「ヒャーーハッハッハ! 手に入らない様なら必要ないと上はお達しだ。残念だったな! ここでくたばりな!」
あ、そう言うのいいんで。
上とか、情報秘匿主義なのはわかったけど、どう考えても武器の出所は久藤川ですよね?
威高さんとかが使っていた武器との特徴も一致してるし、何よりもそれで戦力を爆上げしてエラーを意図的に起こすことで久藤川に必要ない人材をあなたみたいな人を使って始末してきたって口を割った様なもんだし。
それよりも、問題なのは門を開いて何が現れるか。
「あ、お兄ちゃん!」
「は?」
「うわー、お前がきちゃったか」
そこにいたのはウィルバー・ウェイトリー。モジャッとした髪型に羊のツノを生やしたショタだった。ただし背中から触手を生やし、自らに異形です! と宣伝している様なやつである。
以前Aランクダンジョンで追いかけっこしたっきりなんだよなぁ。
向こうはまた遊ぼうねって言ってたし、どうしたもんか。
「は?」
俺とウェイトリーのやり取りに男だけ思考がついてこない。
「久しぶりだな、ウェイトリー。今日は何して遊ぶんだ?」
「えへへ、今度はねー」
「チ、失敗かよ! こんな弱そうなガキを呼ぶつもりは……」
ダンジョンエラーを意図的に起こした男は、ウィルバーのナヨっとした見てくれにすっかり騙され、その背中を刀で小突こうとしたところで腕毎喰われた。
「はヒュ」
「と、行きたいところだけどごめんね、お兄ちゃん。今は先約があるから遊ぶのは次ね」
先約、と言うのはこの男のことだろうな。
ウィルバーは礼儀正しくお辞儀をして、男と向き合う。
「僕ね、怒ってるんだよ。せっかくお母さんと仲睦まじくしてる時にさ、急に呼ぶじゃん。絶対に一言言ってやりたくてここにきたんだ!」
カンカンなウィルバー。
あれ? お母さんって生みの親の?
いや、違うな。
確か復活させたい相手がお母さんだったはず。
じゃぁ豊穣神ヨグはお母さんの方か。性別があったとは驚きだ。
あの悲劇が濃密な百合だったとは恐れ入る。
「お兄たん、あの子が?」
「一応深淵種。見た目はみうぐらいだが、低層で割と出会いたくないタイプの方だ」
「つよいの?」
「つよいと言うよりは特性が厄介なんだ。あいつは遊ぶのが大好きでな、しかし取引を強制的に敷いてくるんだ」
「強制的?」
「ああ、もっと見た目がおっかないクリーチャーなのは本能で襲ってくるが、あいつはなまじ見た目が人間そっくりだろ?」
「うん」
「なので話が通じると思われがちだが」
「実は通じない?」
「会話はできるのに話が一方通行なんだ。【じゃあじゃんけんするね! 負けたら僕が君の大事なものをもらうよ!】みたいな会話形式であいつは成り立ってる。さっきのおじさんの大事なものがあの武器だったように、ウィルバーは少しづつ相手の大事なものを奪っていくタイプのモンスターだな。最終的にその命すらも選択肢に入るので、賭け事に応じちゃダメだぞ?」
「そんな相手、どうやって倒すの?」
「倒さないのが正解だ。俺はじゃんけんとあっち向いてホイ、鬼ごっこで全部勝利して深淵にあいつを置き去りにして逃げてきた実績を持つ。なのでたまたま出会ったら、ああして俺に擦り寄ってきて遊びの続きをするんだよ」
「すっかり懐かれちゃってるねぇ」
「独特の遊びに付き合わされる身にもなってほしいな」
「そういえば、先ほどからコメント欄が騒がしいですね」
意味をなさない文字の連続。これはつまり正気度の喪失を意味する。
まさかこんなところで出くわすとは思わなかったからな。
それはそれとして、うちのメンツはどいつもこいつも涼しい顔してウィルバーを見ている。
なまじ人間みたいな見た目をしてるもんだから、勘違いしているんだろう。
いや、それを理解した上で「お友達」になれるか挑戦してみたいって顔をしている。みうは暴風の女神ハスターともお友達になったやつだ。
ウィルバーくらいはどうってことなかったりするのか?
