「みんなーこんにちわ! 今をときめくダンジョンアイドル!
:こおりちゃーん
:今日も華麗なる配信劇が幕を上げる!
:今日も華麗なる配信劇が幕を上げる!
:今日も華麗なる配信劇が幕を上げる!
お決まりの挨拶がコメント欄を埋めていく。
それを眺めながら頷き、今日の本題を語っていく。
「さてさて今日は、アーカムシティにあるFランクダンジョンにやってきてます。俗にいう、駆け出し探索者向けダンジョンですね!」
:アーカムは本当にダンジョンの質が低いよね
:昔はぶいぶい言わしてたらしいんだけどな
:それ何年前よ?
:始まりのダンジョンだっけ?
「はい。今はもう随分と廃れてしまいましたが、赤無市といえばダンジョンのメッカでしたねー。こおりが生まれる前の話ですけど、大災害があったみたいですし。探索者学園の授業で習いましたー」
:こおりちゃんはAクラスだっけ?
「そうよー。学園で優秀な成績を収めてても、探索者はFから始まるので、今のうちにやれることってなんだろって思ったら、一緒にステップアップしようってことだったんだー。そんなわけで今週はFランクダンジョン強化月間! ついでにお役立ち情報を発信してくから、みんなアーカイブをチェキだ!」
:俺も、探索者になれるかなぁ?
「なれるかどうかは君次第だよ! 今日は序盤の陥りやすいミスをおさらいしていくから、そこを気をつければ大丈夫! 一緒に探索者になろ? 探索者になってダンジョンで、こおりと握手だ!」
:草
:こおりちゃんの可愛さに釣られてミーハーが押し寄せるぅ?
:その前にダンジョンセンターに弾かれる件
:ダンジョンの入場には15歳以上、ジョブ、またはスキルの発現者のみ
:ほへぇ、入ろうと思って入れる訳やないんやね
そんな雑談を繰り広げてる最中、小さな影がカメラの前を通り過ぎた。
「スライム待てー」
:なんだ今の?
:なんだ今の?
:幼女?
「すいません、配信中に。ほら、みう。配信中は横切っちゃダメって言ったろ?」
続いて大学生くらいの青年が申し訳なさそうに謝罪する。
って、あれって空海くん?
どうしてここに。
確か妹さんが難病で入院してるって。
ではあれが例の妹さん?
にしてはダンジョンで走り回ってるように見えるけど。
自主退学してもう3年。
そっか、妹さん治ったんだ。
良かったぁ。空海くんはこれで晴れて自由になったんだね。
あの時の私は意気地なしで、何も手助けしてあげられなかったけど、今だったら少しは発言力もある。
でもおかしいな。どうして私のこと気づかないんだろ?
あ、この衣装?
ちょっと派手だもんね。
在学中の私は地味な文学少女。メイクもしてるし、今の垢抜けた私と昔の私が繋がらないのか。
でもだからって、無視は傷つくぞ?
こおりは怒りました。ぷんぷんです。
「お姉たん、ごめんなさーい。あ、スライム見つけた! お兄たん、あたし先行ってるね。待てー!」
「では俺たちはこれで。ほら、みう。走ると転ぶぞ?」
「転ばないもーん」
:だれ?
:一般通過者かな?
:幼女、いいね
:ダンジョンに幼女がいる訳ないだろ、いい加減にしろ!
「えー、どうやら同じ時間帯にブッキングした探索者さんのようです。こおりに貸し切る財力はないですからね! 最初は目に余るかもだけど、みんな優しい気持ちで見守ってあげてくださいね!」
今はフォローをしてあげましょうか。良かったですね、発見者が私で。
こおりは心優しき女の子ですから意中の相手が困ることはしないのです。
これが迷惑系だったら悪様に晒されて今頃ネットで誹謗中傷の嵐ですよ?
貸し、一つですね。
:把握
:把握
:把握
:あれ、でもさっきダンジョンの入場は年齢制限あるって
「それなんですけど、実は最近改正があって、15歳以下でもジョブやスキルが発現してたら出入り可能になったっぽいんですよね。今はその試験期間みたいですし、あの子はその権利があるのかもしれませんよ?」
これは私もさっき知ったことだ。
懇意にしてくれるリスナーさんがカンペで教えてくれた。
一人で全てを把握し切るのは難しいけど、配信をやってこうやって人気になったおかげでこう言った手助けをしてくれるようになった。
ちょっと過保護すぎる気がするけど、善意を無碍にはできないしね!
:はえー、人は見た目じゃわかんないか
:幼女すごいねー
:こおりたん賢い
:こおりたんやめえ
:こおりたん、いいね
:さっきの幼女の口癖が移ってて草
「さて、予定はちょっと狂っちゃいましたが、ダンジョンをアタックする上での心構えを一つ! ダンジョンはどんなにランクが低くとも、絶対に油断しちゃダメってことです」
ダンジョンアタック、敷いては探索者は甘い考えでなれるものではない。
今日も過剰気味に注意喚起をしておきましょう。
小銭欲しさで間違った知識を持って入るのは危険ですからね。
そのためのライセンスであり、報酬なのですから。
:はーい
:はーい
:こおり先生質問!
