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第72話 押しかけるマスコミ

「陸君、早速だが当クラン主催のお遊戯会の開催日が決定した。今度の月曜日とかどうだろう? ちょうど全員の検査が午前中に集中しており、午後から暇だ。日、水、金とも被ってないし、本日は金曜日。あと3日ある。なぁに、お遊戯会は名目で本当はみうちゃんのスキル発表会だから練習はそこまでしなくとも……」


「本来はそうなんですけどね、みう達は配信者としてやるので、なるべくなら成功させたいと意気込みを見せてますよ。最初こそやる気のなかった理衣さんまで、探索以外でここまでやる気を示したのは初めてのことだと思います」


「姉さんが? ふむ、続けて」


 どこか事務的に進めていた瑠璃さんの瞳に光が宿る。

 本当にこの人はわかりやすいな。

 理衣さん好きすぎだろ。


「今回の趣旨はこうです」


 俺はみう達と一緒に詰めた今回のお題目を発表する。

 歌うタイトルは三つ。

 リズムが取りやすく、振り付けしても失敗が少ない単調な歌。


 ゾウさん、チューリップ、大きな栗の木下で。

 その度に衣装変更もする。

 俺は木の役だ。

 ついでにタンバリンを叩いて音頭取りもする。


「ぜひ、理衣さんの普段見られない姿を拝みにきてください」


「当初は面倒ごと、頭痛の種だと思っていたが、意外なところに着地したな」


「なんでも取り組み次第ですよ。それと、ここ最近探索で活躍できなかった志谷さんがですね、思いの外歌唱力が高かったのが救いです」


「彼女が?」


「みうはよく音程を外すのですが、彼女と合わせたら上手に歌えた気になったとはしゃいでました。コーラスは秋乃ちゃんで、理衣さんも最初は俺と一緒にタンバリン叩く担当だったんですが」


「まさか歌唱に興味を示した?」


「木を隠すなら森の中。志谷さんの高い歌唱力に紛れることで自分は目立たないと思ってくれたんですかね。今ではいろいろアレンジして音頭取りしてますよ」


「それはますます興味深い。陸君、スライムを使ったカメラ撮影は?」


「そこは普通にスタジオ用意してくださいよ」


 スライムがいるってバレたらどう説明するつもりなんだろう、この人。

 まぁ俺がテイマーといえばそれで済む話だが、物問題は数だろう。


「設備は用意できても、ベストアングルを狙う君の腕には負けるよ。と、いうわけで頼むね?」


「流石に残り三日で用意するのは無理ですか。では今回は俺が引き受けます。でも今後続くんなら普通に用意してくださいね?」


「そうだな、撮影を見た上で可能なら進めさせていただく」


「不可能だったら?」


「引き続き君に頼むよ」


 まぁ、みうのためならやぶさかではないが。


「お遊戯会のお披露目は今度の月曜日になった」


「早くない?」


 みうもちょっと困り顔。


「それだけ待ち望んでいるんだろう。失敗はそこまで気にしなくていい、と言っても気にするんだろうな」


「そりゃするよね。初めてのお歌で緊張してる」


「ならば今日と次の配信でそれなりのリハーサルをしたらどうだろうか?」


「リハーサルって?」


「本番を踏まえた練習だよ。探索中にお歌の披露をしてやれば緊張も和らぐんじゃないか?」


「うーん? 歌ってる暇あるかなぁ?」


「兄ちゃんがいくらでも時間稼ぐぞぅ?」


「じゃあ、大丈夫か。お兄たんのサポートは1番だもんね!」


「そういうことだ。それで、みうは納得してくれたけど、他のみんなもいいかな?」


「どちらにせよ、練習は必要よね。私はそれでいいわ」


「ご飯が豪華になるんなら、私は気にしないよ!」


「だいじょぶ、です!」


「ヨシ、決まりだな。じゃあ今日の配信からそれとなく告知してくぞー」


「はーい」


 そういうことになった。



・ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・



 いつものダンジョンにて、ちょっと元気になった秋乃ちゃんの車椅子を押しながら赴く。するとそこには押し寄せたマスコミの影が。


「お兄たん、なんだか人いっぱいいるね」


「大方、当選漏れした人たちだろう。そうだ、みう」


「なぁに?」


「車椅子を用意したので、それに乗って志谷さんに押してもらえ」


「え! あたし一人で歩けるのに?」


「ダンジョンの中で元気だけど、一応病人だからな。本当なら体調不良で理衣さんも乗ってて欲しいところだけど」


「私は一人で歩けるわよ?」


「マスコミに元気なところを撮られてお爺さんに注目されても良いと?」


「それは嫌ね」


 なんだかんだでこの環境が気に入ってる理衣さん。

 そんなこんなで俺は車椅子を魔改造!

