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第23話 寝坊助理衣さん

「お兄たん、おはよう」


「おはようさん。飯作ってきたけど、理衣さんは?」


「まだ寝てるみたい」


 カーテンの向こうから寝息が聞こえてくる。

 ここは妹と理衣さん専用の共同生活する部屋であり、お医者さんが気軽に立ち寄れる病室でもあった。

 そこで俺は専用の料理人として、今日より配属されたわけである。

 病院と繋がってるので、検査後に何と何が食べられるようになったとかの情報が逐一俺に入ってくるのだ。


「ありゃ」


 その為か、食事の栄養配分も考えて作っているが、等の相部屋の住民が寝たきりだという。昨日はしゃいで魔法いっぱい使ってたもんなぁ。


「魔法を使うと眠くなっちゃうのかな?」


「俺は使えないからわからんが」


「あたしも〜」


 兄と妹揃って物理ジョブという、魔職に一切配慮しないスタッフと役者である。

 そこに配属された魔法使いの理衣さん。

 もしかしなくても、これからも苦労をかけるかもしれない。


 急遽魔法使いに理解のあるスタッフが必要になってきたぞ。

 それはそうと飯を渡す。


「今日は何ー?」


「柔らかめのお粥に梅干しペースト、ほんのり油を使ったお茄子の煮浸し、バナナのハーフカットにヨーグルトだ」


「いつも食べてるのと一緒だー」


「兄ちゃん特製だから、多少の隠し味に期待しててくれよな」


「楽しみー」


 食事を始める妹を眺めつつ。

 全く起きてこない理衣さん。

 そういえば、普段はずっと眠りっぱなしと聞いていた。


 昨日は偶然起きていて。

 一回寝れば一週間でも二週間でも眠ってしまうらしい。

 その間のケアは病院側でやってくれるらしいが、これから一緒にみうと同居しようというのに、これから先不安である。


 全く起きて来ないというのも、妙にストレスになるからな。


「俺はあのあと自分の部屋に帰ったけど、理衣さん寝る前はどんな感じだった?」


「んー? えっとねー」


 食事を終えたらそそくさとタブレットを開いてお気に入りの配信をのぞくみう。

 ぽちぽちと画面を弄りながら、俺の質問に答えようとしてくれている。

 プライベートの時間を邪魔するのも悪いと思いつつ、食器を片付けたらすぐに検査だ。

 聞けるうちに聞いておこうという疑問である。


「配信のこととか色々教えてくれたよ。あと、寝起きはすごく不機嫌だって」


「寝つきはいいのにか?」


「昔からだーって、言ってた」


「瑠璃さんとよく喧嘩したんだろうか?」


「布団から投げ飛ばされたって。今でも恨んでるってさ」


 布団ごと持って振り回したりでもしたのか?

 すっぽ抜けた先で首を捻ったらどうするつもりなのだろう。

 まぁ、幼い時のやり取り……あの姉妹なりのスキンシップなのかもしれないが。

 他人がどうこういうものでもあるまい。


「まぁ、いいや。起きたらナースコールするだろうし、その時に俺は飯持ってくから。みうは今日の予定は?」


「午後から検査ー。ダンジョン配信の後は基本検査だね。もう慣れたけど」


「ダンジョン帰りは脳に負担かかるらしいからな。早く治ればいいけど」


「こればっかりは、すぐにどうこうなるもんじゃないって言われたけど、数字は良くなってきてるって言われてるよ」


「そりゃよかった」


 病室を出る頃にはすっかりタブレットに夢中になって、こっちの質問にも返事が返って来なくなるので一旦キッチンに戻ってから自室に戻る。


 そこで次のお出かけ探索でドロップするための魔石の数を確認している時に違和感があった。



「あれ? 青い魔石切らしてたっけ?」


 青の極大魔石結晶。

 それがどこにもない。


 誰かが盗んだとも考えられず、引っ越ししたときにどこかにやってしまっただろうかと瑠璃さんに連絡を取ったことで判明する。

 魔石の無色化。

 それは理衣さんが目覚めた時にも起こった現象なのだとか。


『きっと姉さんが君の魔石のエネルギーを食い潰してしまったのだろうな』


「あの大魔法が無色化のキーだったと?」


『それはわからないが、普段の姉さんは起きていても3時間ほど。魔法を使えばもっと短い起床時間だ。なのに君たちと一緒にいた時はあれだけの魔法を使っておきながら、8時間以上起きていたそうだな』


 つまり、起床時間とイコールして魔石の無色化が進むということか。

 ちなみにこの無色化、価値が0円になる仕掛けだ。

 中に内包されてる魔力が0になるってことだからな。


 そして減った魔石も青い極大魔石結晶のみである。


「もしかして、今も寝っぱなしなのって?」


『君の手元にある青い魔石が消えたのとおそらく何か繋がりがあるだろう。姐さんは寝っぱなしだが。本当に月に一回ぐらいは目を覚ます。そういう時、魔力が漲ってる時が多いんだ』


 つまり、本人の魔力が全回復した時か、それに変わる魔力を回復させる要因=青の魔石が起床に必要不可欠、と。


 これから一緒に組んでいこうという矢先でとんでもない欠陥が見つかったじゃねーか!


