今より大分前の冬の出来事。
天主光司は、池袋のとある雑居ビルの二階、ケーキが美味しいと有名な喫茶店に来ていた。
そこで、長年の友人であり、作家の愛蒔大地と久しぶりに会った。小説のネタの為に会っていたのだ。そして話し合いも済み、厚手のコートを着こみ、店をでる。
「俺もお前のような美人の嫁さん欲しいなあ。そう言えば、お前の娘すごい美人らしいな。紹介してくれ」
店の階段を降り、天主が言った。
「俺の娘は小学生だぞ」
愛蒔が言った。
「うー。小学生は無理」
「当たり前だ」
天主は、ロリコンではなかった。
人が大勢いる街中で、女性の声が響き渡る。
「誰か~。ひったくりよ~」
声のする方から、男一人が、女性ものバッグを抱えながらこちらに走って来る。
すると制服姿の警察官が二人、男の方へ。逃げようとする男の腕を掴み、羽交い絞めにしてあっさり手錠を掛ける。
「さすが! 日本の警察は頼りになるな」
天主が言った。
「手際が良いし、かっこいいね」
愛蒔が言った。
「悪党がいるのは悲しい事だが、これはこれで良いモノを見た」
ひったくりはそのまま警察に連れ去られていく。
そもそも、人通りの多い所でひったくりなんてやって成功するわけないのだが。
警察官は、ひったくりから盗まれたカバンを取り返すと、被害者の女性に中身が無事か確認するように促しながら返す。
被害女性は中身を確認すると、無事だと警察に答える。被害女性も警察官もひったくり犯も行ってしまう。
♪チャラリラ~レレレ~♪
何故か派手な音楽が流れ始める。しかも、微妙に力が抜ける。
「ひったくり犯は貴様か!」
やけにハキハキした声で誰かが言った。
その声に誰も何も答えない。当然である。
声の方を見るとなぞの四人が立っていた。
四人とも、この寒空の下、何故か海パン姿で筋肉ムキムキで、全員何故か胸毛がフサフサだ。顔はものすごくクドく汗臭そうだ。
モジャーン!
「モジャモジャブラック!」
グルグルーン!
「グルグルブラウン!」
チリチリリーン!
「チリチリダークブルー!」
サラサララーン!
「サラサラゴールド!」
・・・・・・・!
「・・・・・・・・!」
四人はポーズを取ると、「我ら、胸毛戦隊、ブレストヘアー!」と叫んだ。
モジャーーン!
謎の音と共にスモークがどこからか、立ち上る。
それを見ていた者、全員の思考が停止した。
四人の胸毛男たちは、「ひったくり犯はお前か!」と近くにいる人々に聞き込みを始める。
みんな関わり合いになりたくないらしく、違うと首を振るだけだ。
愛蒔も知らないと首を振る。
「ひったくり犯はお前か!」
モジャモジャブラックに、天主は聞かれた。
そもそも、「ひったくり犯はお前か!」と聞かれて、「そうだ」と答えるひったくり犯はいない。
「ひったくり犯は、警察に捕まって、連れていかれましたよ」
天主が正直に言うと、周りの人々は、「関わっちゃダメだ」と言う視線を天主に送る。
「な、なんだと。事件はもう解決していたのか……」
暫く車道を走る車の音だけが、聞こえていた。
「事件は解決した。引き上げるぞ」
あたかも自分たちが解決したような口調でそう言うと、 胸毛戦隊、ブレストヘアーは去って行った。
辺りにいた人全員がホッとする。
「お前、勇気あるな」
愛蒔が、天主に言った。
「いや。絶対気になるだろ」
天主が言った。
「え。何が」
「戦隊なのに、なんで四人なんだよ。戦隊だったら五人だろ」
「そこかい!」
後日談。
天主は、日課のネットニュースを読んでいると、胸毛戦隊、ブレストヘアーの記事を発見する。
そして、胸毛戦隊、ブレストヘアーの五人目がいない理由を、天主は知った。
胸毛戦隊、ブレストヘアーの五人目、ツンツンシルバーは、椎間板ヘルニアで休んでいたことを。