A:「最近、集めてるんだよね」
B:「ああ、そうなんだ?」
A:「集めるって、楽しいからね」
B:「楽しいんだ? じゃあ、良かった」
A:「……いやいや。何集めてるか聞きたいでしょ?」
B:「聞きたいか、聞きたくないかで言えば、聞きたいかな」
A:「じゃあさ。聞いてみてよ。……いいよ! 聞いて!」
B:「聞かれたいんでしょ?」
A:「聞かれたいか、聞かれたくないかで言えば、聞かれたい」
B:「やっぱりそう? じゃあ聞くわ。悪いから」
A:「うん、聞いてみて」
B:「何集めてるの?」
A:「内緒だよ? 『箱』を集めてるの」
B:「箱って、何かを仕舞ったりするやつ?」
A:「何かを取り出したりもするけどね?」
B:「へぇ、やっぱ出す時もあるんだ」
A:「そうだねぇ。俺くらいになると、仕舞うだけじゃなくて取り出したりするね」
B:「へぇ、そうなんだ。どうやって取り出すの?」
A:「えぇ? 取り出し方? 知りたい?」
B:「うん。俺あんまり箱とか集めたことないんで、詳しくないから」
A:「そっかぁ。初心者ね。なら、いいよ。取り出し方、見せてあげる」
B:「あ、やってくれるんだ。悪いね」
A:「いいよ、いいよ。こうやって初心者にお手本を見せてあげるのも、ひとつの務めだからね」
B:「そういう考え方なんだ」
A:「そういう考え方だね、俺くらいになると」
B:「やっぱすごいんだね。で、どうやるの?」
A:「まず箱を用意するんだけどさ。どんな箱が良い?」
B:「箱かー。考えてなかったなー」
A:「だよね? 普段どんな箱にしようとか考えてないよね、初心者は?」
B:「そうかぁ。俺は初心者だからなぁ。じゃあ、クッキーの箱で良い?」
A:「クッキーでもさ、いろいろあるじゃない? 四角い箱とか丸い箱とか」
B:「あー、丸い箱とかもあるかぁ。クッキー選んじゃったからなあ」
A:「形のチョイスがね。初心者にはちょっと難しいよね、クッキーだと」
B:「そうなのねぇ。クッキーは難しかったかぁ」
A:「でも、気にしないで。初心者あるあるだから。クッキー選ぶ人多いの」
B:「優しいねぇ。そんな風に言ってもらえると、気が楽になるわ」
A:「いいの、いいの。そういう気配りも苦にならないから、俺くらいになると」
B:「悪いね。じゃあ、丸い箱にしてもらおうかな」
A:「わかった。丸い箱ね。やってみるよ?」
B:「うん。お願い」
A:「こういう円筒型の箱で――。こうふたを開けて、こう指で端っこを摘まむわけ」
B:「やっぱ摘まむんだぁ。それで?」
A:「こう水平を保ったまま、箱から取り出すの」
B:「あれ、クッキーなのに随分慎重に持ち上げるね?」
A:「うん。ゴーフルだから」
B:「えっ? 何?」
A:「円筒形の箱に入ってるのは、ほぼ100パーセントゴーフルだから」
B:「え? クッキーの詰め合わせってパターンもあるんじゃない?」
A:「ねえよ、バカ! 『丸い箱』つったら、ゴーフル以外ないだろう!」
B:「いや、いろんな形のクッキーが丸い缶に入ってる奴があるじゃない?」
A:「ばーか! 自分で『缶』つってんじゃん! 『缶』は箱じゃないの!」
B:「すげえ、当たりが強くなってんな。じゃあ、いいよ。ゴーフルで」
A:「初心者の癖に偉そうにしないでね。さっきやったように、ゴーフルの場合は指でつまんでそっと取り出すわけ」
B:「ふうん。それでいいの?」
A:「そうだよ。ゴーフルを割らないように、丁寧にね」
B:「でもさ? 俺、クッキーって言ったよ?」
A:「そうだね。だから、ゴーフルを取り出してあげたでしょ?」
B:「ゴーフルってクッキーじゃないからね」
A:「えっ? 違うの?」
B:「ゴーフルはワッフルのことだから」
A:「そうなの? 知らなかったわ」
B:「そうなんだよ。俺、ワッフル専門家だからそこら辺は気になるんだよねぇ」
A:「そうだったんだぁ。俺ワッフル初心者の癖に、調子に乗っちゃったね」
B:「まあ、別にいいよ。お前、ワッフル初心者だし」
A:「――。俺、箱集めるのやめるわ」
B:「それが良いね」
A、B:「どうもありがとうございましたー!」
(完)