「全員、刃を収めてください」
戦っているのが魔物ではなく白銀の騎士団だと気づき、私たちの
「!?」
眩い光に包まれた聖印は二重に連なって見えたが、間違いなく《三女神ブリード》の紋章。しかし私を本当に驚かせたのは、その後だった。
幻術が解けたとはいえ、私が振りかざした一撃はすでに自分では止められない。
唐突に割って入った少女。
高速の刃は、少女の
そう誰もが見えたのだが、そうはならなかった。
ギィイイイン!
火花が美しく散る。
私の
一つ砕かれても、次の障壁が刃の威力を削り時間を稼ぐ。そうやって新たな障壁が出現しては砕かれ──最後には刃を弾いたのだ。
戦陣に突っ込んでくる度胸。
何より
それはもう私の知る弱者ではなかった。強く気高い瞳に、勇敢さを兼ね備えた戦乙女。
それを見て思い出すのは、叔父を愛した女騎士だ。
(美しい……)
気づけば、聖女を目で追っていた。
何度か顔を合わせたが、名も知らぬ子ども。
強さこそ魔人族にとって全て。強さを証明した者に対して敬意を称するのは当然であり、それが掟でもあった。
私は夜も空けないうちに、彼女の眠るテントに向かった。
今すぐにでも彼女に会いたい。その衝動が抑えられないのだ。この形容しがたい感情はなんなのだろう。
(見張りには悪いが、少し眠っていてもらおう)
騎士団の見張りを気絶させたのち、
(……未遂とはいえ彼女を殺しかけたのは事実。怯えられたら、多少なりとも傷ついただろう。……ン? 傷つく……私が?)
「レオンハルト!?」
名を呼ばれたその瞬間、世界が華やいだ。心臓が高鳴り、全身が一気に熱くなる。
彼女の言動に、私の感情は振り回されて暴走した。
(私は彼女の名前など、憶えてもいないというのに……)
どう接すればいいか分からないものの、体は正直なようで、さりげなく彼女の頬に触れた。温かい肌のぬくもりに鼓動が早まる。
(小動物のような愛らしさ、抱きしめたらどんな反応をするのだろう。傍に居たら新しい一面が見れるかもしれない)
胸の奥から形容しがたい感情が溢れ出す。温もりがこんなにも心地よい。彼女とは片時も離れたくない──そんな気持ちだけが先走ってしまう。
「レオンハルト、今は帝国暦何年かわかりますか?」
「答えたら婚姻の儀を──」
「しません」
素っ気なく返す言葉、その表情も面白くてついからかってしまう。
「そうですね。聖女様はまだ成人していなのですから、いきなり婚儀では戸惑っているのでしょう。でしたら添い寝から──」
「私ではなく他の方に頼んでは? その顔ですのでモテるでしょう」
「魔人族は強さこそが全てです。強さこそ愛」
自分でそう言いつつ、妙に引っかかった。
貴女の強さは力とは異なる。けれど私を魅了して──心をかき乱す。一方的な気持ちではなく、傍に居て欲しいと願ってしまう。
この感情を何というのだろう?
強敵を前にした
いつだったか、若草色の草原の上で寝ころんだ時の心地よさ。陽だまりの温かさに似た、緩やかで優しいなにか。
戦いとは真逆の穏やかな日々。
忘れてしまった、置き去りにしてしまった想い。戦うだけではなかった生き方。
大地と共に生き、風となって草原を駆け、命を尊び、大地を巡り、笑いあった。気づかぬうちに落としてきた全てを、彼女が抱きかかえて私の元に現れたのだ。
命を救われ、魂を呼び戻され──気づけば私は口元が緩んでいた。
彼女は私との会話よりも
愛しい人。
何度も口にしていたことに自分でも驚いた。
その言葉はストンと
彼女でないとダメなのだ。
なんと
そう考える自分がなんとも女々しい。
彼女への想いは急速に育ち──その果てに私は絶望することとなる。