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第27話 上級探索者達は見た!

 みうから異様なコメントが増えている、と言う話を聞き。

 自分以外に誰がこんなことをするのか辺りをつけた俺は、早速当事者に連絡をかけた。


『やぁ陸君。そろそろ連絡をとりつけにくる頃だと思っていたよ』


「やっぱり瑠璃さんが何かしましたね?」


『少し、私の知り合いに紹介しただけだよ。うちの姉さんは彼らに顔が割れてるからね』


 つまり、一緒に戦ってる少女は何者だ、と言う要望が複数来たのだろう。


「困りますよ、一度俺に話を通してくれないと」


 みうに負担がかかる。

 ダンジョンの中では元気だが、病院内では痛みに苦しむ妹の姿。

 それを和らげるための配信であり、元気づけるための数字の上昇なのだ。

 心無いコメントが増えるのは勘弁願いたいものである。


『一応、NGワード、アカウント凍結、即キックバック機能はつけた上でのご案内だよ?』


「そう言うのじゃなくてですね、みうが魔石の価値に疑問を持つ真似はしたくないんです。すごい高評価だったみたいですよ」


『ああ、それか。評価してもダメというのは想定外だったな』


 瑠璃さんはすっとぼける。

 NGワードはほとんどが暴言のみを排除している。

 よもや褒め言葉までNGにしてはみうそのものを褒める時もNGにしてしまうので、対処しようがないという感じであるが。


 俺からしたら極大魔石結晶をNGにしたらいいだけなのでは? と思わなくもない。


「極大魔石結晶はあいつにはただの綺麗な石ころ程度の認識でいて欲しいんです」


『しかし君ね、それは無理があるというものだよ』


 まぁ、薄々そういう感じはしていたが。


「あまりそのことで大事にして欲しくはないんですよね。特に病院内にマスコミが押しかけてくるとか」


『そこは気にしなくていい。うちのクランはマスコミの取材を一切引き受けないと明言してるからね。そして一部の配信はやらせだとも言及している。用意された舞台、用意されたアイテム。手に入れても換金されず、使い回しにされるというネタバラシを開いたら興味なさげに引き下がったよ』


