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第73話 素知らぬふり

「はーい、こんにちは! みうだよー」


「理衣よ」


「明日香でーす」


「あき、の、だよ」


 それぞれがカメラの前で挨拶をする。どこか遠巻きに記者達がカメラを向けてこちらを観察しているところまで含めて5台のカメラで写した。


:きちゃーーー( ・᷄ὢ・᷅ )

:あれ? 見慣れない集団がおる( • ̀ω•́ )✧

:なんかの撮影?(*´ω`*)

:にしてはこっちを遠巻きに見てるね_(:3 」∠)_


「何かこちらに用があるみたいなんですが、全く身に覚えがない感じです。なので居心地も悪いからと今回はこのようなスタイルで、探索半分、お遊戯半分となります」


:お遊戯!? みうちゃんお遊戯するん?( *˙ω˙*)و グッ!

:ああ、もしかしてアレ系?( • ̀ω•́ )✧

:アレって何?_(:3 」∠)_

:今世間を騒がせてる聖女がみうちゃんかもって話( ・᷄ὢ・᷅ )

:そりゃみうちゃんは聖女みたいに可愛いけど(*´ω`*)

:そうじゃなくって、秋乃ちゃんのお兄さんが欠損回復した原因がみうちゃんかもって( • ̀ω•́ )✧


 まぁそう言う噂は耳にするよな。


:あー( ・᷄ὢ・᷅ )

:まぁ、当たりをつけられてるのかな?( • ̀ω•́ )✧

:マスコミかー_(:3 」∠)_

:それか久藤川系列の嫌がらせ٩(›´ω`‹ )ﻭ

:久藤川ってひかりお姉たんの?( *˙ω˙*)و グッ!

:お爺さんが九頭竜と因縁あるから( • ̀ω•́ )✧

:それに巻き込まれちゃったかー(*´ω`*)


「え、久藤川さん関連だったんです? 前回コラボした時は特に何も言われなかったんだけど。今更?」


 嘘だ。威高さんから事前に話は聞いていた。

 しかしここで公にした方がみう達も不安は少なくて済む。

 俺から言うとコラボ相手からそんな発言が出たか勘繰ってしまうが、第三者からの発表なら世間ではそう騒がれているって情報にとどめられる。

 同じ情報でも誰が言うかで評価って変わってくるしな。

 俺の場合「知ってたのに教えてくれなかった!」って不貞腐れるのが目に見える。


「え、九頭竜プロと因縁があるって理由だけで系列クランのあたし達も狙われちゃったの?」


 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い理論で絡まれるなんて散々だ。

 みうは困ったように眉根を寄せる。


「そもそも、久藤川なんて最初から相手にしてないでしょ」


 理衣さんがしれっと言う。

 さすが世界の九頭竜だ。怖いもん知らずにも程がある。


「理衣先輩、それはさすがに文句言われても仕方ないっていうか」


「事実じゃない」


 志谷さんのツッコミにもこの返し。

 本当に九頭竜からしたらとばっちりなんだろうな。

 世界で活躍していたら、急に噛み付かれた感じなのだろう。

 全く身に覚えのない、小物が吠えてると言った感想だ。


「けん、か、だめ」


「別に争ってるわけじゃないのよ? 向こうが突っかかってきてるから相手にしてないだけ、それだけよ。秋乃だって、次のお遊戯会でお歌が上手だって理由で突っ掛かれたら困ってしまうでしょう?」


「えっ」


 そんなことがあるのか? と言う顔。

 生きるので精一杯な秋乃ちゃんにとって、自分が嫉妬されるなんて夢にも思わない。

 詰まるところ、今回の騒動はそう言うことだ。

 世界的に有名になるにはそれなりのリスクを抱えて、それを打破してきた実績がある。

 やっかむ方はそのリスクを計算せずに、ただでかいカオしてるだけと言う認識でしか突っ込んでこない。

 あいつにもやれたんだから自分にも、理論で動いてるから、そりゃ話は噛み合わないわけである。


「そもそも、久藤川が台頭してきたのは父様の代なのよ? 私たちは曽祖父の頃から世界で戦ってきているの。筋違いにも程があるじゃない?」


「それはきっと最初こそは良きライバル、頂点として努力してきたんじゃないですか?」


「そうかもしれないけど、それで全く背中に追いつけないからって理屈で攻撃してくることもないでしょうに」


 心底呆れた、とばかりに肩をすくめた。


:心中お察しします(*´ω`*)

