「ルキルくん……」
カドが呟く。探していたのが月の神様だったことには驚いたが、同時にカドが名前の方に反応したことも驚いた。
更に「くん」呼び。この見た目ではそう呼びたくなる気持ちもわからないではないが、月の神様は太古の神様だ。
ほら、神様も下を向いてしまったじゃないか。
自分よりずっと後に作られた存在に子ども扱いされて気分を害したんじゃないだろうか。
ところが、意外なことに顔を上げた月の神様の表情は今にも泣きそうだった。
「ごめんなさい。あなたが僕のことシロキさんと同じ呼び方で呼ぶから……」
「あ、こっちこそごめん。君はシロキさんを探して地獄に来たんだよね。そうだ、俺はカド、それでこっちは炎の悪魔のエンド。よろしくね。その狐はファミドっていうの?」
馴れ馴れしいカドに全く違和感を持たない様子で、月の神様はくすくす笑った。
くるくると良く変わる表情も子どもらしい。
「そう、この子はファミドって言います。カドさんはシロキさんに似ていますね。そちらの格好いい悪魔のエンドさんも、ルキルくんって呼んでもらえますか。そうだな……弟だと思ってもらえたら嬉しいです。だめですか?」
月の神様を弟と思えと、悪魔なのに。
カドのお兄さんに加えて月の神様のまで。でも、そう振る舞うことはできる。
「わかった、よろしくルキルくん」
俺はルキルくんの手を取って言った。
「どうしよう、エンドさんみたいな恰好いい悪魔は初めです。こんな近くで見ると、緊張するな」
ルキルくんの小さくて柔らかい手が少し震えている。確かに神様なのに、どうなっているんだ。シスに顔を寄せられた時のカドみたいな反応だ。
俺は手短に俺たちがルキルくんを探してここまで来た理由を話した。
「なるほど、僕に会えば記憶が戻るかと思ったんですね。でもカドさん、全部忘れた訳ではないでしょう? 忘れていたら僕には辿りつかないもの。カドさんは神様の匂いがわかるはずです。その記憶はあるんじゃないですか?」
それは俺も考えていたことだった。
ルキルくんは優しくファミドを撫でながら横を向く。まつ毛の長い横顔も可愛らしい。
ファミドと合わさるとかわいさが倍増する。
問われた方のカドは俯いて地面を見ている。前髪で表情が見えない。
「俺は……鏡の断片が昨日からどんどん浮かんできて……それが今、ルキルくんに近づくと静止して、映っているものが見えそうな、そんな気になるんだ。神様の力のせいかな」
カドはそう言うと辛そうに顔を上げた。
記憶を取り戻す過程はそんなに苦しいのか。
「ルキルくん、シロキさんのことを教えてくれる?」
ふーっとルキルくんが息を吐いた。
「シロキさんは鏡の神様です」