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第14話 依頼!

 今日は待ちに待った金曜日。

 そう、みうとダンジョンへお出かけの日だった。

 今日は撮影の日じゃないけど、カメラは持参した。

 編集して、使えそうなところは使う予定だと事前に撮影許可をもらう。

 そういうのは家族、兄妹であっても確認は必要だからな。


「準備はできたかー?」


「バッチリ」


「新しいスキルは?」


「まだ1ポイントだよ。最低10ポイント必要なんだよ!」


まぁ、食べるだけで獲得なんてそんな上手い話ないわな。


「じゃあ、今日入れてあと9日頑張んなきゃか」


「早く入手したいなー。色々と考えてるんだよね」


「でも使ったらお腹空くんだろ?」


「お腹が空いたらお兄たんが用意してくれるんだよね?」


 申し訳なんさそうに、それでいて全幅の信頼の笑みを浮かべる。


「任せとけ!」


 二人して駄弁りながらダンジョンセンターへ。

 いつになく人がまばらにあった。

 前回があまりに居なすぎた為、あれが普通と思っていたが、そんなこともないようだ。

 心配するだけ杞憂ってやつだな。


「お兄たん、今日は人が多いね」


「何かあったのかな?」


「おう、みうちゃん。今日はアタックの日かい? そりゃタイミングが悪かったな」


「クマおじちゃん!」


 すっかり顔見知りになった熊谷さんに駆け寄るみう。

 どうやらこちらに駆け出しの探索配信者がきているみたいだった。

 周囲は信者が囲っており、顔見知り以外近づけさせない雰囲気らしい。


 こちらも探索配信者、と思っているだろうみうは一体何を考えるやら。


「配信者だって」


「同業者だね!」


 そらそう思うよな。

 こっちは偽りだって知らないんだから。


「まぁ、今日は配信しないけどな」


 俺はカメラを持ってきてないアピールをする。

 今日はリハビリだ。午前中しか探索できない。

 特に目ぼしい変化もないだろうと軽く考えていた。


「しようよ!」


 しかしみうはこれに猛反発。

 配信者としての血が騒ぐのか、はたまた自分の島を荒らされた気持ちなのか。

 どちらにせよ今日の妹は血の気が多い。

 何かにここまで固執するなんて初めてのことだ。


「配信日は日曜日って決めてるからだーめ。それに九頭竜プロとコラボしてもらえることなんて滅多にないんだぞ? そこら辺の有象無象と比較にならないくらいみうは売れっ子なんだから。目を瞑ってあげなさい」


「やーだー」


 いつからこんなに負けん気が強くなったのか。

 なんにせよ、生きがいを見つけてくれたんなら何よりか。


「しかし、みう。数字数字というがな、人を数字で見るようになっちゃおしまいだぞ? みうだって応援してる配信者さんが、リスナーであるみうの応援を今日は一人しか応援してくれてないとしょんぼりしてたら嫌な気持ちになるだろう?」


「う……それは」


「大事なのは今日はみうのためにこれだけの人が集まってくれた、興味を持ってくれてるってことで、数字だけに囚われてちゃダメなんだ」


「わかった。新しい人が増えてくれるのは嬉しいけど、今まで応援してくれた人にも感謝しなきゃだね!」


「そうだぞ。お店や配信業は客商売だからな。慢心してたらすぐにお客さんはいなくなってしまう。応援する側だって選ぶ権利があるからな。見放されないためにも、媚を売っていくんだ」


