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第13話 狐を連れた神様

 銀色の狐がゆっくりと速度を落とし止まった。


 広大な草原の真ん中。狐が優雅に腰を下ろして俺たちは大きな背中からするりと地面に降りた。


 まずは狐を撫でやりたい。こいつのおかげで本当に助かった。


 頭の方へ歩き出した瞬間、狐の方がくるりと向きを変え突進してきた。俺とカドは仰向けに青い草の上に倒され、その上に狐が覆いかぶさる。


 大狐がその口を大きく開いた時は本気で喰われると思ったが、神様の狐が悪魔と正体不明な男を喰うはずはない。ざらざらした赤の舌で俺とカドを交互に舐めてきた。くすぐったい。


 カドはけらけら笑って身体を転がしている。動物の舌で顔……というか、全身を舐めまわされているのに何故かいい匂いがする。獣の臭いが全くない。湿った鼻から出る息さえ優しい香りがする。


「エンド、この子、目の上に傷があるよ」


 カドが狐の耳の分厚い部分を触りながら言った。


 確かに瞼の上に、目に沿って痛々しい傷跡がある。ふさふさした毛に隠れていて気がつかなかった。カドが傷に顔を寄せる。


「こんなにきれいな目に。かわいそうに、痛くないかい」


 俺も倒されていた草の間から立ち上がり、狐の瞼にそっと手を置いた。


 痛くはなさそうだ。むしろ撫でられて、気持ち良さそうに目を細めている。


 カドと狐の濃い茶色の目は良く似ている。瞳の中で常に不安定な光が揺れていて美しい。 


「神様の狐なのに、この傷は治らないのかな」


 俺が呟いた時、狐の尻尾の方から透き通った声がした。


「治せなかったんです」


 狐がそちらを振り返り、甘い鳴き声を上げた。


「おいで、ファミド」


 それが名前なのか? 身体を柔らかく曲げて、声の主に顔を寄せている。


「二人とも無事で良かったです」


 薄い紺色の着物の少年が、無邪気な笑みを浮かべて立っていた。


 神様だな、と直ぐにわかった。カドのような『神様的』なものではなく、完全な、完成されているのに欠けた存在。


 聞いていた通り、そして狐を見て想像した通りの可愛らしさだ。


 細身のカドより更に華奢な身体で、薄い茶色の大きな瞳は好奇心にあふれているが、どこか怯えているようにも見える。


「神様……?」


 カドが少しかすれた声を出した。


「あ、はい。ルキルっていいます。月の神様です」

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