 秋乃ちゃん用と理衣さん用を横でくっつけて二人分の車椅子とした。

 気分はベビーカーの様だ。

 これは流石に俺の怪力でないと動かせないので俺が押すこととする。


「よぅし! 今回から出動する時はこれだな!」


「ずっとこれは嫌ね。赤ん坊になった気分よ」


「下手に注目して連れ戻されても嫌でしょ? だったら我慢しなきゃ」


「あなたは露呈する秘密がなくていいわね?」


 あるさ、あんまり表に出せない秘密の一つや二つ。

 仲間にすら言えないから黙ってるだけでな。


 やいのやいの言いながら受付へ。


「すいませーん、通してくださーい」


 雑踏を抜けるようにしながら、受付へ。

 そこには困り果ててる熊谷さんがいた。


「よう坊主、今日は来ないかと思ったぜ?」


「妹が撮影したがってるのに、向かわないわけないでしょう?」


 事前にみう達に本気は出さないように伝えてある。

 本当なら志谷さんは理衣さんを押してもらおうと思ったのだが、あんまりに近くに寄りすぎて魔力をガン減りさせても威力が弱すぎると九頭竜家から勘当されかねない。

 それは理衣さんも望むところではないだろう。


 なのでそこそこに魔法は使えて、その上でタンクの志谷さんは別に動いて欲しいという思惑があった。


 そして俺は怪力。

 なので車椅子を使っての華麗な回避術を可能! スライム使いのテイマーでもあるので理衣さんも秋乃ちゃんも守れるってわけだ。

 今回は武器の選択はせず、依頼もモンスター討伐だけにとどめる。

 リスナー参加型も難しいかな?


 なんせ自分たち以外のカメラの存在があるからだ。

 それがどこに出回るか、精査する必要があった。


「依頼はモンスターの討伐か。無理するなよ?」


「ええ、いつも無理言ってすいません。今日は随分と賑わってるようですが?」


「ああ、どこかの誰かが奇跡の力を使うと聞いて、ここによく通うという情報を仕入れたんだそうだ」


「人気配信者といい、迷惑な奴らですね」


「全くだ。ここは探索者の登竜門。基礎を学んで次のランクにステップアップするところだというのにな。余計な戦力は持ち込まんで欲しいものだぜ」


 余計な戦力。それは個人の素質も含む。

 武器だけじゃなく、レベル上昇によって鍛え上げられたステータスもそれに含まれるのだ。

 俺みたいにレベルアップしたって対して本人が強くならないテイマーや、レベルアップで体調が良くなってくのみう達みたいなのもいる。

 その分取得スキルがに強くてそれで均等が取れてるだけなんだよな。


「すいません、庵度新聞というものですが」


「はい、なんですか?」


 早速、何かしらの新聞会社が突撃してくる。


「もしかして空海陸さんでしょうか?」


「はい、そうですけど」


「やっぱり! 学園四天王の! ですよね! お会いできて光栄です」


 そっち繋がりできたか。以前どこかで威高さんが全国区で暴露した。そこでみうの存在が表にバレた。

 が、病気の妹がいることぐらいで聖女につながらないはずだ。


「その、四天王というの。俺よく知らないんですよね。すぐに退学しちゃったので」


「あら、そうだったんですか? 威高こおりさん、久藤川ひかりさんはご存知ですよね?」


「ええ、何回か妹の配信でコラボさせていただいてますから」


「そこで話題に出たりなんかは?」


「出ましたけど、全く身に覚えがなくてですね。愛想笑いを浮かべるので精一杯でしたよ」


「そうだったんですね。では単独でブラックドラゴンを退けたというのは?」


「学園で主席を取っていたのは事実ですが、あとは噂に尾鰭がついたんじゃないかって思うんです。実際にいない人間の噂なんて飛躍するものでしょう? それにその学園で三年間勤め上げてトップに立った久藤川さんに失礼ですよ。俺はせいぜい一年の一学期にいい成績を取れてたくらいで」


「ではブラックドラゴンを追い払ったというのは?」


「偶然そこに俺がいただけで、主席というのもあり、俺の成果になっただけじゃないかと思ってます。それがきっかけで理事長と揉めましてね。自主退学しろって言われて今や専業主夫ですよ。こうやって病気の妹の面倒を見て、それで満足しちゃってます」


 これが綺麗な落とし所だろう。


「そうでしたか、ありがとうございます」


 名刺をもらって、懐にしまう。

 庵度イオド新聞か。全く聞いたことないな。


 その後も数々の質問の雨霰を潜り抜け、なんとかダンジョンに到達。数名の記者を引き連れながらの配信が始まった。


「お兄たん」


「どうした?」


「名乗り出たら、あれ以上の記者さんから質問攻撃に会うの?」


「そうだな。そして疲れてぶっ倒れるまで何回もお祈りさせられる」


「うぇー」


 心底嫌そうな顔。

 さっきのやり取りでもだいぶ疲れを感じてしまっている。

 自分をよく受け取ってくれる厳選されたリスナー以外を初めて知り、その内側から透けて見える欲望をモロにぶつけられた感じだ。


「名乗り出なくてよかったろ?」


「うん。お兄たんの采配にハズレはないね」


「そう言ってもらえたら何よりだ。収録始めるぞー」


「お椅子に座ったまま?」


「記者の目があるうちはな? それに、歌の練習ならここでもできる」


「なんか思ってたのと違うー」


 やりたいのと違うと言った様子のみう。

 常に身動きの取れない秋乃ちゃんからしたら「これぐらいで文句が出るうちはまだまだだね」とばかりに呆れていた。


 ほら、みう。言われてるぞ。

 実際に俺の脳内補完でしかないがな。


 しかし歌いながらの収録は違う意味で記者から注目を集めることになった。

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