「はい、なんでしょうか?」
:ダンジョンで配信をしたいと思ってるんですけど、初期費用ってどれくらいかかるものなの?
「難しい質問ですねー。しかしこおりは答えましょう。ズバリそれはピンキリです!」
:ピンキリ?
:答えになっとらんぞ
「うん。だって実際には最終的にどのダンジョンを回るかを聞いてないしね。低ランクで命に危険のない配信だったら、カメラはそこまでお金をかけなくていいと思うんですよ」
:確かに
:カメラが高性能になるのは、モンスターから身を守るためやもんな
:結局はその配信者次第ってことね
:一番高いのはカメラって言われてるから
「最悪、ホームビデオのカメラでもいい訳です。その場合は編集も手間ですが、配信はできます。生放送となるとまた難しいですがね」
ダンジョンの中で電化製品は使えない。
これは世界の常識。
ではどうしてダンジョン内で配信ができるのかといえば、それは世界の九頭竜がダンジョンから持ち帰った魔石を電力に置き換え、ダンジョン内でも表世界にネットワークを繋げる技術を確立したからである。
ほんと、これがなかったらいまだに世界中の人はダンジョンにこれほどの興味を示さなかったと思う。
そしてそれがパフォーマンスとして取り上げられるようになったのも、世界の九頭竜の最強姉妹が活躍の場を与えたから。
世はまさに大探索者時代。世界中の国々に探索者学校ができて、人々をダンジョンに送り込んだ。
けれどその時代の幕開けとともに多くの死者を出した。
ダンジョン内でがまだ法整備がなされていなかったことも起因する。
ダンジョンには明確なルールがある。
これを破らないように私は説明を重ねた。
:配信は生放送を予定してます
「だったら高性能のパソコン、集音器、これはマイクですね。他には武器の新調にもお金はかかるので、本当にお金が余ってるぐらい余裕で強い人以外は基本探索配信はお勧めしません。ダンジョンって相当に実力ない限り配信にはとことん向かないコンテンツですからね」
:それはそう
:命がかかってるからな
:あー、小銭稼ぎしかしないのに配信しても意味ないのか
:リスナーが求めてるのは手に汗握るバトルやし
:こおりたんの雑談は別
:可愛いと何やっても映えるよね」
「可愛さは維持をするのにもお金がかかるのですよー。こおりは生まれつきの部分に結構助けられてるので、両親には感謝! 皆さんも両親には感謝して、次はモンスターとの接敵ですよー」
:はーい
:はーい
:はーい
空海くんの妹さんの口癖は、あっという間に私のリスナーたちに伝染していく。
ちょっと困るなー、そういうの。
たんはないよね、たんは。
そんな雑談をしている時、奥の部屋から戦闘音が聞こえてくる。
空海くんたちが戦闘してるのかな?
その様子をカメラが捉え……
「スラッシュ、スラッシュ、そしてスラッシュ! あははは! テンション上がってきたーー!!」
「テイム、テイム、テイム、テイム! モンスター合成マンドレイク! いけ、マンドレイク! ラットを蔦で縛ってしまえ!」
「「「ヂチィイイイイイ!!!」」」
は?
語彙が消失するほどの光景がそこでは展開されていて。
「ナイスお兄たん、トドメのスラーッシュ」
妹さんが助走をつけてから一直線にラットの体をエストックで
それは【スラッシュ】じゃない!
私は心の中で叫んだ。
じゃんけんで口ではグーと言いながらチョキを出すような行為である。
めちゃくちゃだ。めちゃくちゃだけど、二人は楽しそうだった。
久しく忘れていた楽しさが、そこでは展開されていた。
:こおりたんが言った前提条件全部無視してて草
:サポーターが最強ならスキル一本で食ってけるんやなー
:今北産業? ここどこダンジョン?
:アーカムのF、一階層
:なんでマンドレイクいるの? 一瞬インスマスのCと空目したぞ?
:インスマスにいきなり凸する訳ないやん、こおりたんソロよ?
:今回はFランク強化月間だって言ってたで
:マンドレイクはあっちの兄ちゃんのテイムモンスターだよ
:なんだテイムモンスターか
:テイムって強いんすね
:序盤で何をテイムできるかだな
:テイムは強いよ、育て方次第だけど
:序盤? テイム? なんの話
:何って、テイマーってのはモンスターを拾って育てるジョブだぞ?
:あの兄ちゃん、無作為にテイムしては合体させてたぞ?
:合体? なんだそれ
:ちっちゃい子は突剣で【スラッシュ】してたしな
:ダンジョンて自由なんだなー
「これはなかなか強力なライバルの登場ですね!」
:こおりたん大丈夫?
:こおりたんがんばえー
:こおりたん負けないで
本当に、負けられない。
妹さんにつきっきりな空海くんを私に振り向かせる挑戦は、今日この日から始まるのだから。