「あれは本物によく似せた偽物であると明言しちゃったんですか?」


『ああ、以前君に言われて作った鑑定書が役に立った』


 どこで何が役に立つかわからんな。

 瑠璃さんはそう言葉を締め括った。


「お兄たん、急にどこかに連絡してどうしたの?」


「少し思い当たる節があって確認してたんだ」


「確認?」


「どうやらうちのチャンネルへ瑠璃さんが余計なおせっかいを焼いたらしい。どうもそのお友達がみうのチャンネルに直接遊びに来てるらしいんだ」


「え! それってすごいことだよ? まだ仮免のあたしの配信になんか来てくれるなんて」


「本当にな。過保護もいいところだ」


「でもそれって、本来なら理衣お姉たんが受け取るはずだったんじゃないの?」


 魔法すごかったし、と締めくくる。

 確かに理衣さんは魔法使いとして一級だろう。

 しかしデメリットの方がデカすぎる。


 ダンジョンに赴きたいタイミングで起きてないことの方がしばしば。

 魔力が尽きれば寝てしまう特性。そして寝たら最後、起きるまで無力。

 お荷物確定になってしまうのが玉に瑕だ。


 それに比べてみうは元気いっぱい。

 ジョブが確定してないのにも関わらず【スラッシュ】を扱えて、使用武器はエストックという変わり種。


 まだ弱いモンスターしか倒せていないが、本来検査で予定が埋まってる病人であるという事実を鑑みれば偉業である。


 ただちょっと、魔石の価値を低く見積もりすぎという点を除けばだが。


「理衣さんもすごいが、それを踏まえた上でお前を見に来てくれたんだ。好意的に受け止めてやれ」


「そっか、うんそうだね。あたしってばAランクに認められちゃうぐらいなんだ!」


 うふふ、と本人が喜んでいるのでヨシ。

 実際はその状態でどうやって瑠璃さんのクランメンバーにありつけたとか、そういう探りを入れて来てるんだろうが、そこまで教えてやる必要もないしな。


「みうは今日の予定は?」


「血液検査とレントゲン、MRIかなー?」


「脳の方はもういいのか?」


「お医者さんがお休みらしいんだよね。他の病院に急患が出たって」


「ありゃりゃ。みうだけを担当してくれたらいいのにな」


「お仕事でやってたらそういうわけにもいかないみたいだよ? わざわざクランに誘致されても、お仕事はお仕事だからね」


「あくまでも派遣の辛いところか」


「あたしのためにわざわざ病院誘致したって聞いた時は驚いたけどね」


「俺もビビった。そこまですんのかって」


「だから、それに報いるためにもあたしは頑張んなきゃって思ってる」


「よーし、頑張れ。兄ちゃんも理衣さんを起こすの頑張ってくるから」


 また魔石切れ起こしてるんだよね、この人。

 30個持って帰って来たのに、2日も持たないとか一体どうなってんだか。

 燃費悪いなんてもんじゃねーぞ?



 ◆◇◆



「と、いうことで。妹が検査してる間にまた潜ります。カメラ持って来てるけど誰かいますか?」


九頭竜:私がいるよ。他に友人も招待した


「ああ、Aランクの?」


九頭竜:厳密にはSランクも含む、だ


 え、聞いてないんですけど?

 まぁいいや。どうせ配信する時点で多少のリスクは考えてた。

 ちょっと上回って来たけど想定内だ。


鶯 谷:初見

蓬 莱:初見

名久井:あの時はすまなかったね

九頭竜:まだまだ来るだろうからそろそろ出発していいよ


 何か初手謝って来てる人いるけど、誰?

 向こうから俺の姿が見えても、こっちから相手の姿が見えないのって普通にきしょいよなぁ。

 名前明かしてる時点でそれなりのリスクは負ってるんだろうけど、マジで誰かわからん。

 それは多分俺が配信者、もとより探索者についてあまりにも興味がないせいかもしれん。世界中で引く手数多の九頭竜プロすら妹に言われてようやくの時点でお察しだが。


「皆さんは俺のジョブがユニークのテイマーであることはご理解できてる感じです?」


九頭竜:そこは私から説明した

鶯 谷:あとは見ながら判断かな

蓬 莱:お手並み拝見と行こうじゃないか

名久井:期待してるよ


「んじゃあ、いっちょ行きますか」


 足の裏からスライムを召喚、モンスター合成で座布団みたいなサイズになり、座りながら移動する。


「テイム、テイム、テイム」


 リスナーが多いみたいなので曲芸みたいな移動方を紹介。

 これ自体のデメリットはほぼない。

 むしろモンスターに格好の餌だと思わせるのが狙いだ。


 狙いをつけて来たやつから片っ端からテイムして、勢力に引き込む。

 弱いテイマーなりの知恵ってやつだね。

 本体を囮にやりたい放題だ。


九頭竜:あら、今日は普通にショートカットしないのね

鶯 谷:何してんの、これ?

蓬 莱:ちょっと理解が追いつかないわ

名久井:よくわからんが、きっとすごいことをしているのだろう


「今日はモンスター合成お披露目会ですね。ちょっと前回のはプロモーションとしてあまりにも不適切だったみたいなので」


 エラー引き起こしすぎちゃったので反省している。

 流石に十層で深淵モンスター沸かせた罪は大きかったようだ。


「スライムとスライムを合わせると何ができると思いますか?」


九頭竜:一度見てるから知ってるわ、ちょっと変わったスライムでしょ?

鶯 谷:まずモンスター合成って何? ってところからだな

蓬 莱:それを聞くのは野暮よ。手の内明かせと聞いて回るつもり?

名久井:テイムできるだけではないと知って改めて驚愕している

釜 谷:スライムはスライムにしかならないんじゃねぇか?

不 動:面白い見解だな、知識欲が湧く!

レニー:答えが知りたいわ、早く見せてちょうだい


「答えは、座布団です」


 俺はよっこいしょ、と座布団から立ち上がりその場から退く。

 そこには座布団に擬態したスライムがモゾモゾと動いている。

 いつの間にかギャラリーが増えてきてる。

 誰か拡散したのか?

 入れるメンバーは限定されてるんだろうけど、思ったよりも多く来て若干ビビり散らかしている俺がいる。


九頭竜:え? 知ってるのと違う。どういうことなの?

鶯 谷:何、だと?

蓬 莱:何でそうなるの?

名久井:は?

釜 谷:はぁあああああ!?

