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第84話 お遊戯会①

「えー皆様、長らくお待たせしました。このたび司会進行役を務めさせていただく空海陸です。この度は可愛い妹たちの晴れ舞台に協賛していただいた方々限定でのお遊戯会、シカトご堪能になられてください」


 マイクパフォーマンスののち、壇上にライトが当たる。

 ライトの操作はもちろんスライムだ。

 同様にカメラの撮影もいつもより気持ち増し増しで。

 思いのほか来客されたので、遠い席の方に向けてモニターなんかも用意した。


 これを数日でポンと用意できる九頭竜家の財力。頭がイカれてると言う以外の褒め言葉が見つからないぜ。


 ただ、思った以上にダンジョン病持ちと思われる少年、少女の姿が散見された。

 中には寝たきりの少年だったり、虚空に向けて何かと語りかける少女。

 ずっと悪夢にうなされてる少女、と何かしら身に覚えのある症状ばかり。


 そういえばスポンサーの優先順位は身内にダンジョン病の疑いのある家族を持つ親が選ばれやすいと聞いたことがある。

 最初から健常者の相手をする気はないと言ってのけたのはさすが九頭竜だな。

 だが、それで正しいのかもしれない。

 何せみうたちを見て、同じ症状を持つ患者だと理解できない人の方が多い。


 そして家族側の気の入れよう。

 俺、敦弘。そして主催者である瑠璃さんが我先にとベストスポットを取るべく場所決めをしたのだ。

 え? スライムカメラがあるじゃないかって?

 こういうのは誰が撮ったかに意味があるから。


 そういう意味では敦弘の気合の入り用は凄まじかった。

 秋乃ちゃんの状態を考えれば納得だが。

 そういう意味では最高のパフォーマンスかもしれない。


 とはいえ、この中で一緒に役をするという意味では唯一の栄誉職。

 通行人と木の役に抜擢された俺はカメラを写せない代わりに一緒の空間にいられる。

 最初こそはみう専用のカメラマンになれない怒りが湧き上がったが、逆にいえば幼女たちの催しにいい年した男が混ざるのだ。

 普通であるならギルティもの。だが俺はあのチームの一員。役得ってのはこういうことを言うんだろうな。


 みうたちの成長を1番近くで見守ってやれるのだ。


「今、妹たちはメイク中です。一体どんな姿で皆様の前に姿を表してくれるでしょうか? メイクルームの九頭竜さーん?」


『こちらメイクルーム。見てくれ、姉さんが! あの寝たきりで寝返りも満足に打てなかった姉さんが、自分の意思で選択したドレスに袖を通して……うう、私は今日ここで死んでもいい』


