ドアを開けても現実は変わらない。夢であって欲しかった。何が悲しくて、大の男がくだらない喧嘩を見なければならないのか。
「
「ええ。まあ、今のところ、私はしがない執事です。お嬢様には命と誇りを守っていただき、とても感謝しております。将来的には伴侶として迎えたいと考えておりますが、お嬢様には婚約者もおられるようなので、その男を
「執事と公爵令嬢ではずいぶんと身分さがあるのではないかな? んん?」
「身分差など、どうにでも出来ます。力こそ愛」
「ハハハッ。なに言っているんだろうねこの戦闘狂は、殺すぞ」
「いいですね。これ以上、愛しい人の傍に害虫が増えるのは
(勝手に話が進んでいる。レオンハルトの壮大な計画に関して、私は何も了承していないのだけれど……)
「二人とも何しているのですか!? やめてください!」
「お嬢様。おはようございます」
「いい笑顔で微笑まないでいいから、剣を下げなさい」
「嫌です」
レオンハルトはニッコリとほほ笑むだけで、未だ剣を収めるつもりはないようだ。むしろ力をさらに入れている気がする。
「名前と……愛の言葉をいただきたいのですが?」
「
あからさまにレオンハルトは、
「……仕方ありませんね。貴女には嫌われたくありませんし」
ようやく大剣を手元から消し去ると、壮年の男から離れた。レオンハルトの
「私の使用人がすみません。怪我はありませんか?」
「いやなんともないよ。それに拙者のように身元があやふやな者なら警戒して当然だ」
極東の偉い人なのに、なんと
私は男に歩み寄ると手を差し伸べる。男はどこか戸惑いながらも、差し出した手を掴んでくれた。すでに色々と
(握手してもらえたし、まだ
昨日は気づかなかったが、彼はローワンのような
実に
私はスカートの
「改めて私はアイシャ=キャベンディッシュと申します。極東の方とお見受けしますが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
男は片膝を着いた。その姿勢は騎士にも似ており中々様になっている。
「拙者は
「いえ、そんな……」
帝国の公爵家筆頭のキャベンディッシュ家の近くで、「極東の人間の死体が見つかった」などという情報は、政治的側面においてに交渉材料になりかねない。正確に言えば「身分の高い極東の人間」となるが。
私は自分の母親であるトリシャの名を出すかどうか悩んだが、
「異国の方であれは、どんな
「ハハッ、面白いことをいう姫さんだ。大陸全土での戦争禁止条例が出ているご時世、旅人が一人野垂れ死にしようと大して気にしないと思うぞ」
「……国家間においての戦争は禁止されてしますが、魔物の襲撃が活発化した場合は状況が変わります。それに大事なのは「事実としてあったかどうか」です。経緯はどうあれ亡くなった方が、
黒い髪と同じその漆黒の
「なるほど、なるほど。教皇聖下の救出云々と話されていたのも聞こえていたが、この国も色々と大変なんだな」
どうやら私の状況をある程度は聞いていたようだ。どちらにしても仲間に引き入れるときに、話すつもりだったから手間が
私は説得する内容を頭の中で改めて組み替える。ナナシという男ならどういえばいいのか、その性格を
ここからが、勝負時だと思ったのだが──。