不 動:ふふふ、こちらの予測を超えてくるか、面白い!

レニー:待って、スライムとスライムが座布団に? 意味がわからないわ

ジョン:落ち着け、レニー。これは彼なりのジョークさ

 蓮 :へぇ、面白いねぇ合成って。もっと見せてよ

ウィルバー:見つけた、お兄ちゃん!

九頭竜:誰?



 オーディエンスが最高潮に沸くのを感じながら、俺はその日30個の青の極大魔石結晶を持ち帰った。


 途中でウィルバーに捕捉されたけど、神性じゃんけんであっち向いてホイしながら鬼ごっこしてなんとか振り切った。


 俺のことは覚えていたみたいだけど、俺との約束は忘れているようで、特に母親を起こしてくれというお願い事はされなかった。

 もしかしてあれから自力で召喚した?

 まさかな。

 だったら外に思いっきり被害出てるはずだし。

 単純に忘れてるだけかもしれん。


 見た目はデカイ羊の角が生えたショタなので、遊ぶのはやぶさかではない。

 周囲にかける被害が甚大なのが玉に瑕。


 遊び感覚でスキルや装備を盗んでくるからな。

 テイマーならテイムモンスターを奪ってく。


 即座に手札を補充できるタイプの俺だから相手できるが、一般のパーティだったらすぐさまリソースが尽きて一方的になぶられるオモチャに成り果ててしまうだろう。


 本当に、潜るたびにリスキーになるダンジョンだこと。


『お兄ちゃん、また遊ぼうねー!』


「はいはい。次来るまで大人しく家で待ってろよな!」


『うんー!』


 相手も途中で満足したのか、そんな無邪気な声で見送ってくる。途中でコメント欄が静かになってたけど大丈夫そ?


 ウィルバーに混じって見えない弟くんもたまーに乱入してくるので、看破スキルで覗いちゃうとパニック起こしちゃうんだよね。

 配信って、そういうところで二次被害出るんだよなー。

 まぁ、勝手に寄って来て損害賠償払えとか意味不明だけど。


 そこはうまいことやってもらいますよ、瑠璃さん!



 ◆



「ただいまー」


「おかえり、お兄たん」


「お風呂入ったのか?」


「うん、クランだと予約しなくていいからね」


「おはよー」


 俺の持ち帰った魔石を吸収したのか、のそりと理衣さんが起き出してくる。

 目をこすりながら、ぼやーっとして。

 そのまま何事もなく寝た。

 起きても特に優先してやることがなかったみたいだ。


「お姉たん、寝ちゃったねー」


「そうだな。何か相談したいことがあったのか?」


「あ、うん満腹ポイントが貯まったから、どうしようかなって」


「お、とうとう貯まったか。やっぱり最初の通り『よく食べる子』を取るのか?」


「そう思ってたんだけどね」


 一人の時だったらそれでもよかった。

 けど今は二人だ。理衣さんと相談して決めたかったらしい。

 俺は持ち帰った極大魔石結晶を二個ベッド横に置いて、夕食の準備を始めた。


「お腹すいたー」


「起きたな、ねぼすけめ」


「誰がねぼすけよ。今日は何曜日?」


「土曜」


「一日しか経ってないじゃない。、まぁいいけど」


 そう言いつつも、クロワッサンを頬張り、眠たい頭を起こした。


「それ食べてからでいいからさ、みうの相談に乗ってやってくれ」


「いいわよ」


 ここから先は女子たちの時間だ。

 ここはクランだが、病院でもあるので患者ではない奴はお暇するのだ。


 明日の配信の時、みうが何を選んでくるのか楽しみだ。




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作品フォロー 800達成(チャンネル登録者数)

♡     1500達成(いいね回数)

PV   60000達成(再生回数)



「お兄たん! うちのチャンネルもついに登録者800人だって!」

「やっぱりサブチャンネル効果はすごいな、目に見えて数字の伸びがすごい」

「うん、あたしの頑張りがこうして目に見えて数字に現れるのってなんだか変な気分だよ」

「神様もお前の頑張りに敬意を表したんだな」

「あたし、もう少し頑張ってみようと思うんだ」

「そういえば満腹スキルは何にするのか決めたのか?」

「それはお兄たんにも内緒。配信時にお披露目するね!」

「そっかー、じゃあその日を楽しみにしてる」

「そうしてー」

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