:家を背負いすぎて拗れちゃったかー( ・᷄ὢ・᷅ )

:なまじライバルが強すぎるとな( • ̀ω•́ )✧

:きっと周りが煽ったんだろ、世界の九頭竜に勝ってから日本一を名乗れとか_(:3 」∠)_

:あー、ありそう٩(›´ω`‹ )ﻭ

:そう思うとなんか可哀想になってきたよな( *˙ω˙*)و グッ!

:おかげでずっと日の目を見ることもなかったって事?( ・᷄ὢ・᷅ )


 そんなことはないと思うが。


「ここら辺の問題も、配信者ではよく見られることですね。現にうちの妹も、よく瑠璃さんの登録者数に追いつこうと必死です」


「あたしは別に瑠璃お姉たんを憎いなんて思わないよ? むしろ、すごい! とすら思ってて。早く追いつくために努力してるんだー」


:えらい٩(›´ω`‹ )ﻭ

:えらい( *˙ω˙*)و グッ!

:それが二十年経っても続くといいね( ・᷄ὢ・᷅ )

:久藤川はそれこそ数十年競い合って全く追い付かなかったから( • ̀ω•́ )✧


「流石にそんな先のことまでわからないよ?」


「みうもこれだけ長く続くとは思ってなかったしな。退院できるかもって希望が見えてきただけでも御の字だ。あとは脳波の数値さえ良ければ自宅療養に切り替えられるんだが」


 自宅といってもクラン内は地続きなので移動なく遊びに来れる。

 なんせ部屋が違うだけなのだ。隣の隣が俺の部屋、その真向かいがみうの部屋予定地である。お互いに行き来が可能な範囲なので歩ける人なら労力はさほどでもない。

 一緒に暮らしてるのは単純に本人達の意思を尊重してである。


:にしたって子供にまで喧嘩売るかー?( ・᷄ὢ・᷅ )

:多分、ひかりちゃんの活躍を台無しにされたのが原因( • ̀ω•́ )✧

:にしてもだよ_(:3 」∠)_

:子供のことは子供同士で解決させるべきだろ( *˙ω˙*)و グッ!

:大人がしゃしゃり出てくるのはお門違いってもんよ(*´ω`*)


 本当にな、迷惑な話である。

 と、そこへ。


「キャァアアアアア!」


 女性らしき悲鳴が響き渡る。

 さっきの今で、節操のない。

 声がしたのはマスコミが屯していたあたりからだった。


 駆けつけると、そこにはスライムに右指を溶かされた女性スタッフがいた。

 バカだな。素手でスライムを触っちゃいけませんって学校で習うだろ?

 それかライセンス取得時に叩き込まれるはずだ。

 ランクが低いからと言ってもモンスターはモンスター、注意してしかるべきなのだが……


 みう達みたいな病人が入れると踏んで健常者なら余裕と思ったか?

 そもそも、ライセンスなしで入ってきちゃいないだろうな?

 それこそ自殺行為だが。

 生配信中、さすがに無視もできないとして駆けつける。


「どうされました?」


「スライムが急に噛み付いて、私の指を溶かしたんです!」


 非難めいた叫びである。まるで自分に非は一切無い。

 悪いのはモンスターだという叫び。

 生憎と、モンスターを相手に切った張ったをしている探索者にそれは通じない。

 常識が違う。認識を疑う。それくらいの無理強いだった。


「失礼ですが、今日はどうしてそのような軽装でこんな場所へ? 言ってはなんですが自殺しにきてるようなもんですよ? それとライセンスの提示をお願いします。仮免許、またはFランクのライセンスですね。それがないとそもそもここに来ちゃいけないルールです。政府からのお達しですよ? まさか社会人で、人に情報を伝えるのが仕事であらせられるあなた方が知らないと言うことはありませんよね?」


 正論での先制アタック!

