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第67話 お金を稼ぐのは大変



 秋乃ちゃんがスライムチェアを自在に操れるようになってから、俺は車椅子を押す必要がなくなった。

 とはいえ、前に出過ぎるきらいのある彼女を守る仕事は今まで通りある。


「次は採掘だー!」


 えい、えいおー! とみうが音頭をとる。

 以前まで苦手だと言っていたのに、どう言う心境の変化だろうか?


「陸くんのお仕事よね?」


 当たり前のように、理衣さんも同意する。


「ここで俺なのかよ。みんなでもっと頑張るとか?」


 志谷さんに目を配る。

 そっと目を逸らしながら手に持ったブーメランを左右に振った。

 こっちに矛先を向けるなと言う態度である。


 そしてもう一人、スライムチェアの上で女王様気分で弾んでいる秋乃ちゃん。

 目をキラキラ輝かせて、採掘ってどうゆうの? と興味を抱いている。

 全員の視線が俺に集まったところで、みうは伝家の宝刀を抜き放った。


「お兄たん、スライムさん出して! 役目でしょ!」


「しょうがないにゃー」


 俺はデレデレになりながらスライムで魔力サーチを行った。

 それに続いてみう達が駆け出していく。


:ちょろい(*´ω`*)

:ちょろい( ・᷄ὢ・᷅ )

:ちょろい_(:3 」∠)_

@瑠璃:ちょろいわねー

:こんなにちょろくて大丈夫?٩(›´ω`‹ )ﻭ

:ダメそう( *˙ω˙*)و グッ!

:みうたんの言うこと絶対聞くマンだから_(:3 」∠)_

:それ( • ̀ω•́ )✧

:みうたんも大概お兄さん大好きレディだけどね(*´ω`*)

:ねー( ・᷄ὢ・᷅ )


 そこから先はモンスターを牽制しながらの鉱石拾いが始まった。


「青銅石、見つけたー!」


「こっちは鉄だよー」


「鉄なんて発掘できるっけ?」


「きっと超低確率で拾えるやつだ。ラッキーだな」


 なんだかんだ、過去にダンジョンコア拾ってるしな。

 当初はルビーかと思ったけど、特級呪物だったしな。


「明日香お姉たんすごーい!」


「す、ご」


 スライムを使って拍手。

 自分の手足が動かないからこその反応をする秋乃ちゃん。


「秋乃ちゃんもやってみる?」


「い、いの?」


 自分は見学だけだと思っていたんだろう。

 みうからやってみないかと言われて困惑していた。

 自分が足を引っ張るんじゃないかと言う考えが真っ先にきているのかもしれない。

 【エール】と言うスキルを得て、戦闘面では役に立った。

 しかしそれ以外ではまだまだ助けてもらわなければ何もできない。

 そう思っているに違いない。


「あたし達、パーティメンバーだからね! やり方教えてあげるね! こうやるんだよ!」


 みうも教えてやりたくて仕方ないんだろう。

 今まではずっと教わる側だった。

 だからこそ、この時を待っていたとばかりに気を逸らせる。

 半無理矢理に近いが、その有無を言わせなさが今一番秋乃ちゃんを突き動かすのに重要だった。


 スコップを持って、スライムの集まってる場所を狙って打った。その作業をじっくり見ながら秋乃ちゃんもスライムの触手でスコップを握りながら見よう見まねで採掘をする。


「と、れた」


「わっ! 秋乃ちゃん上手ー!」


「これは優秀な採掘員を手に入れたわね」


 理衣さんがそれっぽい笑みを浮かべながらしたり顔で言った。


「次、理衣お姉たんの番ね?」


 みうは笑顔でスコップを渡す。

 秋乃ちゃんががやってみせたのだ。

 年長者である理衣もやって見せないと示しがつかないだろう。

 志谷さんはみうより積極的に採掘をしている。


 探すのは苦手だが、力仕事は屁でもないと言わんばかりだ。

 きっとその後の食事のことしか考えてないと思うが。

 腹を減らせば減らすほど美味しく食べれるからな。


「私、体力仕事は苦手なの」


 理衣さんがそっぽを向く。

 そういえば今まで何かにつけてやってこなかったな。

 都合よくモンスターがやってきてたりしたっけ。

 魔法使う以外本当にダメダメだな、この人。


「ダメですー、やってくださいー。これやんないとお金手に入んないからねー」


「お、お金は稼がなくても食べていけるから!」


@瑠璃:姉さん……

:理衣お姉たん……( ・᷄ὢ・᷅ )

