瑠璃さんの話通り、その日のうちに検査を終えた理衣さんが病室に帰ってきた。
みうにお願いしていた案件は、実行したはいいものの、みうも眠たくなって一緒に眠ってしまったらしい。
同じベッドで2人一緒に並んで寝てたのを、瑠璃さんと一緒に激写したのはいい思い出だ。
結果は芳しくなかったが、長年患った難病がこんなもので治れば苦労はしまい。
しかし寝返りを打った形跡が見られたのもあって、全く効果がないわけではない様だ。
今後も続けてスキルを使わせる前提で解散。
起き出したみうに朝食を渡して準備してからクランを出た。
「お兄たん、あたし電車乗るの初めて。さっきの改札? ちょっと怖かったのは内緒ね?」
「これからどんどん慣れていけばいいさ」
実は俺も初めて乗った。
みうの手前、不慣れな感じは見せたくなかったので一緒に着いてきた熊谷さんの見様見真似でことなきを得ていた。
「うん」
昨日、威高さんと連絡を通じて、最寄りのダンジョンを教えてもらう。
その場所は電車で一本、二駅越えた場所にある
海に面している港町で、リゾート施設や観光スポットとしてもそれなりに名前が売れている。
地域おこしにも協力的で、お土産屋さんではオリジナルマスコットのルルイエちゃんなどを各種狂信的に崇拝しているようだ。
近く、お祭りも執り行われるみたいで、パンフレットなどが駅中からも多く見られた。
「タコさん! タコさん!」
みうがパンフレットを指差しながらそんなことを呼びかけてくる。
ルルイエちゃんはタコの被り物をした小さな女の子だった。
俗に言うゆるキャラだな。
タコを模した風船などを道ゆく人に配っている。
「キーホルダーやお人形も置いてるみたいだ。帰りに何か買っていくか?」
「いいの?」
「気に入ったやつがあったらな」
「迷っちゃう〜」
地元を離れるのも初めてで、何もかもが新鮮みたいだ。
駅を離れて、目的の場所へ。
今日の目的地はマリンピアダンジョン。
Eランクのダンジョンで、水棲系モンスターが多くいる。
敵は素早く、駆け出しにとっての鬼門だが、みうなら対応できるだろうと言うことでピックアップしてもらった。
どうにも俺の操るモンスターはどいつもこいつも癖が強いらしく、一般的に解釈すればランクD〜C相当に位置付けされるとかなんとか。
なので十分に対応できると太鼓判を押してもらったのだ。
「陸くん!」
「威高さん!」
再会は久しぶりだ。今じゃ熱狂的に妹の応援をしてくれるのでそんなに日が空いてないように思うが、普通に3週間くらい前の話なんだよな。
「こちらでは初めましてかしらね。わたくしは久藤川ひかり。以後よろしく頼むわ、学園の有名人さん」
「? なんのことだ?」
「ひかりちゃん、あの学園の理事長のお孫さんなの」
「あー、そういえばどこかで聞いたことあるような名前だと。けど、有名人というのは?」
「ブラックドラゴンを討伐し、学園の平穏を守った救世主という意味で、あなたは自主退学した後も噂が囁かれていたのよ」
「へぇ」
全く興味がなかった。正直それどころじゃなかったしな。
「お兄たん、すごかったんだね」
妹が俺の袖を引っ張りながら尋ねてくる。
「まぁな。でもみうを治すためのお薬は見つからなかった。だから兄ちゃんは学園をやめたんだ」
「お兄たん、元気出して!」
「今ので元気になった!」
「単純〜」
だなんて二人の世界に入っていると、例の久藤川さんが鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしている。何かあったのか?
