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第7話 運命を変える奇策

 ローワンは冗談っぽい口調だが、先ほどまでと雰囲気がまるで違う。それに対してレオンハルトが口をはさんだ。


「……そこの人間。なぜ私の愛しい人に秘策を尋ねる? 彼女は作戦参謀さくせんさんぼうなのか?」

「アイシャは未来視が出来るので、参謀のようなことを任せているだけだ。なにか問題でも?」

「いいや」

(レオンハルトって、私以外だと露骨ろこつに態度が違うのだけれど……! 誰かいさめる人いないの!?)


 集まった魔人族に視線を送る。まずは空気を読めそうな好青年。鹿の角が特徴的だ。彼と視線が合うと顔を真っ青にして、ソッポを向かれてしまった。失敗。

 異性だとダメなのかと、牛の角と栗色の長い髪が特徴の美女へと視線を向ける。──が頬を赤らめて終了。なんで?

 うん、同族でレオンハルトを止められる人はいなそうだ。ふとレオンハルトと目が合ったので「体を離してほしい」と一応目でうったえてみたが、極上の笑みを返された。違うそうじゃない。


「アイシャ。話が逸れてしまったが、続けてくれ」

「わかったわ」

「……このまま撤退てったいした場合、職務放棄として処断されて騎士団は壊滅。帝国軍とのもめ事も結末は同じです」

「我らの魔人族は、恩人である貴女にどこまでもお供しましょう」

「──と、魔人族の彼らは戦うことを考えているので、このまま魔物と戦い──騎士団も含めて、


 全員に衝撃が走った。表面上の言葉だけを受け取るなら、「死ね」と言っているようなものだ。

「石化か」とレオンハルトは戦いを前に、高揚しているようだ。彼以外の魔人族は何か言いたそうな顔しているが、騎士団の全員は私の説明を待っていてくれた。


「ここで重要なのは魔人族、騎士団共に。そう教会の上層部に印象付ける事です」

「確かに全員が捕まるのは最悪ですが、石化する必要はあるとは思えないけど?」


 イリーナの疑問に私は頷いた。


「騎士団と魔人族が数人捕虜ほりょとなった段階で、事実はどうあれ「共闘していた」とでっちあげるのは簡単なのです。領主と帝国兵の証言は有力なものとなるでしょう。それを封じるためにも石化による全滅。これによって、騎士団と魔人族が共闘していたという事実そのものを消し去る必要があります」

「全滅というなら、仮死状態かしじょうたいというのはダメ?」

「死体の回収は可能でしょう。しかし石化の場合、魔素の濃度が高いため瘴気しょうきと毒が周辺に色濃く残ります。即座に撤退しなければ帝国軍も甚大じんだいな被害が出ますからね。そんな状態で帝国軍は、証拠のためだけに石化した像を持ち運ぶと思いますか?」

「だから回収されにくい、というわけね」

「はい。今回の魔物は石化や毒を使う魔物たちですので、使うなら都合がいいのです。それに本人たちを連行しなければ信憑性しんぴょうせいも薄いですし、、騒ぎ立ててもせいぜい噂程度で収まるかと」


 予言書には今回襲撃する魔物を放置した場合、のちのち帝国の三分の一が崩壊すると書かれていた。だからこそ、魔物討伐は必須。

 今回こそは全員で生き残る。そう強く思い、私は言葉を紡ぐ。


「補足しますが石化を解除する場合、万能薬エリクサーが必要です。生成できる錬金術師は帝国軍にいないでしょう。魔法による解除の場合も教皇クラスでないと、この人数は不可能です」

「聖女アイシャなら?」


 さすがはローワン。私は首肯する。

 今の私は過去から戻った時に特殊能力エクストラ・スキルだけではなく、多重魔法を行使することが可能となった。それをこの場でお披露目ひろめをする。


「《|耐性《レジスト》》、《|保護《プロテクト》》、《|逆行回復《リタイムキュア》》、《|白き光の恩寵《ホーリー・グレイス》》」


 白い光が円を描き、幾何学模様きかがくもようの魔法円を描く。幻想的で儚くも美しい光が一瞬で弾け、それらの残滓ざんしが舞う。弾けた光は、ローワンたち騎士団とレオンハルトたち魔人族の体に吸い込まれて消えた。


「多重魔法! アイシャいつの間にそんな魔法を覚えたの? すごいわね!」

「そ、それは……レオンハルトの一撃を防いだ時に、かなりの経験値を獲得したんです」


 嘘だけれど、しれっと答えた。

 扱える能力が増えた理由は「死に戻りしたこと」だと思うが、さすがに言えなかった。


「魔人族の方々は石化するまでの間、好きに暴れてください。魔法による後方支援は私が行います」

「それは心強い。頼りにしていますよ、私の聖女」


 レオンハルトを含めた魔人族は快諾した。彼らは戦えるその瞬間まで命を燃やす種族だ。だからこそ次の言葉で釘を刺しておかねばならない。


「ただし石化が始まったら、必ず動かないで石になってくださいね」

「なぜ?」

「そのまま暴れていると、石化した部分に亀裂きれつやひびが入って砕けてしまうかもしれません。その場合、正しく石化が解けなくなる可能性があります」

「それは出来ないですね。目の前に敵が居るならどちらかが死ぬまで私たちは止まらない。そういう種族だと知っているでしょう?」


 ここぞとばかりに言い切った。なにが「生きる意味が見いだせない」だ。戦いになると本当にスイッチが切り替わる。破滅的な美しさで微笑んだレオンハルトに、私は笑みを返す。

 内心、腹腸はらわたが煮えたぎる思いだったが堪えた。


(魔人族はそういう方々だからこそ、教会の上層部は利用することにしたのでしょうね。戦闘狂なら、戦さ場を途中退場するつもりはない。けれど教会側は魔人族の戦いを、その生き方を直に触れた訳じゃない。それなら、私にも勝算はある)


 教会が戦いの場を与えるなら、私は──を彼らに提案しよう。選ぶかどうかは彼ら次第だけれど。


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