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第9話

 エアルの衝撃の告白を受けたからも、研究は進んだ。

 そして一つの結論に辿りついた。ドルフの考えが正しければ、長年の夢だったシールドは実現可能だろう。しかし問題があった。


 施設内にある家で、エアルが用意した食事を目の前にドルフは、スプーンをブラブラとさせている。


「ドルフさん。何か考え事ですか?」

「え?」


 スプーンを指摘されて「ああ、すまない」とテーブルに置いた。


「研究の事ですか?」

「まあ、そうなんだが」


 そう言えば、エアルがここにきて半年ほどになった。最初は協力こそしてもらっていたが、データーを取り終わった今では、ほとんど好きに過ごしてもらっている。


 この世界の生活にもかなり馴染み、施設内の人間とも仲良くなっていて、それなりに友人もできている。仲が一番いいのが室井というのが、何とも言えないところではあった。


「ずっと気になっていたんだが、エアルは自分のいた世界に戻りたいと思った事はないのか?」

「突然ですね。そうですね……無かったと言えば嘘になりますが、私はドルフさんの傍にいたいと思ってしまったので。それに私の両親は亡くなってしまって独り身ですから」

「そうだったのか?」

「そう言えば私たち、しっかりとお互いの事を話してなかったですね」

「すまない。どうしても研究の事で頭がいっぱいになってしまって」


 エアルに指摘をされて、ドルフは今その事実に気づいてしまった。それなのにいつもこの家で自分の帰りを待ち、夕食や風呂の用意をしてくれていた。


 もちろん、最初に好きに過ごしてくれていい。自分はこの家に帰らないからと言っていた。なのにエアルはドルフの体を心配して、遅い時間でも研究室に迎えに来きては、一緒に家に戻ってきて食事を摂った。


 家政婦みたいな事をしなくてもいいと断っても、エアルは止めなかった。おかげですっかり施設内では夫婦扱いをされている。セックスはおろか、キスもしていないのに、だ。


「んんっ」

「ドルフさん?」

「色々と悪いと思って」

「私は好きでやっているので」


 あれだよな。もう日本では絶滅危惧種か天然記念物、文字でしか見たことがない大和撫子ってこんな感じなんだろうと、白く美しいエアルに見とれていた。

 それよりもシールドについて話すなら今だろうと、ドルフは決心した。


「その、シールドなんだが、試したいことがある」

「どんな事を試したいのですか?」

「研究、分析した結果だが、魔法を使う際に重要な臓器があるんだ。それは子宮と脳だ。そこで魔力が生成されている。一つ聞きたいんだが、男性の魔使いはいたか?」

「いえ。魔法を使えるのは魔女、女の人だけです」


 やはりそうか。本の中では男女ともに魔法を使える話しがほとんどで、それが当たり前だと思っていたが、エアルの世界では女性特有の能力なのだ。


「そうか。それでだ、エアルの子宮の細胞を採取させて欲しい」

「子宮って、赤ちゃんのお部屋ですか?」


 赤ちゃんのお部屋って可愛い表現、聞いた事はないぞ。なんだその可愛い言い方。天使か? と内心悶えるているドルフの前で、お腹に赤ん坊がいないのに無意識だろう。そっとエアルはお腹を押させている。


「大丈夫だ。どうこうなる訳じゃない。立体 映像から作れないこともないんだが、やはり生の細胞のほうがいいんだ。頼む!」


 ドルフはテーブルに頭を付ける勢いで、頭を下げた。


「――分かりました」


 ホッとしたドルフは「すまない。ありがとう」と立ち上がって、エアルの手を握った。



 翌日には、臓器生成のためにエアルから細胞を採取し、脳から脊髄は立体映像から作製をする事になった。

 そして一週間が経ち、シールドに使うエアルの主要臓器が完成した。


 実験場でデータを打ち込んで、起動させる。エアルもドルフの横で様子を見守っていた。どうか可動してくれ、と手に力が入る。


「シールド起動」


 ウインと機械音が鳴り響く。そして丸い円陣が浮かび上がった。


「よし! やったぞ!」


 研究員から歓声が上がる。


「ボールを投げてみてくれ」


 研究員の一人がボールを投げると、シールドが跳ね返し同時にワッとさっきよりも大きい歓声が上がった。しかし円陣は消えてしまった。


「どういう事だ!」


 再起動するために研究員たちが声を上げながら、必死の形相で動き回り作業をしているが起動する気配は全くなかった。


 やはりな、というのがドルフに感想だった。こうなる事を大体予想をしていたのだ。


「ドルフさん?」

「ああ、大丈夫だ。おーーい皆! 実験は失敗だ。また一からやり直しだ」


 研究員たちの、落胆の声と悔しがる声が聞こえてはきたが、ドルフは何もなかったようにエアルを連れて実験場を後にした。


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