シールド製作の核心部分が限られた人間で行われた。リリーの体から骨、肉と要らない部分を切り取って魔法を展開させるための主要部分である、脳と子宮と神経だけを残す予定だったが、すべての臓器と神経を残すことになった。
縦型のカプセルの中には、体の中身だけがそのままむき出しになった状態で保存されている。これからこのカプセルが、この国の要となるのだ。
前の実験はレプリカだが、今日はオリジナルでの最終実験の日だった。
リリーが現れて捕獲されてから半年。改良を重ねてきた。
計算上、成功するはずだ。成功しなかったら……いや! 成功させないといけないんだ! ドルフは白衣のポケットの中になる、ベルベットの小さい箱を掴んで誓った。
実験場には、藤堂防衛大臣、その隣には田中議員がいる。どうやら藤堂のお眼鏡にかなう人間だったらしい。
よしっ! と心の中で気合を入れて、実験を始めた。
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「エアル!!」
自宅の玄関扉を勢いよく開けると、エアルが紅茶を用意して待っていた。妖精たちがドルフが帰ってくるのを、いつもエアルに知らせているからだ。でもこの時ばかりは、内緒にしてくれーー! と言いながら帰ってきたが、妖精からの報告はあったみたいだ。
「おかえりなさい。ドルフさん」
「エアル!」
帰ってきた勢いそのままに、ドルフはエアルを抱きしめた。
「成功したんですか?」
「ああ! 成功した!」
「ふふふ。良かったです!」
自分の事のように喜んでくれているのが分かるが、エアルは少し勘違いをしている。ドルフはエアルの前で跪いて、ポケットからずっとお守りのように持っていた箱を取り出した。
「エアル・テイラーさん。俺と結婚して欲しい」
そしてエアルに向けて箱を開けたそこには、キラキラ光るダイヤモンドの指輪。なんでエアルは返事をしてくれないんだ? もしかして早まった? でもエアルも自分と同じ気持ちな、はず。
一向に動きがないエアルに痺れを切らしたドルフが聞いた。
「嫌、だったか?」
するとエアルもドルフと同じように床に膝をついた。
「!」
ドルフの顔を、大事なものを触るみたいにエアルが両手で包むと、そのままキスをしてきた。
「私をドルフさんの妻にしてください」
目の前でアースアイが、持っているダイヤモンドよりも、価値ある輝きを放っていた。
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シールドは完成し、日本は諸外国からの脅威からそれなりに開放された。
そしてシールドを購入したいと言う友好国のために、提供することになった。その際に、リリー本体のクローンを作る事になった。
人型に対しては、まあ色々と対国に対して「人間の形のほうが技術上よかった」と説明している。ただやはりクローンなので、オリジナルよりも少し劣るが、問題ないとされた。もちろん、そこの説明は省いている。
実際、臓器だけでの実験では、思った成果は出なかったが、完全体のクローンであれば成果があったので、そういう事なのだろう。
リリーの体が防衛、いわばシールドだけで生かすのは勿体ないと考え、エアルに国を良くするために、使える魔法に付いていドルフは勉強をしている。緑を豊かに、天候での被害を最小限に抑えるために。
リリーは沢山の命を、元の世界で奪った。そしてこの世界では多くの人の生活を守る盾になっている。まるで……「生贄の魔女だな」とドルフはポツリと零した。
「あなた?」
「ん? 何でもないさ」
研究施設からそう遠くない場所に家を建てたドルフは、紅茶を飲みながら子供たちが魔法で遊んでいるのをエアルと寄り添い合いながら、平和な時がずっと続くことを祈るばかりだった。
了