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第66話 スライムチェアの魅力!

 秋乃ちゃんがバトルに参加してからは本当にあっという間に戦闘が終わった。

 最初こそは辿々しかった言葉も、歌うたびにだんだんとはっきり聞こえるようになって、やはり【契約者】たちのダンジョン内での成長は著しいと感じた。


 これだったら病院食じゃなくても食べられるんじゃないかな、なんて思うのはみうだけではないようだ。

 とはいえ、敦弘も見ている手前で同じ食事を出すわけにもいかず、きちんとスペシャルドリンクを用意。

 そこでみんなの食べてるご飯に興味を持ってもらい、その上で食べられるかどうかのチェックをする必要があった。


「お兄たん、お腹ぺこぺこー。ご飯にしよ!」


「そうだな、今回兄ちゃんの出る出番はなかったし、ここで名誉挽回と行きますか。いつものスライム芸をとくとご覧あれ!」


 テイムの掛け声と共に、スーラの【権能】が発動する。

 壁から染み出してくるように、スライムが湧き出て、俺の前に集まった。


「よーし、お前ら、お嬢様達を支える椅子になれ」


 スライム達が布の下に潜り込み、それっぽい形に擬態していく。

 真っ先に座ったのはみうだ。


「秋乃ちゃん、怖がらなくて大丈夫だよ! このスライムさんはお兄ちゃんのお友達だから」


 みうがその場でバウンドしながらも、しっかり支えてくれるスライムチェアの安全性を披露する。


「秋乃、このパーティの普通は常識を逸しているわ。九頭竜である私だって初めてのことばかりで面を食らったもの。でも、ここではこれが普通。だから慣れなさい」


 理衣さんがお金を持ってたってこんな生活は味わえないと暗に言う。

 まずこんなに同時に使役できるテイマーが俺以外にいないからな。


「秋乃ちゃん、この椅子は慣れておくと便利だよー! なんといっても自分の意思の通りに動かすことができる。こーんなふうに!」


 志谷さんがスライムに勝手に命令して走ったり座ったりさせた。

 その車椅子のびっくりな性能に秋乃ちゃんは目を輝かせた。


「わた、しに、も、でき、る?」


「順応性は個人差はあるが……お人形さんとお友達になれる秋乃ちゃんなら多分大丈夫だろう。指示出ししてみて?」


「き、て」


スライム椅子が秋乃ちゃんの声に従うように動き出し、触手を動かして車椅子の中から秋乃ちゃんを掬い上げた。


「う、わ」


 側から見たら襲われてるようにしか見えない光景。

 しかしその触手は椅子に擬態したスライムの座席に座らせると、シュルシュルと椅子の真下に吸い込まれた。

 これ以上は何もしないよ、という従順な姿勢をとる。


「す、ご」


 目の輝きが先ほどよりもだいぶました。

 体が動けない分、人形を使って意思表示してきた秋乃ちゃん。

 けれど今からスライムが手下になった。

 ダンジョンの中にいる間なら、スライムが秋乃ちゃんの命令を聞いてくれる。

 そういうチャンスを掴んだのだ。


「ごは、ん!」


「お兄たーん」


「はいはい、今出しますよ。秋乃ちゃんは一応特性ジュレだ、食べられそうだったらみう達と同じのを食べてもいい。けど、無理はするな?」


「うん」


@敦弘お兄たん:秋乃、秋乃ぉおおおおおᕦ(ò_óˇ)ᕤ

:顔文字と感情が合ってない件( ・᷄ὢ・᷅ )

:草_(:3 」∠)_

:それはワイらも一緒や( *˙ω˙*)و グッ!

:草( • ̀ω•́ )✧


「おす、し。マグ、ろ?」


 ジュレ状のパックをストローで吸い出す。

 味の感想はまさしくマグロだ。サビ抜き、醤油は控えめ、生臭さも控えめ。

 本来のものを食べ慣れている人には味気ない味わいだが、ジュレにする分そのワイルドさは邪魔だった。それだけである。


「お兄たん、今日のメニューは?」


「満腹飯店のギガお子様ランチ再現と縷縷家の海鮮丼再現と、先日釣り上げたマグロのフルコースだ。秋乃ちゃんには特別にお寿司のジュレとスープのジュレを用意した。お寿司のジュレは豪華だぞー? マグロにいくら、大トロ、鯵、そしてサーモンだ」


「すごーい」


「お寿司が好きだって聞いたからな。そしてこれは新メニュー! 勝流軒のラーメンジュレだ!」


「ラーメンをジュレにしちゃったの?」


「敦弘お兄たんプレゼンツだ。秋乃ちゃんが食べたそうにしてたらしくてな。俺はそこでバイトしてたのもあり、味はしっかり身にしみてる。だからこそできた再現だな」


「すごーい! あたしの分は?」


「お前はしっかり噛めるだろう? なのでチャーハンと餃子だ。汁物は今回持ち込めなかったんだ」


「ぶー」


「ふふっ」


「みう、あまりにもわがまますぎて秋乃ちゃんに笑われちゃってるぞ?」


「あ、違うんだよ? いつもあたしの思った通りのものを出してくれるお兄たんだから、今日は用意してくれてないのかなーって、それだけ!」


 嘘はついてないけど、それは少しどうかと思うぞ?


「みう、あなたこれだけの料理を完食できる前提でしゃべってるんでしょうけど、流石に追加発注は完食し切ってからになさい?」


「そ、そうだね。理衣お姉たんのいう通りだ。あたしったら気持ちだけ先走っちゃって。ごめんね、お兄たん?」


「それだけ食べられるようになったんだ。兄ちゃんとしては誇りに思うさ。でもな、用意したのを食べてくれないのは悲しい。あのお店は出前すればいつでも食べられるんだ。秋乃ちゃんはお前よりも食べられる食事が制限されてる分、俺も手をかけてる。そこはわかってくれないか?」


「わかった!」


 こうして食事会は緩やかに食べ進める。


「ねぇ陸くん」


「どうしました理衣さん?」


「このデニッシュ、少し生臭くない?」


「刺身が多いから、その匂いが移っちゃいましたか?」


「かもしれないわね」


「だからといって、テーブルを離して食事するのも違うでしょう?」


「そうなんだけど」


「でしたらこういうのはどうでしょうか?」


 俺はスライムで簡易調理台を作り、鯵をミンチにして持ち込んだバケットを半面焼いた後にそれを塗りたくった。

 理衣さんは味が食べられるといっていた。

 それを思い出し、ごま油と塩で味付けしたそれをテーブルに並べる。


「あら、これならいけるわね」


「よかった」


:お兄たんつえー_(:3 」∠)_

:あっという間に料理を作った?( • ̀ω•́ )✧

:やっぱりお兄たん万能だわ( ・᷄ὢ・᷅ )


 コメ欄は騒がしくなり、そして食事会という一大イベントは恙なく終了した。

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