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第7話 水の地獄2

 歩幅を合わせて歩く俺の横で、カドがぶつぶつ独り言を口にし続けている。


 きっと水の地獄での様々な場面を想定して、どうやって俺を守ろうか思いを巡らせているのだろう。


 ふと、少し前方に赤く小さな花がいくつか現れ、カドが子どものように駆け寄った。


 後を追い、手に取って良く見ると、それは茎ではなく小さな枝に咲く燃えているような花だった。以前来た時に見なかったのは、季節ではなかったからだろうか。


「この花、お前に似合うな」


 俺はカドの頭を花に近づけた。


 よろけるカドの顔を花の横に並べてみる。


「やっぱり似合う」


 まじまじと見つめて言った。


「ちょと、やめろよ」


 俺の手を振り払いながらカドが言った。


「お前の方が似合うだろ、赤い花、炎みたいで。それに……」


「なんだ?」


「お前、こういう時、花を折るんじゃなく、俺の顔の方を花に寄せるんだな」


 そう言って下を向く。


「当たり前だ、花は動けないけど、お前は動けるだろ。あっちにはもっとたくさん咲いていると思う。そろそろ境界域だ」


「花がたくさん?」


 カドが走って傾斜を登って行く。


 俺もカドを追って登り切ると、そこには地面が燃えるように赤い花が広がる光景があった。


「すごいな……」


 カドが上がった息を吐くのと一緒に声に出した。


 赤の向こうに同じ種類と思われる白い花の集団も見えた。カドが炎を突っ切るように赤い花の中を走り、俺に手を振った。


 俺も指先で花に触れながらカドの方へゆっくり歩く。


 今度は白い花の前が目に入ってくる。


「この色もきれいだな」


 俺が言うと、カドも満足そうな顔をして頷いた。


「そうだな。お前、やっぱり赤い花よりこっちの白の方が似合う」


 そうだろうか。じっと花に見入っている俺にカドは続けた。


「エンドは白い服も絶対に似合うだろうな。いつも甲冑みたいに隙のない重そうな黒いのばっかり着てるけど、暑くないのか? 確かにお前の、その白っぽい金色の髪には合ってるけど。俺なんてこんな薄い着物一枚だぞ」


「さあ、暑くはないな。着ているものは……造ったやつの趣味だろ」


 俺たちが花と戯れていると、後ろから知らない声がした。


「お前、神様の――」


 振り返ると碧く美しい目がカドを見つめていた。こんな見通しの良いところなのに気がつかなかった。


 水の悪魔か――。



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