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第31話 よく食べる子

「なんだろう、あれ! 初めて見るやつだよ」


 みうは警戒を強めて防御態勢を取る。

 前までだったら喜び勇んで攻撃しに行っていただろう。

 成長したもんだ。


「どんな攻撃をしてくるかわからないわ。ひとまず凍らせてみるね」


「お姉たん、おねがーい」


:俺もあんなの初めて見た

:本当にここってFランクダンジョンなの?

:新種のスライムってこんなにいるんやね

@クマおじさん:まだまだダンジョンは謎が多いからな

@瑠璃:モンスターは強いやつの前には姿を現さないのもいるのよ

@威高こおり:総戦力というやつでしたっけ?

:聞いたことある! 装備やスキルによってダンジョンが敵を変えるんだっけ?

:はえー、じゃあ分布図なんて当てになんないんだね

:ある意味で新種の宝庫なのか

:みうたん、頑張って!


「【フリーズ】! 外した!?」


:違う、凍りついた下のスライムを犠牲にして上が逃げたんだ!

:なんだそのトカゲの尻尾切り

:面白い動きをするんだね

:あ、なんかまた変な動きしてるぞ

:みうたん気をつけて!


 だるま落としスライムは、残された一番下を支点に大きく伸びて鞭のようにしなり始める。


「わっわっ」


 大きく態勢を崩すみう。

 尻餅をついたところをムチ打ちスライムが狙う。


「うわーー、お兄たーん!」


 万事休す!

 しかしそんな姿を見たくない俺はスライムをテイムしてクッションとしてみうとむち打ちスライムの間に挟まってもらった。


「あれ? 痛くない! ありがとうお兄たん! 今度はこっちからいくよ! スキル発動! 【よく食べる子!】」


 あれから理衣さんと相談したけれど、結局最初に決めていたスキルを取ったらしい。

 最終的に全てのスキルを見比べて、これが一番扱いやすかったというのもあるだろう。


 空腹度の消費が少ないのがこれだった気がする。

 ただしドロップが0になるのだけはいただけないが。


 みうのエストックが当たった場所を中心に空間に歪みが生じた。

 まるでストローでジュースを吸うように、エストックにスライムが吸われてているようにも見える。


:なんだ、あのスキル

@瑠璃:珍しいスキルだね、みうちゃんにピッタリだ

:武器がモンスターを食べてるみたい?

:みうちゃんの体が光ってるよ!

@威高こおり:スキルってジョブによって変わるんだよね

:じゃあジョブからして違うから知らなくて当然てことか

@勝流軒大将:よくわかんねぇが、みうちゃんが頼もしくなったんだろ?

:そう思えばいいか

:だよな、いけー! みうたん!


 新しいスキルに注目が行きがちだったが、ここには詳しく突っ込む者がいなくて助かった。

 そしてスキル【よく食べる子】は、俺が思っていた以上に凶悪だった。


 よもや発動したらモンスターを丸々吸収しちゃうとはな。

 そりゃドロップが出ないわけである。

 でも経験値は何故か入る不思議なスキルである。


「みうちゃん、どこか調子悪くなったりしてない?」


「大丈夫! ちょっとお腹空いたくらい。さっき転んで擦りむいたところも今ので治ったよ!」


:傷が治る?

:殴りヒールか!

:アタッカーが1番欲しいやつ来た!

:でもお腹減っちゃうのはなー

:別に高難易度ダンジョン潜るわけでもないし

:それもそっか

:継戦能力を求めるのはかわいそう

:いっぱい食べてよく休んでね?


「ありがとうございます! もう少し戦ったらご飯休憩したいと思います!」


「陸くんのご飯は美味しいからね。私も張り切ってモンスター倒すわよ」


「えいえい、おー!」


「おー」


 元気一杯の美雨に引っ張られるように、理衣さんも小さく倣う。

 そしておかわりのモンスターが現れた。


 羽根スライムにスライムスネイク、そこにラットライダーまで現れてさぁ大変!


「三匹も来ちゃった!」


「みうちゃんの活躍をダンジョンが脅威に思ったのかも」


「そっか、あたしもダンジョンに認められたんだ。三匹出さないと相手にならないって思われたんだね!」


 ちょっと嬉しそうに照れる。

 配信者としてではなく、探索者としての成長。

 ダンジョンからそう思われた。それを自覚して自信をつけた。

 その意気込んだ笑顔に思わずフラッシュを焚き続けたのは内緒である。

 ちょっとフラッシュ眩しいと思われてることだろう。


「そうだね、だから一匹は任せて大丈夫そ?」


 理衣さんが詠唱を始める。

 さっきのラットライダーは自分で受け持つ。

 だから倒せそうなのはお願いしてもいいか?

