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第85話 お遊戯会②

 小休止を経て、次の演目。

 歌の次は演劇だ。

 本当は白雪姫でもやるつもりだったんだけど、少し趣向を凝らしてイグを主役に置いたお話にアレンジしてみた。


 タイトルは白蛇姫。

 悪者に毒リンゴをもらって昏睡してしまった主人公(白蛇姫)が、蛇界のイケメン王子様(イグ)に見初められて毒を克服する、どこかで聞いたことのあるような話だった。

 白蛇姫は体の一部に刻印を持ち、イグに一生大事にされるのだった。

 めでたし、めでたし。


 あんまり複雑化しすぎても稽古時間は少なく、人数も少ないのでヒロインとヒーローの二人だけであとは賑やかし。

 ヒロインはみうで、ヒーローは何故か俺。

 流石にキスをしないのは年齢的な配慮と、シナリオが毒の克服という一風変わったものだったからである。

 兄妹同士でそういうのはちょっと。


 視聴者は何かの童話のアレンジかな? とよくわからないままに拍手を送る。

 しかし身に覚えのある人たちは萎縮していた。

 招待客の威高さんやら久藤川さんやらが特にそうだった。

 嫌がらせか? みたいな顔でこちらをみてくるが、これは人類への警告も含んでいる。

 特にイグから次はないって釘刺されちゃってるからなー。


 だから次したら俺は助けないよ?

 まぁアレ=俺って認識はないかもだけど。


 歌と違って演劇は飛んだり跳ねたりするので、結構体力を使ったためか演者達も少し小休止を入れたいと立案。

 そこでスポンサーを含めての立食パーティーが開かれた。


 流石に俺が全て賄うと魔力が枯渇する恐れがあるので、今後食品提携する満腹飯店と近所のお寿司屋、インスマスのデカ盛り喫茶なんかを招待した。

 おかげで立食なのに、一つのサイズが異様にでかい異様な食事風景になっている。


「お兄たん、これ食べちゃっても大丈夫なの?」


「衣装は汚さないようにな? レンタルだから」


 嘘である。着替える時間がもったいないのと、恥ずかしい思いをさせないための配慮だ。


「はーい」


 返事だけは一丁前に、純白のドレスを纏ってドカ食いメニューが並ぶコーナーへ行った。

 大盛りスパゲッティに大盛りのカツ丼。

 みう達はそれらをペロリと平らげ、招待客を驚かせている。

 そして「これも含めてパフォーマンスなのかな?」と絶賛勘違いさせていた。

 すいません、この子達はこれが日常なんですよ。

 いっぱい食べる女の子は可愛いだろ? 


 そこへ、さっきまで萎縮していた威高さん達が復帰して近寄ってくる。

 彼女達も一応うちの選ばれしリスナーだ。

 久藤川さんはついでだが、一応コラボしたよしみでもある。

 みうはそこまで久藤川に対して何も感じてないし、何でもかんでも遠ざけるのも違うしな。


「空海くん、ご招待ありがとう」


「威高さん、具合悪そうだけど大丈夫?」


「少し意地悪されてしまったような気がするけど平気だよ」


 なんのことだかなー。

 すっとぼけながらも話を促す。

 みうじゃなく俺に何の用かと。

 今回の主役は俺じゃない。

 しかし、大食いに夢中になってるみう達に迷惑かけても仕方がないから俺の方に来たっていうのもわかるのでそのまま対応した。


「久藤川さんもお久しぶり。この前は災難だったね。配信みてたよ」


「ええ、お久しぶりですわ。そして改めてこの度のことをお詫びいたします」


「お詫び?」


 はて、お詫びされるようなことなんてあったっけかと首を捻る。


「空海さんの処遇についてですわ」


「俺の?」


「見識を改める、とお祖父様から和解案をいただいております。もしよろしければ復学、または教師としての道を歩まないかとお話しを持ってきましたの」


「俺、久藤川さんのお爺さんと何かあったっけ?」


 話がわからない、というような顔をする。

 接点なんて学園を退学させられたこと以外見当たらないぞ?


「空海くん、理事長だよ」


「いや、それは知ってるけど。退学以外に関わりあったっけ?」


 3年以上も前の話を今更蒸し返して何事だよ。

 もうずっと関わり合いたくないんだけどな。

 しかも復学って、同級生はみんな卒業してるだろ?

