急に話に割り込んできたナナシに、私は
彼らは教皇聖下が直々に集めた者たちで、出身は庶民から貴族と身分差など関係なく、純粋な実力で編成されている。結成当初は荒くれ騎士団と呼ばれていたそうだが、その悪評を軽く
「ローワンは信用できます。私に戦いの
「なるほど」
ナナシは
「お嬢様。今日ここを出るのであれば、執事よりは護衛として傍に居たほうが自然でしょうか」
レオンハルトの言葉に、私は
「んー。今のところは執事として、近くにいた方が自然ね。公爵令嬢としてロロしか使用人がいないとなれば、彼女の負担が大きくなってしまうし……」
「いえ、彼女はむしろ喜ぶのでは?」
「だな」
なぜかナナシとレオンハルトは、所々で意見が合うようだ。私はその意見に
「そ、そうかしら? まあ、この屋敷を出ても私が皇族である事に変わりはないもの。執事は必要になるわ。護衛役はナナシが買って出てくれたのだもの、レオンハルトは執事のままでお願い」
「そういうことなら、かしこまりました」
レオンハルトの口元が緩んだ。戦闘に関しては好戦的だったので、この提案を受け入れてくれたことに安堵する。
(なによりレオンハルトは魔人族なのだから、戦闘場面は気をつけないと。まあ執事が魔人族だなんて思わないでしょうけど)
「それでお嬢様、他に質問はございませんか?」
思考を巡らせることに集中していたせいか、レオンハルトが近づいたことに全く気付かなかった。顔を
今の彼はやけに
(
なにより真剣に好意を向けられたのは初めてだった。家族、友人としてではなく、もっと違った意味合いでの言葉と想いだったのは、私がそう望んだから都合のいい
「……ねえ、レオンハルト。ナナシには傭兵として雇うに当たって、労働に見合った分の金銭を渡すつもりなの。でも貴方には正直、何を支払えばいいのか分からないわ」
ナナシとの傭兵として仕事を引き受けてもらう際に、金額の提示をした。彼もレオンハルトと同じように、私が気に入ったといって最初金銭は受け取らないと断られた。それから
とにもかくにもレオンハルトも執事として働く以上、労働に対して対価を払いたい。
「では毎日、私の名を呼んでいただけますか?」
「構わないけれど……。対価としては足りないわ」
「そうですね。では熱い
「却下だな」
「それは却下」
私とナナシの声が見事に被った。
「残念。では妥協案として、こちらにサインを頂けますでしょうか?」
「それぐらいなら、いいけ──」
レオンハルトが
私が破り捨てる前にナナシが手に取って速攻で破り捨てていた。
「残念だったな、執事殿」
「いえ。まだいくつも予備がありますので、ご心配には及びません」
(いくつも!?)
「お嬢様、心配しなくとも求婚のことは
「その心配してないのですが……」
むしろ貴方への労働に対する報酬で困っている、と告げても聞いていない。
「お嬢様はキャベンディッシュ家をどうするおつもりなのですか? 家を出ると仰いましたが……」
「……!」
その問いかけにナナシも肩眉が
「もちろん。どのような形であれ
「命は?」
「状況によっては考えている。覚悟もしているわ」
「さようですか」
レオンハルトはにっこりと微笑んでいるが、その笑みはどこか作り物っぽかった。
(討伐の時と雰囲気がやっぱり変わった……?)
「ローワンからも本気で貴女と釣り合うつもりなら、男をあげろと言われましたからね。貴女が十八になった時に、改めて貴女に告白をします」
「な、な、な────ッ!」
かたかたとティーカップを手にしていた手が震えて止まらない。レオンハルトは両手で私の指先とティーカップに触れた。
手の平のぬくもりに、私は心臓がうるさく早鐘を打つ。
「レオンハルト、私の話を聞いていましたか!?」