 言われた女性はしどろもどろになり、こっちは被害者だとヒステリックに喚くのみである。


「そんなのあるわけないじゃない! それよりいいから治して! そこの子! 聖女様なんでしょ!?」


 やっぱりそういうカラクリか。

 しかしいきなり欠損状態を作り上げるなんて、マスコミが異常者の集まりというのは本当らしい。金さえ儲けられれば部下すら消耗品。その思考は探索者らしいといえばらしいが、彼らに命をかける決意などは微塵も感じられなかった。


「こういうのは傷薬を塗って、安静にしておくのが大事です。それとうちの妹が聖女とはどういうことでしょうか?」


 まずはシラを切る。相手の反応を伺うためだ。

 ここで認めたら、みうが一生注目を浴び続ける。

 目立つ分にはいいが、労働搾取をされるのは話が別だ。

 みうはアイドルになりたがってるが、別に瑠璃さんに張り合うつもりも何もないからな。


「あたしは記者なの! 記事も書いてご飯を食べてるのよ! これじゃあ満足にパソコンも叩けないわ! 早くしてちょうだい!」


「あの、その前にライセンスの提示をしてもらえませんか? あなたじゃなくてもいいので。まさかライセンスなしでダンジョンに入ってきちゃったとかじゃないですよね? それとダンジョンに来てその程度の怪我で騒ぐ人は探索者になれません。こっちは命をかけて探索をしています。妹達は万全のサポートの上でこうやって撮影をしながら探索ができてますが、あなた達にはそれが見当たりません。まさか不法侵入とかじゃないでしょうね? こっちもカメラを回してるので言い逃れできませんよ?」


「な、何よ? 脅す気? こっちだってカメラを回してるのよ?」


「失礼ですが、ダンジョン内でのカメラは電波の都合上回すことができません。そのカメラ、本当に地上と繋がってるんですか?」


「当たり前でしょ! これは久藤川のカメラよ! 日本初! ダンジョン内の映像をお茶の間に届けるカメラなんですからね! そっちこそ配信なんていうのは建前でこっちを脅すためだけにカメラ構えてるんじゃないでしょうね!」


 ここで出てくるか、久藤川。

 ならリスナー達の予想は半分当たってるってことになったな。

 俺を学園から追い出した理事長しかり、今回の騒動は何かと既視感があると思った。


「残念ですが、狙う相手を間違えましたね。俺たちは九頭竜プロのクランメンバーです。どこに雇われたかまでは詳しく聞きませんが、撮影の邪魔になるのでどこかに行ってもらえませんか? それと、今の医療ならその程度の怪我、回復可能ですよ? 流石に保険は効きませんが」


 ダンジョン産のポーションは基本保険度外視。

 市場の相場が直接患者の懐にダメージを与えるのが今の医療界の常識だった。

 なのでダンジョン内で負った傷を治せないまま放置する探索者も非常に多いのだ。


「な! その子が直してくれたらいい話でしょ? どうして渋るの! 早く治しなさいよ!」


 ついに、ヒステリックな女性の手が俺の頬にむけて放たれた。

 パシーン!

 その映像が俺の使役下にあるスライムカメラで5カ所から映された。

 1カメ、2カメ、3カメ、4カメ、5カメという順番に俺が叩かれたシーンを流されたリスナーの反応は?


:お兄たん、体張りすぎ( • ̀ω•́ )✧

:あーあ、この記者終わったわ(*´ω`*)

:喧嘩売る相手が悪かったね_(:3 」∠)_

:カメラ5台持ち込んであらゆる角度から映してるとは思わんやろ( *˙ω˙*)و グッ!

