「それなら副団長の言うように、潜伏先は中立国リーベの方がいいだろうな」と、騎士団の一人、魔法剣士のルーが意見を出す。
「ドラーク竜王国は国境を越える前に、常人だと半数が死ぬ。仲介人がいれば別だが……」
「今からは無理だろう。魔法国アストラはどうだ?」
「遠すぎるだろう。中立国と共和国を越えていくメリットがない」と魔人族の一人、牛の角を生やした彼女が、言い切った。
「確かに」
騎士団と魔人族の何人かは
「では、このまま帝国領内に潜伏するのは?」
「自国にいては、帝国軍の包囲網に引っかかるのでは?」と空気を読みそうな魔人族の青年も話に加わった。いつの間にか輪になって彼らはそれぞれに意見を出していく。
うん、いい傾向のようだ。できれば私もその輪に入りたいのだけれど、レオンハルトは私を離す気はない……ないわね。
チラリと彼の横顔を覗いてみた。彼も騎士団と魔人族が話し合っている姿を、
「商売をするのはどうだ? いろんな国を旅するのは、情報収集になるだろう」
「面白いな。しかし体が
「それなら冒険者ギルドに、登録するのはどうだ?」
「あー
「中立国リーベ周辺、特に国境付近では魔物討伐に賞金をかけているそうだ。確かその制度を可決させたのは、
「そりゃあ凄いな」
「よし、なら中立国リーベで決まりだ」
「そうなってくると問題は、魔人族の我らが国を越えられるかだな。この地を離れるには許可がいる」
「許可?」とイリーナが
「ああ。皇族であり聖職者である者の許可がなければ、魔人族は帝国領地から出られないらしい」
その話を聞いて私は「ん?」と小首を傾げた。
皇族で、聖職者でもある人物。
「そんな都合のいい人間なんているわけ──」と騎士団の全員が瞬時に気づき、私へと視線を向けた。うん、私も気づいた。
母が皇族で、聖職者──聖女である私ならばその条件に当てはまる。傍に居たレオンハルトは「やはり貴女は私の光であり、愛しの君」と熱い
パンパン、とローワンが手を叩いてみなの会話を打ち切る。
「結論は出たようだな」
騎士団たちは頷き、すぐさま迎撃の準備を進めていた。
私は魔人族たちに他国の地を踏む事を「許可」した。しかし言葉だけだとなんとも頼りない。
(教皇聖下から
私はロザリオと真珠のネックレスをポケットから取り出すと、千切って真珠一粒一粒を魔人族一人一人に手渡した。お守り、いや気休めのようなものだが、無いよりは幾分かマシだろう。もし国を越えることが出来なかった場合、魔人族は辺境の地で身を隠してもらうことになった。というのもローワンの親族に、辺境に領土を持っている者がいるらしい。
すべての準備を終え──果ての山脈から朝日が顔を出す。それと同時に、殺気が満ちる。
「アイシャ、幻狼騎士団はお前に賭ける。いつものように、好きなようにやるといい」
「……はい!」
剣を構えたローワンは、武装を整えていなかったが最高に格好いい騎士団長様だ。
魔物の雄たけびと共に、戦いの
***
結果から言って私の
『早朝、霧が濃くなり連携もとれぬまま、魔物の襲撃によって幻狼騎士団は石化により全滅。
女神の加護が強かった聖女である
──というのが領主および、帝国軍が提出した報告書の内容だ。
教会の上層部はそれを受けて、私を保護して教会本部へと
上層部が「騎士団と魔人族は共闘していた」という噂よりも先に、「幻狼騎士団は聖女を魔物から守って死んだ」という情報が帝国中に広がった。
なぜ教会上層部よりも早く情報が流れたのか?
それは幻狼騎士団の使っていた
元々貴族、庶民を含めた幻狼騎士団は、帝国で人気があった。故に今回の一件で、一気に《悲嘆の英雄》として人々の心を掴んだ。
これによって魔人族と騎士団が内通していたという噂を
事実がどうであれ情報の出し方次第で、一つの武器になりえる。それこそが私とローワンたち幻狼騎士団の反撃の
そして──教会本部に保護された私は、牢獄に放り込まれていた。
そう、牢獄に。