 筋を通すにも無理がある。

 それもどうして今更って話だし。


「実は、どうにも裏で空海さんを監視、実力行使をなん度も行っていたようで。その全てを無力化、その上で特に問題に挙げなかった懐の深さに感銘を受けたとのことですわ」


「いや、全然全くもって身に覚えないけど」


 本当は身に覚えはある。

 けど、被害は受けてないからとこれを一蹴。

 久藤川さんは謝罪の矛先を見失った。


 久藤川からの謝罪なんて絶対裏があるに決まってる。

 俺は詳しいんだ。

 今更手のひら返したところで、許してやらないもんね。


「どうしよう、ひかりちゃん。これ、こっちの謝罪なんか気にも止めてないやつだと思うよ?」


「本当に。全貌を掴めないお方ですこと。未だその背中に追いつける気がしませんわ」


「なんの話?」


「実は、お祖父様から空海さんに取り入り、こちらの魔剣のテスターになっていただけないかというお話しをもらっておりまして」


 ほら、やっぱり裏があるじゃん。

 というより、話が嘘くさかったんだよな。

 謝罪という形で俺に何を実験させるつもりだったんだ?

 そこんとこ詳しく吐いてもらおうか。


「え? そんなことのためにわざわざそんな無駄な前置きを?」


「理事長が反省してるっていうのは本当だよ? それで謝罪にお金を出しても受け取らないっていうのもわかってる」


「いや、代理を立てる時点でそこまで反省してないでしょ」


 謝るんなら本人が直接来いって話だよ。


「あのね、空海くん。普段自分が全く隙を見せない動きをしてて、可能な限り移動してないってことは理解してる?」


 威高さんが俺の「行動範囲を探りました!」と白状するように聞いてくる。


「そりゃ、クラン内に大体の物は揃ってるし移動する必要ないし」


 寝食の必要ないこの肉体にとって、どこかで何かをする必要はない。

 食材も注文すれば運ばれてくるし、むしろ移動する必要ある? 

 俺としてはみう達をずっと保護できるこの空間を何より気に入っているし。

 なんで外に出る必要が?


「そして九頭竜は久藤川に対して一切の交渉をしないという通例がなされていて、何度も面会の申請をしても、そのような人物は配属しておりませんの一点張りで」


「あー、アポイントメントすら受け付けてくれなかったのか?」


「ええ」


「あー、それは御愁傷様」


「ですが今回招待していただいたこのお遊戯会で、ようやく顔を合わせることができました」


 やっと話が進められる! と久藤川さんはウキウキしてた。


「本当は理事長も来てくれてたんだけど、招待状の持参がない方は入場できないと警備員に連行されちゃって」


 どんな立場の人間か知っていてもそうされてしまうのか。

 恐るべきは九頭竜のセキュリティってことか。

 理衣さん言ってたもんな。久藤川なんて歯牙にもかけてないって。

 瑠璃さんが鬱陶しい蝿を追いやるように殺虫剤を幾重にも設置したって言ってたけどこのことか。


「それは、ほんとごめん」


「いいえ。それだけ高いセキュリティで守らなければいけない相手を保護しているのでしょう? ここにくるまでマスコミの一人も見かけませんでしたし」


「そういえば、ダンジョンの張り込み以外でマスコミに出会うことないなって思ってた」


「きっと九頭竜が前もって圧力かけてたか、それ以外の力で仕事を奪ってたんじゃないかと思うの」


「おっ邪推か?」


「そう思ってしまうぐらいに仕事が捗らなかったということね。私たちは情報商材で、マスコミやリスナーと連携をとって配信をしている。けれど空海さん達にはそれが見当たらない。その差を不思議に思うのはおかしいことかしら?」


 ああ、そういう認識なのか。

 自分たちの配信と俺たちの配信ごっこを同等に見つめちゃった結果か。


「そりゃ単純に、うちの配信はごっこだからだよ。みう達が元気に動いてる姿を身内だけが拝見できる場所だったんだ。だからリスナーも数字上そんなにいらないし、お金を稼ぐのが目的じゃない。マスコミなんて出鱈目を並べ立てるのが上手いだけで真実なんか書きゃしねぇだろ?」


「空海くんこそ邪推がすぎるよ?」


 威高さんがマスコミの性善説を掲げながら口を尖らせた。

 それ、可愛いからって持て囃されてる証拠だぜ?

 俺なんて力持ってるんなら日本のために尽くせって上からもの言われて参ってるんだよ。誰が好き好んで妹のそばから離れて活動すると思う?