 そう聞いてきて、元気よく返事する。


 ターゲットは地を這いつくばるスライムスネイクだった。


:また見たことないモンスターだ!

@瑠璃:本当にここは新種が多いのよ

:そうなんだ?

@クマおじさん:装備を揃えていくと、スライムかゴブリンしか出てこないけどな

:あー、そんな仕掛けが

:こういうユニークモンスに会いにいくには装備を外す必要が?

@クマおじさん:それは危険だからやめとけ

@瑠璃:みうちゃんはそれに比べて生命力が著しく低いから戦力が上がらないの

:あ、うん病人だったもんね

:これ見てたら元気じゃんってなるけど

:そういえばこれリハビリだった

:みうたんがんばえー!


「えい! とぉー! やぁー!」


 突剣ならではの三段突き。

 通常攻撃に【スラッシュ】を混ぜて攻撃している。


 しかしスライムスネイクは意外と素早く、微妙に捉えきれなかった。


「お兄たん、足場!」


「おまかせあれ!」


 テイムして立体的にスライムを足場として置く。

 スライムスネイクが壁を這い上がろうとしている場所に、みうがスライムをクッションにしながら距離を詰めて【よく食べる子】を発動した。


 途中で転んだり、擦りむいたり、スライムスネイクにタックルされた傷もこれでへっちゃらだ。


「勝利!」


:みうたん強い!

:殴りヒールいいなー

:まだもう一匹いるよ!


「最後の一匹、やるわよ!」


:理衣たんも終わらせたみたい

:ここでコンビネーションきちゃ!


「うん、お兄たん! もう一回足場お願い!」


「まかせろ」


:お兄ちゃん頼もしすぎない?

:待て待て、カメラで撮影しながら同時に戦闘なんて相当凄腕だぞ?

@瑠璃:陸くんは常時20匹テイムできるユニークテイマーだからな

@威高こおり:それ、言っちゃってよかったんですか?

@瑠璃:おっと、口が滑った。あとで編集しておいて

:プローーーーー

:この人本当に九頭竜プロなの?

:普段と様子が違いすぎて困惑する

@瑠璃:姉さんの前の私はいつもこんなだよ


「うちの瑠璃がいつもご迷惑をかけてるみたいね! 【水柱】 今よ、みうちゃん」


「やぁーーーーー! 【よく食べる子】」


 スライムをトランポリンが割りに飛び跳ねて高さを調整しながらアタック。

 水の柱で身動きを封じられた羽根スライムは【水柱】ごとみうのエストックに吸収された。


:え? 魔法ごと吸収した?

:うそやろ、それ魔法も食べちゃうのかよ

:殴りヒールつえーー!

:これって案外壊れ技能なのでは?


 どうやらそういうことらしい。

 しかしみうが可愛いのでそれ以外はどうでもよかった。


「どうする? ご飯にするか。それともまだ戦えるか?」


「あたしはまだ平気! 傷も治っちゃうし、いつもより気分がいいんだー」


「そうかそうか。理衣さんは?」


「みうちゃんだけ働かせて、お姉さんの私が動かないのは違うでしょ。だからもう少し運動するわ」


 そういうことになった。

 それから3回の戦闘を終え、ようやくみうがお腹空いたーとゴネ始めたのでお昼休憩とする。


 消費満腹どが10%とはいえ、12発も撃って大丈夫だったのか?

 この手のスキルってデメリットとしてお腹がスキルギルとデバフがかかったりする者なのだが。



「それではこれからお昼休憩+雑談としまーす」


 テロップに幼女お食事中と出しながらその風景を映し出す。


:豪華なお食事だねー

:俺たちがいつも食ってる弁当がいかに茶色で統一されてるかわかるな

:彩りもそうだけど、全部うまそうだな

@瑠璃:彼には管理栄養士として働いてもらってるからね

:はえー、ただのお兄さんじゃないってことか

:カメラマン兼テイマー兼管理栄養士とか

:俺たちもやろうと思えばできるぞ?

:それはそう

:カメラマンと戦闘は両立できないからなー


 それはそう。

 俺以上にカメラマンをしながらバトルに参加できる奴がいるんなら見てみたい。

 その上でなお、妹の引き立て役になれる人材。

 だめだ、見当たらない。

 それ以上に、妹のそばに近寄らせられない。

 コラボぐらいならまぁいいが、男が寄り付くだけで蕁麻疹が走るな。


「みうちゃん、唐揚げ美味しいかい?」


「おいしー!」


 フォークで刺した唐揚げを頬張りながら返事をする。

 はい可愛い。

 またも俺のカメラがフラッシュを激しく焚く。

 その笑顔、プライスレス!