 あの人、ただでさえ魔法のコントロール終わってんのに、更に起きてられる時間も少ないのかよ!

 そんな人と次回からコンビ組むとか、今から胃がキリキリしてきたぞ?



「どうするんです? 俺、もう青の魔石のストックないですよ? みうも心配するでしょうし」


『また取ってきたらどうだい?』


 簡単に言うよな、この人も。


「親の遺品をそうポンポン持って来れるわけないんですよ」


『あ、そういうのいいから。もう君のジョブはバレてるんだ。深淵帰還者の空海君』


 まぁ、そりゃそうか。

 クランに誘った時もそのことはバレてたわけだし、今更隠すのもおかしいか。


「とは言ってもですね。今の俺は仮免探索者。探索者学園は自主退学してるんで、深淵があるAランク以上のダンジョンには入れないんですよね」


『あの魔石、どうやって取ったんだい?』


「学園生時代にちょろっと。どうもあの学園のダンジョン、どこかのダンジョンと途中で繋がってて、そこから深淵に行って帰ってきてたんですよね」


『おや、まぁ。理事長はそれを知っているのかい?』


「皮算用してたし、知ってるんじゃないですか? 自主退学したのでそのあとのことは知りませんが」


 多分。きっと。知らんけど。


『わかった。私の方から掛け合って、専用のライセンスを用意させよう』


「やった、クラメンになっててよかったです」


『ただし、公開はしなくていいので配信カメラを持っていくこと。うちのクランメンバーになった以上撮影は義務だよ、空海君』


「えー」


 俺は思いっきり嫌そうな声をあげた。

 なんで俺の切り札を明かす必要があるのか、これがわからない。

 公開以前に記録に残すのも嫌なんだよな。

 弱み握られるみたいで。


『私はまだ君の能力を全て把握していないんだよ。クランメンバーとして抱え込む以上、その能力は知っておきたい。そして、魔石などの買取なんかはこちらで請け負うよ。青の極大魔石結晶は倍値で買い取ろう。もちろん、それ以外も色をつけることをお約束するよ』


 なんだかんだと、理衣さんのことは気にかけているようだ。

 ようやく起きてくれる条件がわかったわけだからな。

 だが、問題はそれの安定確保だろう。

 俺なんかより、瑠璃さんが取りに行った方が早いのにと思わんでもない。


「わかりました。撮影はします。けど、公開するかどうかはそっちに任せます」


『おや、私が公開を躊躇うような内容になると?』


「俺のテイム術は一般のとは違いますからね」


『ダンジョンにパスを通してモンスターを排出させるんだっけか』


「それだけじゃあないんですが、まぁそこは追々。準備ができたら連絡ください」


『わかった。数日以内に用意させよう。それまでに君も準備をしておいてくれたまえ。それまでの姉さんの世話はこちらでする。君はみうちゃんの世話を頼むよ』


「了解でーす」


 それから数時間もせず、連絡がくる。

 明日はみうとの探索ごっこの日。


 相部屋の住民がずっと寝っぱなしでは都合が悪い。

 さて、俺も本腰入れてアタックの準備をしますか。


 本格的な攻略なんて3年ぶりだぜ。



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作品フォロー  600達成(チャンネル登録者数)

PV    40000達成(再生回数)


「お兄たん! チャンネル登録者数が600人になってるよ!」

「そろそろ大台が見えて来たな(意味がわからんぞ? 今回配信してないのに)」

「やっぱりお姉たんと一緒に活動する様になったからかな?」

「そうかもな(みう以外が目立つのは見過ごせんが、本人が喜んでいるのでヨシ!)」

「よろしくなの(寝言)」

「お姉たんよろしくね!」

「……z ZZ」

「寝てら」

「お姉たんはすぐ寝ちゃうよねー」

「もう少し起きてられたらいいのにな」

「次の探索の日、一緒にできたらいいね!」

「そうだな(魔石、ちょっと多めに持って帰るか)」

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