「どうした?」
「いえ、学園でのあなたはもっとクールで表情を表に出さないという噂でしたので、なんというか、噂とは当てにならないものですわね、と」
「噂なんてそんなもんだろ。俺は昔っからこんなだぞ?」
「そうですよ、ひかりちゃん。みうちゃんがかわいいからみんなみうちゃんの前ではおかしくなるんです」
「こおり、あなたの擁護はどこか的を射てないわ。それで、そちらの方は?」
とうとう、呼んでないのについてきた熊谷さんの存在に気がついたようだ。
「俺は熊谷ってもんだ。普段みうちゃんたちが利用してるダンジョンセンターの職員だ。今日はオフで、一ファンとしての参加だな。ちょいとこの二人の扱い方を厳重注意しておく必要があったんでな。こういうのはあんまりデータに残せん。口頭で伝える必要があったんだ。特に武器面で、自治体によって特色が異なるし」
「クマおじさん、そうなの?」
「ああ、場所が海に面してると錆びやすい金属製品は取り扱わないことが多いんだ。エストックも刀身はどうしても鉄を使うからな」
「あ、そうだね。サビって怖いね」
「通りで武器を持参していないと思ったら、レンタルでしたのね」
「うん、うちお金ないから」
「お金の心配はするなって言ってるんですけどね。特にこいつの場合は成長期なのもあって、あれこれと模索中なんだよ。コラボする相手によって装備を変えたりなんかもあるし、そうだ。ダンジョンセンターに入る前に自分たちの得意分野を話し合わないか? みうもその方がいいよな?」
「うん! あたしは武器を使って敵さんを攻撃するのが得意だよ! でも、攻撃されるとちょっとワタワタしちゃいます。普段はお兄たんがサポートしてくれるのでなんとかなってますけど、ちょっと一人で動くのは苦手です」
「みうの攻撃は隙が大きい分威力重視。病人の割には動ける方だと思うので、俺のサポートで敵の牽制と動きの制御をしているな。俺の説明はそんなところでいいかな?」
「あなたの能力はすでに把握しておりますわ、空海さん。さて、次はわたくしかしら? 先ほども説明しましたとおり、銘は久藤川、名はひかり。ジョブは重戦士でタンクをしておりますの。ちょっとした魔法も使えましてよ」
「タンクで魔法使いというのは珍しいな。サポーター仲間が増えるのは頼もしい限りだ。俺もモンスターの動きは抑えるが、全てをカバーするのは難しいからな」
「少しでも貢献させていただきますわ。こちらからも空海さんにお願いがありますもの」
「お願い?」
「ひかりちゃん、その話は後にして。次は私だね!」
久藤川さんとのやりとりに割り込むように威高さんがきた。
どうやらお願いは込み入ったものになるようだ。
今は自己紹介の時間でしょうと釘を刺されている。
「あたしは威高こおり。もうすでに知っていると思うけど、あれでは全部は紹介してないかな? 私は見た通りの近接ファイター。短剣の二刀流で戦うよ!」
「わー、おねえたんかっこいい!」
その場でナイフをクルクル回して大道芸。
みうには高評価のようで絶賛されていた。
威高さんもまんざらではないようだ。ちょっとドヤってる。
なんだかこの二人って反応がそっくりなんだよなぁ。
生き別れた姉妹なのかってくらい似ている。
「と、いうのは配信者としての表向きの姿。メインは魔法使いなんだよ」
「え、そうなの?」
「こおりさんは身体能力向上系の魔法を使ってワイヤーアクションまがいの環境を自分で整えていますの」
「えっと?」
「みうにわかりやすく言うと、空を飛んだり跳ねたり、大きなジャンプをできるのは全て魔法によるサポートのおかげなんだ。俺がスライムでみうの足場を作ってるのと同じようなもんだ」
「あ! そう言うことなんだ!」
「スライムを足場に? 一体どう言うことですの?」
今度は久藤川さんが頭の上に疑問符を並べた。
スライムを使った威高さんスタイルだと説明するも、勘違いは加速するようだった。
なんとなく理解はしていたが、みうの純粋なファンは威高さんオンリーで、久藤川さん自体は特別ファンというわけでもなさそうだ。
コラボというのも向こうから誘ってきたものの、こちらに合わせるのは戦闘だけのようで、特に過去のアーカイブを見返している感じもなさそう。
熱狂的ファンの威高さんから説明されてわかった気でいるのかな?
それはさておき武器選び。
「今日はあたし、これを使ってみようと思うの!」
それは鉄の棒。
先端にトゲトゲがついたバットみたいなものだ。
よく鬼が振っている金棒を思い描いてくれたらそれで大体合ってる。
「随分と大それた武器を選んだなぁ。その心は?」
「えっと、ランクが上のダンジョンだから火力不足にならないかなって」
「と、言うことらしいぞ? すっかり信用されてるな、久藤川さん」
「光栄ですわね。みうちゃんはわたくしがお守りしましてよ!」
「一緒にモンスターを倒そうね?」
「あい!」
武器を選んだらダンジョンに入場。
俺たちは配信の準備を始めた。
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「お兄たん! チャンネル登録者数が一気に増えたよ!」
「おっ本当だな(見過ごしてたか? 確かについ最近まで12000台だったのに、急に増えてたな)サブチャンネルの食事配信は別統計なのに」
「そこから流れてきたって考えは?」
「そうかもしれんが、まだそれだけとも思えないな」
「じゃあ、他には?」
「今日から威高さんとコラボするだろ?」
「するね」
「威高さん達が事前にうちのチャンネルの宣伝をしていてくれたとか?」
「あ、そうかも!」
「後でお礼言わないとな」
「うん、もっとリスナーもぎ取っちゃうか強くしちゃうよ!」
「あんまり前に出過ぎて、コラボ相手に迷惑かけすぎないようにな?」
「ぶー、あたしそこまで子供じゃないもん」