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第13話 聖女との共闘(レオンハルトの視点3)

 最初に救われたのは命。

 次に感情を呼び起こし、魔人族の矜持を思い出させてくれた。


「古の歴史学者たちに思い知らせてやりましょう。今を生きる者たちに、真実を知らせたくはないのですか? 魔人族は魔物と戦うほまれ高い戦士だと、大陸全土に知らしめるチャンスを貴方たちは棒に振って、今日ここで犬死にするのですか?」


 魔人族の誰もが諦めていた想いを汲み取り、言葉にする。


「なら! 今日を生き抜いて本来の栄光を取り戻しましょう! 最終目的は南の領土の奪還! それでどうです? ワクワクしませんか?」


 私だけではなく、魔人族の誰もがその言葉に血をたぎらせ、目を輝かせた。どんな魔法よりも強力な言葉。

 彼女の隣にいたら、次はどんな楽しいことが待っているだろうか。そう思わせてくれる。



 ***



 朝日と共に、魔物が出現する。意味を得た戦いに心が躍った。

 轟音ごうおん

 心地よい殺気。剣戟けんげきに火花が散る。

 土煙と、血と、獣の異臭。


「ハハハハハハッ!」


 笑わずにはいられなかった。森の中を自分の庭かのように駆けて、獲物に飛び掛かる。

 恐れは敵の攻撃を察知し、程よい緊張感は、筋肉に刺激を与えた。

 蛇王バジリスクは地をい、毒を吐いて周囲の森ごと石化させる。


毒拒絶ポイズン・リジェクト


 よく通る声が魔法を編む。

 瞬時に展開される極大魔法は、広範囲に渡り毒そのものを消滅させた。

 戦況はやや優勢。とはいえ騎士団の何名は既に石化していた。石化した瞬間、彼女は戦闘で石化が崩れないように強化魔法と防御魔法を順々にかけていく。その手腕に身惚れつつ──私は彼女が標的にならぬよう敵の目を引きつける。

 稲妻のように周囲を駆け回り、魔物の注意を引き付け──重量級の斬り込み隊アタッカーの攻撃に繋げた。


「クェエエエエエ!」


 怪鳥コカトリスが広範囲で毒を撒き散らす。私はマントで毒を払い、その場に打ち捨てた。次いで蛇王バジリスクのどうぎ払い、上空の怪鳥コカトリスに向けて剣圧を飛ばす。


 轟ッツ!!


「ギャアアア!」

「ガァアアアアアア!!」


 森の上空は怪鳥コカトリスの領域。ドラゴンの翼、蛇の尾も厄介だが一番は目が合うことだ。それだけで相手を石化させてしまう。私の威嚇いかくに多少怯んだが、一気に勝負をかけようと上空から一気に急降下する。

 それに合わせてどろに紛れていた魔物コカドリーユが毒を放つ。


 騎士団と即席の連携は取らず、魔人族は独断専行で戦う。私だけではなく、他の魔人族たちの戦いはいつも以上に過激で苛烈かれつだった。無茶な特攻、防御を捨てた戦いは自殺行為でもあったが、それをあの聖女は全て把握して適度な回復と防御を行う。


(器用というレベルではないな)


 私は稲妻の如く、空を我が物顔で飛ぶ怪鳥コカトリスの両翼を切り結ぶ。鮮血せんけつが雨のように降り注いだ。

「ギ、ギャアアアアアアアア」と怪鳥は耳が痛くなるような奇声を上げる。周囲の木々は脅えるように葉を揺らした。


「耳障りだ」


 私は力任せに大剣をふるい、怪鳥コカトリスを袈裟懸けさがけに切り伏せた。今度は悲鳴をあげる暇もなかっただろう。


「さすが族長」

「やっぱ、身体能力はすさまじいな」


 同族や騎士団の世辞せじなど気にも留めず、彼女に視線を向ける。

 白の外套がいとうを羽織った彼女は後方で全員の動きを見ており、適切な援護支援を行っていた。あまりに視線を注いでいたせいか、彼女は私に気づいた。視線がぶつかると、少女は破顔はがんする。その笑顔に呼吸するのも忘れてしまった。


「レオンハルト、この調子であと二体いけますわよね!」

「もちろんです」


 大きく息を吸い込み、呼吸を整える。

 これらは全て前哨戦ぜんしょうせん

「ここで生き残ろうとしない人たちならいらない」と彼女は断言した。この先に待ち構えている強敵魔物というなの御馳走。

 その上、魔人族の本懐ほんかいを聞き届け、導く者がいるならば──答えは一つだ。


 私たちはバジリスクを蹴散けちらし──勝った。

 魔物討伐完了。

 石化と同時に私の意識は途絶え──予定通りであれば二日後には復活するだろう。しかし、そこには彼女の姿はない。

 たったその事実が、私の熱を下げる。


(ああ、やはり貴女と離れるのは……嫌だな……)

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