せた。
カドとルキルくんがいくら俺に比べて小柄とはいえ二人を横並びに片腕で抱くのは無理があった。
真ん中のカドがつぶされて「うっ」と小さく声を上げ、ルキルくんはカドと頭がぶつかって「いたっ」と短く言った。余計二人を動揺させてしまった。
「悪い。その、ルキルくんにもっとこっちに来て欲しかっただけなんだ。あ、嫌ならいいんだ」
ぽかんとしているルキルくんに向かってカドが忠告する。
「エンドってこういう所があるから気をつけて。天然なんだ。ルキルくんが寂しそうな顔するから。『こっちに来い』って普通に言えばいいのにね。先に行動しちゃうんだ」
確かにそういう所があるかも知れない。
「本当に優しい悪魔ですね」
ルキルくんの茶色っぽい目はもう泣いていない。
「悪魔の浄化は厳しいものだと聞きますが、同時にこんなに格好良くて、優しいのだから矛盾していますね。人間が惹かれるのもわかります。僕たちは敵わないな」
ルキルくんは素直に俺たちに身体を寄せた。ファミドが顔をこっちに向け笑っているように見える。太陽はもう影を作らない場所まで登っていた。
気になっていることの一つを聞いてみる。
「月の神様は夜と一緒に移動すると思っていた。昼間でもちゃんと実態を持って、こうして現れてくれるんだな」
「移動……僕たちの、神様の移動はそういうんじゃないんです。僕も二人に知って欲しいです。神様の仕組みも、シロキさんと会った時から、彼がいなくなるまでのことも。少し長くなるけど、カドさんも何か思い出すかも知れない」