:理衣たんは全く違う系統のお昼なんだー

:ワッフル、クロワッサン、スコーンをジャムと紅茶でいただいてるのか

:すごい似合ってるけど、少食なのかな?

@瑠璃:姉さんはあまり動き回らないから必要カロリーが最低限でいいの

:いや、だめだろ

:魔法使いは喉が渇くんだよなー

:あー、詠唱があるから?

:甘いものが欲しくなるよねー、脳が疲れるから

:そう考えたら理にかなってる食事?

:虫歯一直線やけどな


「歯磨きしてるから平気よ、瑠璃が」


:九頭竜プロ? 流石に甘やかしすぎでは?

@瑠璃:は? 姉さんが可愛くないの?

:可愛いです!

@瑠璃:なら歯磨き忘れて寝ちゃったら歯磨きくらいするわよね?

:するかなー?


「みうちゃんは自分で歯磨きできるよね?」


 場の空気が悪くなってきたので、俺は話題を変えた。


「できるよ! 前までは看護師さんにお手伝いしてもらってたの! けど最近体が動くようになったから、お兄たんに教わって自分でできるようにしたんだー」


:この差よ

:一体どこで教育間違ったんやろな

@瑠璃:姉さんはちょっと足りないくらいでいいの


「誰が足りない子ですって?」


 頭が足りないだなんて言ってないのに、身に覚えがありすぎるのかむきーと苛立っている。これはよろしくないな。みうに悪影響が出てしまう。

 そこで仕事のできる俺は秘密兵器を取り出した。


「理衣さん、チュロス作ってきたんだけど要りますか?」


「サクサクのやつ?」


「もちもちのやつです」


「……いただくわ」


 数瞬の葛藤ののち、受領する。

 さっき瑠璃さんも茶化していたが、多分割と歯が悪いのでは?

 だからあまり固い物が食べられないんじゃないかと危惧している。

 現に一緒のお弁当箱の噛み締めるタイプのものには一切口をつけず、唯一口に入れるのは甘い卵焼きくらいだ。


「良い腕ね、うちに欲しいわ」


「もうすでにクラメンですよ?」


「そうだったわね」


「お兄たん、あたしの分は?」


「もちろんあるぞー?」


「わーい」


「サクサクのとモチモチの、どっちがいい?」


「もちもちはお姉たんが食べたがってるからー、あたしはサクサクのでいいよ!」


:お姉たん思いのいい子やね

:これは人気が出る

@威高こおり:実際、人気が出てきてますよね

:それはそう

@瑠璃:私が目をつける前から、この子はもっと人気が出るポテンシャルを秘めてるって思ってたわ

:俺もみてて応援したくなった


「これからも応援よろしくお願いしまーす」


 みうが決めポーズでカメラに向かって語りかける。

 それだけで、コメント欄が慌ただしくなった。

 みうの小悪魔スマイルに俺含めて全員メロメロになったに違いない。


 なお、その日多めに持ってきたお弁当は一回の休憩で全部空になった。

 明らかに以前より食べる量が増えている。

 【よく食べる子】の影響か?

 脂っこいものや粉物まで食べられるようになってたのは嬉しい反面、少しだけ不安もあった。



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「お兄たん! とうとううちの登録者数も1000人の大台に行ったよ!」

「おーすごいなぁ。記念にどこかとコラボするか?」

「あー、うん。それか雑談配信してもいいかなって。あたしあれやってみたいんだよね、凸待ち配信」

「あーうん(そう言うのはもっと横のつながりを構築してからじゃないか? 今の段階で威高さんと瑠璃さん、理衣さんくらいしか知り合いがいない。その三人だけで回しておしまい? その間のトークを全部一人で持たせる? 地獄かな)」

「ダメかな?」

「ダメってことはないけど、みうは一人でコメントにお返事できるか? 配信初めてすぐにきてくれるってわけじゃないからさ、ああ言うのは」

「あ、難しいな。あたしトークスキルないし。探索だったらモンスター倒したりできるから、そこまで考えたことなかった」

「だから記念配信は新衣装発表、または最近始めた再訪の成果発表とかでいいと思うぞ?」

「そんなので喜んでくれるかな?」

「そんなのって言い方は失礼だぞ? みんなは病気で苦しんでも頑張ってるみうを応援してくれてるんだ。探索者用のバトルスーツ以外の美兎も見たいって言ってくれるさ」

「そうだね、じゃあそうする! ありがとうお兄たん。ちょっとスッキリした」

「おう、相談ならいつでも乗るぞ」

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