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53【SIDEダルバード】思いもよらない出会い

 20年前。


 ダルバードは、魔術師団に所属しない宮廷魔術師として城に勤めていた。


 宮廷魔術師は、王族や貴族への個別支援、特別任務、魔術研究、儀式の管理、危機対応、技術指導など、仕事は多岐にわたった。

 王城の一部屋に住み、少しでも時間がある時には研究室にこもった。


 忙しい日々は、ダルバードは嫌いではなかった。

 好きに研究もできる。


 貴族の子供たちはしつけが行き届いていて、授業態度は悪くなかった。


 ……たまに、自分の子供には才能があるはずだと乗り込んでくる貴族が居るぐらいだ。


 孤高の魔術師などと呼ばれても、そのこと自体興味がわかなかった。

 それなのに、ここ最近、嘲笑と共に、お前は特別な存在じゃないと囁いてくる輩が現れた。


 最近は教会にダルバートと同じか、それ以上の特別な力を持った女性が居るというのだ。

 神殿に、聖女と見紛う程に特別な力をもつ女性が居ることを。


 北の地で見つかり、王都の協会に最近連れてこられたという話だった。

 だから、お前は失墜するというような言葉が後に続いた。


 それ自体は特に興味がわかなかったから聞き流していた。すると、相手もダルバードの態度にイラついたように嫌味を言って去るだけですんだ。


 しかし、特別な力というのには興味はあった。


(まあ、教会はそんな人間を俺にあわせたりはしない)


 教会にとって、平民あがりなどは所詮、囲って金銭と権力を手に入れる道具に過ぎない。


 それに、権力に興味のない宮廷魔術師も眼中にないだろう。

 たから、その女性がこんな所に居るとは思わなかった。



「こんにちは! あなたも魔導具を見に来たのですか?」


 講義を終えて部屋に戻ると、何故か女性がダルバードの魔導具をじっと見ていた。ダルバードが自室に人が居ることに驚いていると、彼女はぱっと顔を輝かせた。


 普段、この部屋には人が入る事などないので、思わずじっと見つめてしまう。


「……私の部屋に、なにか?」


 銀色の髪 紫の瞳 細くて透き通るように白い肌。白いワンピースを着た可憐な少女は、無骨な部屋には異質すぎた。


「えっ。ここは魔導具の置き場では?」


 彼女は不思議そうにこてん、と首を傾げた。

 見たことはない気がするが、高位貴族だろうか。何故護衛がついていないのか。


 そもそも、誰が魔導具置き場などと言ったのだ。

 ふつふつと不快感が湧き出てきて、思った以上に素っ気ない言葉がでた。


「魔導具の置き場を兼ねた私の部屋です」


「……ごめんなさい。置き場だから見学してもいいって聞いていたのです」


 あからさまにしゅんとした彼女に、毒気を抜かれる。


 ダルバードの半分ぐらいの年齢……二十歳ぐらいだろうか。もう少女とは言えないが、少女のように可憐だ。日の光を浴びたことのないかのように透き通る肌は、庇護欲を誘う。


 それなのに、くるりと変わる表情が、まるで小動物だ。

 いつも険しいと言われる顔が、つい微笑みに代わる。


「まあ、間違われても仕方ないでしょう。私の部屋は魔導具ばかりですから。見学ならご自由に。説明が必要ならば、言ってください。申し遅れました、私は宮廷魔術師をしているダルバード・レイヴァンです」


「まぁ! ありがとうございます! 私の名は……フィネル、ですわ……」


 嬉しそうに名乗ろうとした彼女が言い淀んだのを、気づかなかった振りをする。


 彼女は家名は名乗らなかった。

 ……貴族が名乗らないのは、何か事情があるのだろう。


 彼らは自分の家名を大事に、誇りに思っているものだ。傲慢な程に。


「フィネル嬢、魔導具が好きなんですね」


「ええ、ええ! でも、魔導具に詳しい人が身近にはいなくて……そうしたら、登城の時に見れるだろうと教えていただいて……。まさか、個人の部屋だとは思いませんでしたが。すいません……」


「謝らなくていいですよ。魔導具好きの同士ですからね」


 ダルバードが微笑むと、フィネルは輝くように笑った。


「嬉しいです……!」


 その日、研究も忘れてダルバードとフィネルは魔導具について話し込んだ。


「あっという間の時間でした」


 実際、本当だった。

 時間の縮尺がおかしくなってしまったとしか思えない程に、あっという間だった。


 ダルバードが心からそう言うと、フィネルはきょろきょろと視線をさまよわせた。


「あの、よろしければまた来てもいいでしょうか?」


「えっ。ええ、もちろんです。……こんな偏屈と話してくれるお嬢さんは希少ですからね。是非とも」


 ダルバードが驚きながらもそう返すと、フィネルは本当に嬉しそうに笑った。


「ふふふ、本当に毎日着ますからね! 私、本気にしましたよ」


「もちろん歓迎いたしますよ」

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