「九頭竜さーん? 私情はそこそこに、他の子達の手前平静を装ってくださいねー? うちの妹のことももう少し詳しくお願いします」


 私情を挟んでるのは誰しもが一緒。

 本当なら公私混同しない女性カメラマンを雇いたかったのだが、あいにくとツテがないのと「余所者は信用できない」との断言で瑠璃さんが請け負った経緯がある。

 単純に自分以外に任せたくなかっただけだろうに


 そもそもメイクルームは男子禁制。俺と敦弘には荷が重い。

 入って行ったところで何をどうすればわからない。

 二人ともメイクにとんと興味もないので、褒め方一つわかりやしないのだ。

 「綺麗になった」「天女が現れたかと思った」「俺はここで死ぬのか?」ぐらいの褒め言葉を並べて共に妹にそっぽを向かれた俺達が言うのだから間違いない。


 しかしそこに身内であり、女性でもある志谷さんの姿はない。

 その理由を述べるのは彼女のプライバシーに関わるので詳しく語らないが。

 あえて述べるなら彼女は生まれてこの方一度もメイクを行ったことがないそうだ。

 そう! 健康優良児! 俗に言うすっぴんらしい。

 なので俺と同じく褒め方を知らない哀れな大食いモンスターと成り果てたのである。

 さすが、青春を食事に捧げてるやつは面構えからして違うな。


「先輩、呼びました? ちょっと褒めてた?」


 呼んでない、帰れ。

 口では言わずに念じるに留めた。と、言うのも本気にされて帰られても困るからである。彼女がいないと理衣さんが寝たきりになるので苦肉の策なのだ。


「お腹の減り具合は?」


 まだ演目ひとつこなしてないけど一応確認。


「ちょっと小腹が。先輩の(魔力)を吸っていいですか?」


「人聞きの悪いことを言うな。お腹が減りそうならレインコート着てろ。あれは少し魔力回復機能あったろ?」


「ハスターの?」


「そう、それ」


「あれ、私と相性悪いみたいなんですよ」


 差し出されたレインコートだったものを見やり、何をすればこんなズタボロになるんだってくらいの残骸が志谷さんの手に握られていた。


「どんまい」


 俺は演目をこなしたら食わせてやるからそれまで我慢しろと肩をポンと叩いて応援した。

 志谷さんはお腹を抑えながら悲しそうな顔をする。

 食いしん坊め! 


 しばらくして、瑠璃さんから私情全開のレビューが返ってくる。

 おい、みうのメイクはどうだったんだ? それとドレス姿は?

 それらの情報はどこにも記載されてない。

 カメラに映されたのは、恥ずかしげにドレスに袖を通す理衣さんの姿だけだった。

 だめだ、人選を間違えた。


 他の子達は舞台の上で確認しろ、とばかりに一方的に映像は途切れた。

 俺は袖口から舞台に再び現れて司会進行役にもどり、志谷さんはその場で待機。

 次の演目まで時間が押してるからだ。本当はメイク姿とかドレス姿とか褒めて欲しかったんだろうが、いかんせん。食欲が前に出過ぎて色気もなんもあったもんじゃなかった。


 そして始まるお遊戯会。

 最初の演目は歌の披露だ。

 歌ひとつ歌ったこともない子ども達が、ハーモニーを奏でて来場者の心を打つ。

 やや、やる気のないタンバリン(理衣さん)やカスタネット(俺)はその場に居合わせただけの通行人AとBに成り果てた。


 コーラスは志谷さん。

 ハーモニーは秋乃ちゃん。

 みうはそこに混じって噛み噛みな歌を披露した。

 失敗するたびに恥ずかしがって、それでもコーラスを切らさないように頑張って追いついた。


 衆人環視の中での歌の披露は、また別種の恥ずかしさがあるからな。

 いつもの虚空に向けて話しかけるタイプの配信とは異なり、人の目の前でやるのは結構なプレッシャーだ。


 もしみうが心臓に負担を抱えてる頃だったら、きっと俺は反対していただろう。

 それくらい重い病気だった。

 いつも痛みに耐えてる妹を知っていた。

 けど、それでもやりたいと自分から言い出し、結果歌い切って見せた。


 みう達は今、どんな気分で拍手喝采を受け取っているんだろうか。

 何者にもなれないまま死んでいくんだと覚悟を決めた少女達は、自分でも誰かを感動させることはできるんだと、感動に震えているに違いない。


 今まで数字でしか追えてこなかった人に、実際に見守られながらの演奏はまた違った感動をみう達に感じさせた。

 その上で「楽しかった、またやりたい!」そんな声を主演者からもらったんなら、主催者は感無量だろう。


 瑠璃さんはもっと姉さんの晴れ舞台を用意してやるべきだ、なんて俄然やる気を出している。あんまり無理強いしないでやってくださいよ?

 本人は少し引っ込み思案なところあるんですから。


 みう達の前でだけですよ? あんな風にお姉さん風吹かすのは。


 次の演目が始まるまで、少しの小休止をとった。

 その間に志谷さんに餌付け。

 この間コピーした、インスマス産のマグロ丼と大盛りお子様ランチを提供。

 ものの十分で食べてやんの。きみ、フードファイターになれるよ?

 もうなってるって? それは失敬。






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