「これはお遊戯会は延期かもな」
目の前では人だったものが何かの勝負に負け続けてどんどん原型を失っていってる。ウィルバーは物理的なもの以外にも、精神的なものまで奪い去る。
最終的には尊厳すら破壊されて「要件は終わったよー」と俺たちに向き直った。
「あたしはみうって言います」
初手お辞儀&自己紹介。
「僕はウィルバー・ウェイトリーだよ。みうちゃんか。僕をみて驚かない人間の人は二人目だ!」
「みうは俺の妹だからな」
「うわぁ、そうなんだ! じゃあ、僕とも仲良くしてくれる?」
「いいよ! 今日から友達だね!」
「うん!」
なんだろう、見てて仲睦まじい感じは。
こめかみから羊の角、背中から触手が生えてるのに目を瞑れば仲の良い友達同士の馴れ初めにしか見えないもんな。
「私は理衣よ。あなた、そんな見た目してるけど、結構年齢重ねてるでしょ?」
「うん、生まれた時からこの姿でね。理衣ちゃんはどうしてそれがわかるの?」
「私も同じだからよ。それに私、ずっと寝たきりだったの。ウィルバーと言ったわよね。私たち、夢の中では何度も会っているのを覚えてないかしら?」
「うーん?」
「理衣さん、それは本当ですか?」
「ええ、私の神様に囚われてる時、窓辺からちょっとしたやりとりをしていたのよ。じゃんけんで負けるたびに彼に睡眠の神トゥルーからの支配を提供してたの」
そんなこともできるのか!
実はデメリットまで捧げることができるなんて。
だから理衣さんはたまにその空間から抜け出せてたんだな。
「あ、あの時のお姉さん! すごい! こっちでも会えるなんて! お兄ちゃん以外にも知り合いが増えて嬉しいです!」
「よかったじゃんか」
「うん!」
どうしたことだろう。いつもは真っ向勝負を仕掛けてくるウィルバーが、ここではあまり勝負を仕掛けずにお話に準じている。
「私ははじめましてかなー? 志谷明日香だよ! 君のお母さんとは少し顔見知りだったりするね!」
「うわぁ、お母さんの顔見知りの人とは初めてあいます。普段お母さんって何しているんですか? お母さん聞いても話してくれなくて」
そりゃ、神様とお知り合いの時点で同じレベルの存在だろうに。
うちのスーラと知り合いの時点で碌なもんじゃねぇ神様だよな、バースって。
ニャルなんかと仲良くしてるうちのスーラがおかしいのか、その被害に遭いすぎてる人類が脆弱すぎるのか、その差がわからない!
まぁ、今この場が凌げればヨシ!
「私は秋乃。よかったらお友達になってくれますか?」
「秋乃ちゃん、いいよ! あ、でもどうしよう。僕こんなに友達たくさん増えて覚え切れるかなぁ?」
悩みどころはそこでいいのか、ウィルバーよ。
しかしそうだな、普通に遊べる友達なんて俺ぐらいしかいなかったし。
そう考えるとこいつにとっては夢にも思わなかったことだろう。
「覚え切れるかどうかはお前次第だが、せっかくこうして勇気を出してお友達宣言してくれたんだ。答えを出してやれよ」
「それもそうだね、覚えきれなくて忘れちゃったらごめんね。それでもいいなら僕と仲良くしてよ!」
その発言はクズ男のそれだぞ? 自覚あるのか。
「うん、いいよ! 私も思い出せなくなったらごめんね?」
「あはは、そこはお互い様だね」
秋乃ちゃんも言いよる。
身内以外の異性、それも同年代(?)とのやり取りなんてそうそうないのに。
これは魔性の魅力。敦弘がメロメロになるのもわかる気がする。
「それで、みんな仲良くなったところでどんな遊びする?」
「そうだねー、お兄ちゃん何か提案ある?」
そこで俺に振るのかよ。
まぁ、それだけ慕われてるってことだからいいが。
「あの、良かったら一緒にお遊戯会の練習しない? ウィルバーくんも誘って」
「いいね! お兄たん、どうかな?」
みんなその気で聞いてくる。
俺はなんて答えようか散々迷った後に承諾した。
あれなら明確な勝負じゃないし、何かをやりとりすることもないだろう。
「ヨシ、みんなで次の撮影に向けて練習だ」
もうどうにでもなーれ!
その後めちゃくちゃ練習した。
ウィルバーも俺と一緒に通行人Aや木の役をしながらみう達の演技を見守ったりした。