「それじゃあみう、今日から一時的にコメントをONにするからな」
「う、うん。なんか緊張するね」
「とはいえ、リスナーのほとんどが知り合いで固定されてる。みんながみうの味方だ。本格実装するまではこれで我慢してくれ。逆にコメントに振り回されすぎて油断しちゃう場合もあるからな」
「わかった」
今回の撮影から、試験的にコメント機能をオンにしてみるテストを開始した。
と、言うのもメンバーシップを掻い潜った猛者が相当数多く。
その要望の多くが生配信、またはコメント機能のオンを要望する声が多かったためだ。
しかしみうにそこまでの度量はない。
俺や瑠璃さん、理衣さんに熊谷さんで実際には一杯一杯。
何かをしながらコメントに気をかけてる余裕はないかもしれない。
が、そんな風に決め込む俺に待ったをかけたのもまたみうだった。
登録者数達成お祝いのイベントをまだ披露できていない。
衣装チェンジだけじゃ間に合わないくらいの登録者数の増加。
ここで一つ大きなことをしたい。
それがコメント機能のオン、つまりは生配信をすると言う意気込みだった。
意気込みは買うが、いきなりやって失敗したらひどく落ち込むかもしれない。
それでしばらくは身内を使ってリアルタイムでコメントのやり取りを体験させる場を設けたわけだ。
それぞれの準備を終え。いつもの熊谷さんのダンジョンで撮影を始める。
今回九頭竜プロはお休み。
カメラマン兼サポート役は俺が担当することとなった。
「それじゃあ、みう。カメラ回すぞー」
「うん。もうカメラ回ってるかな? いつもご視聴ありがとうございます! みうです」
「理衣よ」
「今日はですね、理衣お姉たんと、お兄たんと一緒にダンジョンにアタックをかけたいと思います。少しは強くなったあたしをみてくれたらなーって思います」
俺は頷くようにカメラを揺らした。
そしてコメントが勢いよく流れていく。
招待人数は10人に満たないのに、勢いがすごい。
それだけみうを陰ながら応援してくれる人がいたのだ。
思いっきり身内しかいないが。
:初見
@瑠璃:きゃーみうちゃーん! 姉さんも素敵よー
@クマおじさん:おう、嬢ちゃん、あんま気張らずにな
@威高こおり:今日はお誘いありがとうございます
@勝流軒店長:生のみうちゃんを見れるなんて感激だ
「わ! たくさんのコメントありがとうございます!」
みうがペコペコと頭を下げた。
やっぱり緊張してるな。
しかし理衣さん場慣れしてるのか、杖で帽子の先端を上げる仕草をしながら司会進行をした。ナイス!
いつもはグータラだけど、ここではしっかりお姉さんしてるな。
「みうちゃん、今日の目標は?」
「あ、はい。実は新しいスキルを覚えたので、それの試運転と、今日は頑張って二階層を目指しちゃいます!」
「それじゃあ、早速出発よ」
「うん」
:期待
:期待
@威高こおり:みうちゃんの勇ましい姿が見れるのは役得だよー
:ほんそれ
:無理しないでええんやで
温かいメッセージをみて、微笑む。
そうそう、こう言うのでいいんだよ、こう言うので。
俺は和みながらカメラをスライムに持たせていろんな角度からみうの勇姿を移していく。
「みうちゃん、そろそろ敵が現れるよ!」
いつもの合図だ。
それぞれが武器を抜いて準備する。
そこに現れたのは、ラットの上にスライムが乗っかった新種のモンスターだった。
新種、というかさっき合成で作った。
見た目だけは可愛くする。これが俺のポリシー。
「スライムとラットなら余裕!」
みうは駆け出し、スライムに狙いを定めて【スラッシュ】
しかしそれを読んでいたのか、ラットは左に飛んでスライムがみうめがけて飛んできた。
「わっわっ!」
:なんあれ? あんなモンスターいるの?
@威高こおり:私もみたことないよ
:みうちゃん頑張ってー!
:がんばえー、みうたん!
:こおりたんもみたことないんだって
:みうちゃんやれるかな?
「ダメよ、みう。新種のモンスターなんだから用心深くいかないと」
理衣さんが咄嗟に【フリーズ】
スライムはみうの顔に張り付く前に氷結された。
:理衣ちゃんかっこよ!
:氷結魔法使いはありがたいねー
@威高こおり:あの瞬間にこれほどの氷遁を!?
:こおりたんが間違った漫画の説明キャラみたいなこと言ってる
:氷遁ってなんだよ
@クマおじさん:さすが氷結の魔女だな
:誰のこと?
:きっと理衣たんのことだよ
:理衣お姉たんがんばえー
「ごめん、お姉たん」
「いいのよ、チームでしょ。次は私が足止めをするから。みうはトドメをお願い」
「うん!」
背中にスライムを乗せなくなった分、身軽になったラットライダーに、もう一匹ラットライダーが理衣さんに狙いをつけて駆け出した。
:理衣ちゃん、後ろ!