「それはやだー」


「まぁ、みうはありのままで十分可愛いからな。そこは兄ちゃんが保証する」


「えへへ」


 煽てやりながら、再度武器を借り受ける。

 レンタルは手入れしなくて済むので楽ちんである。


「今日は依頼の一つでも受けてみるかい? 失敗したら違約金が発生するが」


こすい商売だな」


「何事も経験さ。配信するなら受けないに限るが、今日は配信はないんだろ?」


 どうせまたとんでもない代物を持ってくるつもりだろう? という顔。

 なので違約金というペナルティを負わせることで失敗したらお金が減るというリスクを肌で感じてもらおうとしたのだろう。

 確かにそういう経験はしてこなかった。

 配信上で失敗という負の感情は持たせたくなかったというのもある。


「まぁ、これから稼いでいく上で経験は必要か。簡単な奴をいくつか見積もってくれ」


「あいよ」


「お兄たん、失敗したらお金取られちゃうのに受けて大丈夫なの?」


「何言ってんだ。普通はご飯を食べるのにだってお金は支払うものなんだぞ? 美味しくなかったから払わなくていいなんてことにはなってないんだ」


「うん、納得いかないけど、そうだね」


「本来ダンジョンだって利用料がかかるものなんだ」


「そうなの?」


「ああ。でもそれを撤廃するのが探索者ライセンスでな。これを維持するのにお金がかかるんだ」


「へぇ」


「それがまるまる入場料という形でダンジョンセンターに支払われる。依頼だって、ダンジョンセンター側に回ってきたお仕事なんだ。失敗しちゃったーてへへ。で済むわけはないんだから、違約金がかかるのも仕方がないんだ」


「それって依頼が達成できないとダンジョンセンター側が怒られちゃうから?」


「ああ、そういうことだ。契約の先延ばしをするのに、違約金が発生するんだ。だから依頼を受けるときは慎重にな? ダンジョンセンターにおまかせておけば、今のみうの実力に合った依頼を用意してくれる。けど、全部受ける必要はないからな?」


「そうなの?」


「今日は特に時間がないからな。午前中しかアタックできないのに、午前中で終わらない量の仕事を引き受ける奴はいないだろ?」


「あ、うん」


「まぁそうだな。依頼ってのは数が多い。稼げるやつから、信用を積み上げていくタイプの達成しやすい簡単なものがある。今のみうちゃんは信用を積み上げていくのが大事だ。それで前回までの行動記録を加味して、こんなのはどうかと思ってな」


 熊谷さんが持ち出してくれたのはスライム討伐と、鉱石回収というクエストだった。一度やったことがあるものなので、これならみうにもできるだろう。


 前回も午前中で終わったが、難なくクリアできている。


「スライム10匹と青銅石10個だって。やれるか?」


「違約金は成功報酬の1割だ。これ以下の依頼はないから、無理せずに選んでくれよ?」


「失敗しても100円だ。どうする?」


「やる!」


 みうは二つとも受け取った。

 俺がサインをして、熊谷さんがそれに受付中のスタンプを押す。


 依頼書の別紙を受け取り、それを専用のホルダーに装着する。


「お兄たん、それは?」


「これか? 依頼書がヨレヨレにならないためのものだ。戦闘になると結構荷物を二の次にしてしまうからな。これに入れておけば、この通り」


 それは巻物のように引っ張り出すだけで内容を把握できる筒状のアイテムだった。


「すごい! 探索者っぽい!」


「みうはもう探索者なんだから、こういうのが必要だって覚えておかないとな」


「いろいろ教えてね?」


「つっても、それを重要視するのはよほど難関な依頼を受ける探索者ぐらいだけどな」


「俺は形から入るクチなの!」


「あはは」


「まぁ、みうちゃんが変な知識を間違って覚えるよりかはいいな。この依頼書の別紙の紛失も当然違約金発生条件の一つになるからだ」


「そうなの?」


「ああ。だから用心はすることに越したことはないんだ。学園時代、それを軽視したやつから脱落していったからな。依頼達成は別紙の提出と納品がセットなんだ。納品だけだと、依頼料が入手できなくなるんだよ。査定額が低くなる感じだな」


「依頼は別料金なんだ?」


「依頼の方がダンジョンセンターに納品するより割高なイメージだな」


「緊急依頼の場合はな。普段はそんなことないんだぞー?」


 熊谷さんが必死にアピールする。

 おい、お前。余計なこと言うなという視線で睨みつけてくる。


「まぁ、そんな美味しい依頼は基本取り合いになるので、運良く自分の手元に転がってくる機会は滅多にないわけだ」


「見つかったらラッキーなんだね!」


「そういうこと。今回はこれで我慢しようじゃないか」


「お兄たん、この依頼だって応援の一つなんだから、探索者としては全力を尽くすべきなんじゃないの? 我慢とか言っちゃ悪いよ」


「うん、そうだな。兄ちゃんが間違ってた」


 先ほど数字で人を見るなという教えが、さっそく自分に返ってくる。

 見返りの少ない依頼もまた、依頼だ。


 配信者にとって、リスナーの声が継続を促すきっかけのように。

 探索者にとっての依頼もそうなんじゃないかと教えられてしまったな。


「よし、じゃあ受けた依頼に全力で取り組んでいくとするか!」


「おー!」

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