 バカなんじゃないかと思うんだよな。

 俺は別に金が欲しくて探索者やってたわけじゃないってのにさ。


「そういう環境で育ってきたんだよ。テイマーってだけで退学されたからな」


「口では昔のことと言いつつも、やっぱり根に持っているんじゃない」


「そりゃそうだろ。ほぼ理事長の言いがかりだったからな」


「それで、この魔剣だけど、受け取ってくれる?」


 手渡されたのは、みたこともない魔石結晶が嵌め込まれたダガーだった。

 配信で知っていたのだろう。

 俺がダガーを好んで使うことを。


「うーん」


 しかし俺はそれを一瞥し、唸った。


「見るからに呪われてそうな色合いだよな」


 武器の形状も少し邪悪さを感じるし、なんだったら紫色にてかっている。

 一眼見て真っ当な品じゃないって直感が働きかけていた。


「それを言われてしまったら、こちらはなんともいい返せないわ」


 久藤川さんは身に覚えがあるようだ。

 つまりは呪いの品である。

 魔剣。その力を操れば操るほどに同調率が上がると聞く。

 果たしてそれは何に身を委ねた結果なのか?


 そしてそれに備わる暴走モード。

 自我を失い、コントロールを奪われる。

 誰に?

 何かの意思が宿ったこの石にだろう。

 魔石。それはいまだに解明できないブラックボックスなのだ。


「これ自体がGPSになってて、いつでも俺の位置がわかるとかいう仕組みは?」


「波長での探知は可能ですわね。バイタルチェックが主な役目ですが」


「じゃあ、いらない」


 俺はそれを受け取りもせずに辞退した。


「持ってて損はないと思うんだけどなー」


 威高さんが自分が得た力を手放せないように俺を勧誘する。


「ショゴス相手に切った張ったできたからと、これをありがたがる必要はないってことだよ。そもそもあいつは俺のテイム範囲内だぜ? 久藤川さん達は俺という存在をまだ正しく理解できてないようだな」


「は、え? それは一体どういうこと?」


 久藤川さんが理解を拒むような顔で詰め寄ってくる。


「空海くん、詳しく!」


「俺の記憶が正しければ、ショゴスは学園ダンジョンの深層にたまに潜り込んでくる。出会ったのが俺じゃなけりゃ、全滅必死だったろうな。今頃どこで何をしてるんだか」


「学園に、あんなのが?」


 追い払った記憶がある。

 しかしそれは相手にしてもらえなかったというだけ。

 もしそれが自分たちのホームで、守るべき存在を庇いながらの戦いだった場合。

 その時のような動きはできていたか?

 久藤川ひかりは自分を追い詰めていた。


「だからその魔剣を持つのは俺じゃない。俺である必要はない。俺なら単独で撃破できるし、そんなものに頼る必要はないんだ。だが、アレが今後表に這い上がってこないとも限らない。俺以外のあてを探すんだな。俺はこのクランから離れられない事情がある」


 俺以外の有望株がいるだろう?

 学園四天王ってんならあともう一人。

 誰だっけ? ほら、あの【暗黒】とかいう大層な二つ名持ちの。


「そう言えば二余は? あいつダンジョンエラーを引き起こした後帰ってきたって聞いたぜ?」


「あいにくと行方知らずなままなのよ。そして空海さんは知らないでしょうけど、彼もまた魔剣のテスターの一人だったの」


 完全に久藤川の自業自得かよ。

 それに四天王(身に覚えのない称号)のよしみで参加しろって?

 馬鹿も休み休み言え。


「あいにくと、俺も暇じゃないんでな。テスターなら他を当たってくれ。そして、みうのお遊戯会でそんなことを言われてもなってのが俺の率直な感想だ。あんたらだけだぜ? そんな場違いな感情をここに持ち込んできてるのは」


 見ろよ、とみうたちえ向ける他の招待客の反応を促す。

 そこにはどんな治療も受け付けなかった重病人が病気を克服したという美しいドラマに皆が感動する場面だった。

 特に敦弘が秋乃ちゃんがどのような状況だったかを熱心に語っている。


 今回歌を歌うだけじゃなく、衣装を着飾って軽い運動ながらダンスまでした。

 そんな姿を見る間も無くこの世をさるかもしれないと言われていた妹の姿を拝めた。感動に打ち震えて熱狂的に写真を撮っている。


 だからだろう、自分の親族の重い病気も、このクランに来れば治るかもしれないと一縷の希望を賭けている姿が映った。


 そこにきて、身内の与太話を持ってきた彼女達。


「そうね、ここでは過ぎた話だったわ」


「今度どこかでコラボして、その時でいいかしら?」


「ああ、マスコミとかは連れてこないと助かるな」


「ひかりちゃん、今日はみうちゃん達のお遊戯会を楽しんで帰ろうよ」


「そうね、そうしようかしら」


「そうしてくれ。俺もみうがどれだけ回復したかを招待客に力説する仕事があるからな」


 俺は二人の同級生を捨て置き、敦弘には負けてらんねぇ、と変なライバル意識を燃やした。

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