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第7話

 何故、こうなっている。

 部屋と言ってもマンションや施設の一室ではなく、簡単に作られた平屋建ての家。3LDKで、一人では持て余す広さだ。それはいい。

 ここまでの移動中、何故かエアルがドルフと腕を組んできて、ちょうどいい大きさのおっぱいがずっと当たっていた。ちょっとその温もりで、そこだけ汗で湿っている気がする。だってそこに神経が全集中するから仕方がない。


「なあ、エアル」

「はい」

「ずっと気になっているんだが?」

「なんでしょうか? あ、もしかして」


 何かあるのか? とドルフが言葉を待っていると、エアルが爆弾を落としてきた。


「ドルフさんは、処女でないとダメなんですか?」

「――はいっ?! なんて?」


 な、な、何で急に処女がどうのこうのって話しになったんだ? なんか口走ったか? どう考えてもそんな話題を出した記憶がドルフにはなかった。


 そしてドルフは気付いた。エアルの処女でないとダメなんですか? これってつまり……処女とちがうんかーーいっ! 見た目詐欺じゃん! 別に処女厨じゃないんだけどさ! 科学者の癖に先入観をもっちゃ駄目でしょ俺!


 頭の中で一人で暴れているドルフだったが、エアルが目を伏せた。


「ドルフさんの妻には相応しくないですか?」

「なんて?」

「だってドルフさん、私に愛しているって」


 そんな事――言ったな。確かに協力してくれるとエアルが返事をしてくれたから言ったたけど、別に他意はない。愛してるなんて、雰囲気と親愛で言っただけだ。そしてドルフはエアルがこのもともとこの世界の住人ではない事を思い出した。


「あ、あのエアルの国の結婚制度を聞いてもいいか?」

「はい。交際は自由ですが、結婚すると決めた相手にだけ、愛していると伝える事で婚約は成立します。もちろん相手が受け入れてくれたらです」


 あれれーーさっき愛していると言った事に対してエアルは、妻にふさわしくないですかって言っていたよな。

 あれれーードルフは全身から冷や汗が流れているの嫌でも感じていた。


「エアル。俺と結婚しちゃっても」

「はい。人々を守りたりというドルさんの考えは真正の魔女、私と同じ考えですし、その想いも共有できる人です。それに精霊たちもドルフさんならって、言っています」

「精霊? え? 精霊っているの? ここに」

「はい。ここは緑が豊かで大事にされているのは分かります。とはいっても、私がいた国の精霊たちよりも若いですが」


 精霊に若いとか年齢があるのかと、肝心な事からドルフは目を背けた。


 ダメダメだ! 本来の問題から目を背けるな! 結婚? この俺が結婚するのか? え? してもいいのか? 全然イメージが湧かないんだけどな! 


 混乱した頭は、今まで考えた事もない内容に、上手く機能してくれない。


 エアルから、ドルフと夫婦になると決定しているのが雰囲気で嫌でも伝わってくる。だから移動中、腕を組んで歩いていたのだとやっと理解できた。


「ドルフさん? 中に入らないんですか?」

「え? エアルの中?」

「え?」

「え?」


 ああぁぁぁぁーーーーっ! 煩悩と欲望が流れ出てしまった。ドルフは頭を抱える。


「んんっ! 中に入ろうか」

「え、あ、はい」


 何もなかったし、何も言わなかったとドルフは空気を作り、人体認証で玄関を開錠した。

 内装はドルフがイギリスの血が流れているからとブリティッシュ仕様ではあるが、作りは日本式で、玄関で靴を脱ぐようになっている。


「ここで靴を脱いで入るんだが、えっとスリッパは……あったあった。これを履いてくれ」


 使ってない下駄箱にあったスリッパを出した。何故なら廊下が薄っすら白くなっているからだ。


「あとで掃除を頼むから、少し我慢してくれ」


 エアルの服やら生活用品一式も揃えないといけないが、俺は分からないな。その辺は同性の室井に任させようと決めた。


「クラビス」


 エアルが言葉を紡いだ瞬間、家の中心地よい風が吹いた。


「もしかして」

「はい。魔法で掃除をしました」


 リビングまで移動すると、ダイニングテーブル、サイドボードも買ったばかりみたいにピカピカになっている。ドルフは部屋の中の光景を見て、そのまましゃがみ込んでしまった。


「ドルフさん、どうかしましたか?」

「こう、何て言うか、科学文明を野球バットでぶっ飛ばされた感じがしただけだ」

「はあ」


 少しして立ち直ったドルフは一通り部屋を確認し、室井に電話をかけてエアルの生活用品やらを一緒に揃えてもらうように伝えた。

「あの、室井さんとどうやってお話をしていたんですか?」


「通話か? それは耳の後にシール、分かるか?」と説明をしながら自分の耳の後ろ見せた。


「何か貼ってあるだろ? これで相手の声が聞こえるんだ。で、顔を見ながら通話する時は、腕に埋め込んであるチップ、電源というかボタンを押すと選択パネルが目の前に立ち上がる仕組みな訳」


 実演を兼ねてエアスクリーンを立ち上げた。通話マークをタッチし、連絡先から室井を選ぶ。


「ドルフ教授。まだ何か?」

「すまない。エアルがさっき、どうやって話していたのかって聞かれて、電話の説明でかけた」

「そうですか。エアルさん。ドルフ教授に、何か変な事をされていませんか?」

「はい大丈夫です。それにドルフさんから結婚をする事になったので、夫になるドルフさんなら、何を、そのされても」


 顔を赤らめもじもじしながら答えるエアルに、ドルフは血の気が引いた。


「は? 結婚をする事になったですって? 何で医務室から部屋に帰る短い距離で、なんでそんな話になったんですか? それもさっき出会ったばかりですよドルフ教授」

「で、ですよねーーあははは」

「笑い事じゃねーよ」


 ヤバい。裏室井が出た。裏室井が出る時は、かなり怒っている証拠で、長い付き合いの中でドルフはよく知っていた。


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