:そりゃ九頭竜の財力ならな( • ̀ω•́ )✧

:なお、それを強行した場合、探索者としてしこたまこき使われる模様_(:3 」∠)_

:そりゃそうよ ٩(›´ω`‹ )ﻭ

:今の生活を守るためだと思って(*´ω`*)

ハスター:頑張りなー


 ハスターまで来ちゃったよ。


「おね、たん。いっしょ、やろ?」


「最年少のあなたに言われたら仕方ないわね。いいわ、年長者の力を見せてあげようじゃないの!」


 全員から厳しい目を向けられ、ついには折れた。


「く、固いわね。無駄に体力ばかり使うじゃない! こんなの考えたのは誰!?」


 非力であることをこれでもかと理解しながら。

 それでも工夫して掘り起こした後は、誰よりも喜んでいた。


「ねぇ、みて! 取れたわ! これが鉄ってやつかしら?」


「青銅石ですね」


「みうのとおんなじ!」


 みうは比べるように理衣さんの掘った鉱石とくっつけた。

 みうのに比べてやや小ぶりで、理衣さんはすごく悔しそうな顔をしていた。


「おね、たん。すご、い」


 けれど、それを褒め称える秋乃ちゃん。

 例のスライムの触手を使った拍手で励ます。


「ふ、ふん! そうでしょう? もっと褒めていいわよ」


「理衣お姉たんすごい!」


「かっこ、いい!」


「いよ、大魔法使い!」


「まぁ、これぐらいにしておきましょうか」


 煽られながら、結局収録時間ギリギリまで採掘に費やした。

 今日は秋乃ちゃんの初ダンジョンアタックだ。

 こんなものでいいだろう。



「はいよ、これが報酬だ」


 受付で熊谷さんから納品査定が出る。

 今回の依頼に少し色をつけて3000円になった。

 午前中のたった三時間での働きにしてはまぁまぁいい方じゃないか?


 けれど理衣さんだけが納得いってないと言う顔をした。


「ねぇ、陸君。あれだけ働いて、これだけなの?」


「お姉たん、お金稼ぐのって大変なんだよ?」


 みうが悟った瞳で理衣さんを覗き込んでいる。

 まぁ普段これほどの稼ぎもないからな。

 ランクが低いダンジョンあるあるだ。

 ランクが高いところになればその分時給も上がるが、その分リスクも高くなる。

 秋乃ちゃんは連れて行けないので、今はお金を稼ぐ感覚だけを身につけてほしい。


「正直、私たちは食費でかつかつでしたからねー、あはははー」


 志谷さんの場合は一人分の食費で揉めてたんだろうなぁ。

 そりゃしょっちゅう喧嘩するわけである。

 しかもそれでも足りなくてフードファイターとしてお捻りをもらってたらしいし。

 配信者に対する偏見はその時に培ったのかな?

 巻き込まれたこっちはいい迷惑だが。


「それじゃあいつも贅沢させてもらってる額を稼いでる瑠璃って相当苦労したのね……」


「三日三晩ダンジョンに潜りっぱなしもザラと聞きますし」


「うへぇ、私には無理な相談だわ」


「その分稼ぎも大きいみたいです。まぁ、すぐにそこに行かなくてもいいんじゃないです? 瑠璃さんからもそこまで調整しろなんて言われてませんし」


「そうね。私もこれ以上働かなくていい生活を望んでここにいるんだもの。最低限の働きはしないといけないわね」


「それでお兄たん、今日のお昼はどこいくの?」


「一応満腹飯店を予約しているけど……」


「あ、秋乃ちゃんの食べられるやつがないかー」


「そうなんだよな」


 結局今回、食事を克服することはなかった。

 まだチャレンジしていないと言うより、俺の用意したジュレ料理で満足してしまったと言うだけなのだが。

 一回目でそこまで求めるのも違うだろうし。

 敦弘も喋れただけで満足してた。

 ここから一歩づつ進んでいけばいいと俺は思ってる。


 みうだって最初は食事も満足に食べれなかったんだ。

 そんなすぐ解決する問題でないことくらい、俺にだってわかる。


「たべ、みた」


 しかしここで秋乃ちゃんは更なる興味を示す。

 ジュレ以外の料理も挑戦してみたいと言い出したのだ。


「一応、行ってみるか? 店主さんに作ってもらえるか聞いてみるし」


「たの、しみ」


 なんだかんだと秋乃ちゃんも楽しみにしてくれてるみたいなので、そのまま収録を終えて一度帰宅。

 シャワールームで汗を流した後にお店に向かった。


 車椅子の秋乃ちゃんを連れていける銭湯はないからな。

 これは苦肉の策だが、みう達が手伝ったのもあって思いのほど時間はかからなかった。


 この調子なら何とか予約の時間には間に合いそうだ。

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