歩幅を合わせて歩く俺の横で、カドがぶつぶつ独り言を口にし続けている。
きっと水の地獄での様々な場面を想定して、どうやって俺を守ろうか思いを巡らせているのだろう。
ふと、少し前方に赤く小さな花がいくつか現れ、カドが子どものように駆け寄った。
後を追い、手に取って良く見ると、それは茎ではなく小さな枝に咲く燃えているような花だった。以前来た時に見なかったのは、季節ではなかったからだろうか。
「この花、お前に似合うな」
俺はカドの頭を花に近づけた。
よろけるカドの顔を花の横に並べてみる。
「やっぱり似合う」
まじまじと見つめて言った。
「ちょと、やめろよ」
俺の手を振り払いながらカドが言った。
「お前の方が似合うだろ、赤い花、炎みたいで。それに……」
「なんだ?」
「お前、こういう時、花を折るんじゃなく、俺の顔の方を花に寄せるんだな」
そう言って下を向く。
「当たり前だ、花は動けないけど、お前は動けるだろ。あっちにはもっとたくさん咲いていると思う。そろそろ境界域だ」
「花がたくさん?」
カドが走って傾斜を登って行く。
俺もカドを追って登り切ると、そこには地面が燃えるように赤い花が広がる光景があった。
「すごいな……」
カドが上がった息を吐くのと一緒に声に出した。
赤の向こうに同じ種類と思われる白い花の集団も見えた。カドが炎を突っ切るように赤い花の中を走り、俺に手を振った。
俺も指先で花に触れながらカドの方へゆっくり歩く。
今度は白い花の前が目に入ってくる。
「この色もきれいだな」
俺が言うと、カドも満足そうな顔をして頷いた。
「そうだな。お前、やっぱり赤い花よりこっちの白の方が似合う」
そうだろうか。じっと花に見入っている俺にカドは続けた。
「エンドは白い服も絶対に似合うだろうな。いつも甲冑みたいに隙のない重そうな黒いのばっかり着てるけど、暑くないのか? 確かにお前の、その白っぽい金色の髪には合ってるけど。俺なんてこんな薄い着物一枚だぞ」
「さあ、暑くはないな。着ているものは……造ったやつの趣味だろ」
俺たちが花と戯れていると、後ろから知らない声がした。
「お前、神様の――」
振り返ると碧く美しい目がカドを見つめていた。こんな見通しの良いところなのに気がつかなかった。
水の悪魔か――。