:みうちゃん気づいてー
「お兄たん!」
「任せとけ! テイム!」
カメラマンの俺が画面に映んないように気を遣いながら、その場にいないスライムをテイムした。
身軽なラットライダーの上にスライムを乗せる。
仲間が戻ってきたのかと油断をさせて、そのまま地面に貼り付けてやった。
「【スラッシュ】!」
その隙を見逃さず、みうの【スラッシュ】が炸裂!
そして呪文の詠唱が終わった理衣さんは自分を囲うように水の塊を周囲に展開した。
その中に顔から突っ込むラットライダー。
つかむ地面が消え失せ、水柱に囚われたところをみうの【スラッシュ】にて討伐。
こうして1回目の戦闘は、無事終えることができた。
:おおーーーーー
:ちゃんと強いよ、みうちゃん
:今のはもう少し慎重に行ったほうが良かったね
:理衣ちゃんナイスフォロー
「ありがとうございます! さっきちょっと危なかったけど、なんとか勝てました!」
ガッツポーズをするみう。
俺はそのポーズを撮影するのにカメラの連写機能を使った。
あっという間にデータが埋まったが、悔いはない。
メモリなら唸るほど持ってきてる。
「でも、先にもう一匹仕留めてくれたお陰で助かったわ」
「お姉たんの魔法もすごかったよ!」
「陸くんのテイムもでしょ?」
「あ、うん! お兄たんもありがとうね」
俺はどういたしましてとばかりにカメラを揺らした。
@威高こおり:空海くんもナイスフォローだったよ
:みうちゃんのお兄さん、テイマーさんなんだねー
:今は見えないけどカメラマンやってくれてるのかな?
:なら安心だね
「はい、お兄たんはいつもあたしの手助けをしてくれてます! お姉たんと組む前は一緒に組んでくれてたんですよー」
ちょっとしたトークタイムに突入。
モンスターは出ないのかって?
全部俺のテイムモンスターが封殺してるから出てこないな。
現段階でパーティ戦力は200かそれくらい。
Fランクダンジョンに潜るには過剰だけど、Eにいくには少し物足りない。
それくらいの装備で固めている。
俺? 普段着だけど。
俺まで装備固めたら、余計なモンスター出てきちゃうからな。
カメラに映さなきゃヘーキヘーキ。
どうせここら辺に出るやつは全部テイムできるしな。
少し休憩をして、次はコメント返し。
みうはなんでも真に受けちゃうので、最初こそはまだ早いと封印していた。
しかし実際にやらせてみれば失敗しながらもなんとかやっているではないか。
成長を実感しながら、俺はその姿を何枚もカメラに収める。
永久保存版だ。
もしここに瑠璃さんがいたらお姉さんを舐めまわすように撮っていたと思う。
多分前回それをされて居心地が悪かったんだろうな。
今回はコメントで気持ち悪さを遺憾なく発揮していた。
@瑠璃:姉さん、最高に決まってたよー。アーカイブでは過剰に演出入れとくから
「絶対にやめて!」
「九頭竜プロはお姉さん思いだよね! あたしもお兄たんがいてくれるからここまで冒険できるようになったんだー。本当は衣装チェンジなんかも用意してたんだけど、今回は新スキルがあるのでそっちを目玉にしようと思ったんだ」
:そうなんだー
:新衣装きちゃ!
:新スキルってどう言うものなんだろう?
:スラッシュの系統ってやっぱり剣技かな?
「詳しくは内緒です! 使うとお腹が空いちゃうからね」
:そんなスキルあったっけ?
:いっぱい動き回るのかな?
:みうちゃんは結構動き回るもんね
:みてるだけでお腹すいてきちゃうよ
@威高こおり:新スキル、楽しみだよー
威高さんはすっかり近所のお姉さんみたいな接し方でみうにコメントを送っている。みうも、以前配信に映った影響でチャンネル登録者数が増えたのをきっかけにより良い付き合い方を考えているみたいだ。
「こおりお姉たんもありがとう! スキルは使う機会が来るまで秘密なんだー。だからその時まで待っててね?」
@威高こおり:うーん、残念。その時を楽しみにしてるねー
「うん!」
話がほどよく切れたのを見計らい。
次のモンスターを準備する。
「みうちゃん、次のモンスターの存在を察知したよ! 準備をしよう」
「せっかくお話が楽しくなってきたのに、無粋なモンスターさんもいたもんだね」
「ここはダンジョンだもの。呑気に雑談ばかりしていられる場所ではないのよ?」
「ごめんなさーい」
「怒ってないわ。次からはミスは少なめに、よくみて対処するようにしましょうね」
「はーい」
:尊い
:この中に男が入ってる事実
:見えてないだけでカメラマンしてるからな
:なお、超優秀
:このカメラ、どうやって撮ってるんだ?
:それは確かに謎
俺は事前に要したプラカードをカメラの前に置いた。
:スライムをテイムして天井や壁に張り付かせて撮影してます?
:ふぁーwww
:すんごい技術
:確かにこれならあらゆるアングルで撮れるけどさ
:謎の技術
騒ぎ出すコメント欄。
そして現れたモンスターは縦に4つスライムがくっついた、だるま落としみたいなモンスターだった。