:お兄たんがなまじカメラ持ってたおかげでな٩(›´ω`‹ )ﻭ

:完全に欺きにきてるスタイル( ・᷄ὢ・᷅ )

:これは言い逃れできませんね(*´ω`*)

:記者のこの人も強気だなー_(:3 」∠)_

:そら、文字通り記者生命かけた大博打だからね( • ̀ω•́ )✧

:その博打、勝てそうですか?( *˙ω˙*)و グッ!

:ダメそうです٩(›´ω`‹ )ﻭ


「仕方ないですね。わかりました」


 俺は諦める姿勢で懐に手を入れた。

 もしかしてみうを売るのか? そんなコメントが流れたところで、懐からエクスポーションを出した。


「この手を使いたくはなかったんですが、妹の名誉を守るために人肌脱ぎましょう。このポーション、あなたにあげます。もちろん、贈与税は支払ってくださいね?」


 手渡したのはエクスポーションである。

 時価数十万円は下らないとされるハイポーションの上位互換。

 数百万円の何割かを政府に届け出さなければいけなくなるのだ。

 あと毛髪が死ぬ。

 女性にはこれ以上ないほどの罰だろうが、流石に妹を売るなんてことは俺にはできそうもない。

 ちなみに、エクスポーションの在庫は2000個。

 俺はマジックポーチ持ちなのでいつでも懐からこいつを取り出せるのだ。


「ふ、ふん! ポーションぐらいでケチケチしすぎよ! さっさとそれをよこしなさい!」


 女性記者は俺の手から瓶を奪うとワイルドに歯でコルクを引き抜いて、中身の薬液を指にかけた。

 するとみるみる指の欠損は回復していき、元通りの指になった。


「皆さん、見ましたか? 彼女の指は完璧に復元されました! このエクスポーション! 世に出回れば500万円はする一品です! しかも彼女はそれの贈与税を全て自分で支払うと言ってくれました! さすが記者様です! 記事にするためなら、自分の生活も投げ打ってみせる! 探索者でもこうはいきません!」


「は?」


 あっけに取られる女性記者。

 欠損して、みうに直させて記事にしようと企んだろうが、俺にそんな無法が通じるわきゃない。


 なんだったらこの状況を的確に利用して仕返しを考えついたまであるからな。

 いやー、すごいすごい。

 とてもじゃないが真似できないわ。

 俺はそんな彼女のこれからに拍手を送った。


「記者さんすごい!」


 みうが俺の煽動によって拍手し始めた。

 リスナーも悪ノリをし始める。


:えらい( *˙ω˙*)و グッ!

:さすが(*´ω`*)

:俺でなきゃ見逃しちゃうね( • ̀ω•́ )✧

:奉仕精神もここまでくると立派だぬ_(:3 」∠)_

:ほんそれ٩(›´ω`‹ )ﻭ

:すごーい(棒)( ・᷄ὢ・᷅ )


「流石にそこまで身銭は切れないわ、あなた、やるじゃない」


 理衣さんも認めるように拍手。


「私もそこまではできないなー、いや、すごいすごい!」


 志谷さんも食事を犠牲にする考えは微塵もなかったので記者に感動したかのように拍手喝采だ。


「すご、い」


 秋乃ちゃんも感動したように刻々頷いた。

 気持ちでは拍手をしてるが、体が動かないのでどうしようもないと言った感じ。


 こういう場合、貶めると相手の感情を逆撫でするが、逆にこうやって褒め称える分には問題ない。

 問題があるとすれば、俺がポーションと偽って渡した瓶の中身がエクスポーションだったということくらいか。


 ポーションは高くても3000円するかしないかだ。

 それの半額でも1500円。

 けどエクスポーションは違う。500万円はするので控除額を抜いて40〜50万円と言ったところか。

 記者の月給がいくらかは知らないけど、まぁすごいことだよね。


 俺たちは記者さんの今後を優しく拍手しながら見送り、そして女性記者はその場で昏倒した。

 ヨシ、悪い記者をやっつけたぞ!

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